サンケイスポーツでは、体操のNHK杯で優勝し、東京五輪代表に内定した村上茉愛(24)=日体ク=の特集を数多く展開してきた。当時の記事を紹介する。(年齢、肩書等は掲載当時のまま)。

■生まれ 1996(平成8)年8月5日。東京都出身。

■池谷門下生 母・英子さんに勧められ、3歳のときに池谷幸雄体操倶楽部で競技を始める。東京・明星高から日体大に進み、日体ク所属。

■実績 2017年世界選手権の種目別床運動で金メダル。18年世界選手権の個人総合で銀メダル。いずれも日本女子初の快挙。

■元子役 約600人のオーディションを勝ち抜き、阿川佐和子原作、深田恭子主演で05年に放送されたTBSドラマ「ウメ子」に出演。

■好きなタイプ 物静かな人。「私は『何でもやってみよう』とガツガツしてしまう。それを抑えてくれる、性格が真逆でおとなしい人がいい」。

■ファッションのこだわり かわいさより格好良さ。フリフリのスカートは履かない。

■脚力 持ち前のバネを生かした跳躍から〝ゴムまり娘〟の愛称を持つ。「男子よりも太い」というふくらはぎがパワーを生み出す。

■自分を震い立たせるときに聴く曲 NEWSの「フルスイング」。高橋優の「虹」。

■サイズ 148センチ、48キロ。

2020年東京五輪開幕まで、12日で500日。出身大学別最多62人の夏季五輪メダリストを輩出している日体大とコラボレーションした長期連載の第14回は、昨年開かれた体操の世界選手権女子個人総合で日本勢初の銀メダルを獲得した村上茉愛(まい、22)を特集する。15日の卒業式を前に4年間の思いをつづった手記「変わることが出来た4年間」を本紙に寄せた。瀬尾京子監督(46)から学んだ継続することの重要性を胸に、東京五輪での表彰台を誓った。(取材構成・鈴木智紘)

■3歳で競技を始め苦労知らずに成長

絶対に体操をやめようと思っていた。大学入学当初のことだ。練習や体重管理の辛さから、4年間で競技から離れたい気持ちが一番にあった。卒業の1年半後に東京五輪は訪れるけど、まだ時間は残されている。いずれは指導者になれればいい。そんなふうに考えていた。

3歳で競技を始めた。昔から、言われたらすぐにできるタイプだった。小学6年のとき。得意の床運動でH難度の大技シリバスを、試合で初めて決めた。多少調子が悪くても本番になれば力は出た。継続することは苦手で、まるで苦労を知らなかった。

大学に入学して間もない2015年4月27日。体操への向き合い方が変わったのは、21位と惨敗した全日本選手権決勝の翌日だった。床運動ではシリバスの着地に失敗。勝てる訳がないと、最後の2回宙返りは1回にした。投げやりな態度を叱咤(しった)してくださった瀬尾先生の言葉が、胸に突き刺さった。

「日体大生として、日本代表を目指す選手として、恥ずかしい。あなたには、続けることが大切なんじゃないの」

体操競技館にある研究室で、話に耳を傾け続けた。1時間、いや2時間だったかもしれない。涙が止まらなかった。日体大にはトレーナーや指導の役割を担う学生もいる。瀬尾先生の一言で、仲間の支えを裏切る行為だったと思い知った。

当時は体調不良を口実に、練習に行かない日もあった。体重管理の意識も甘く、入学当初はベストの47キロ前半から程遠い52キロ。この全日本選手権を迎える約1週間前は、設定体重の48キロを2キロ超えていた。食事を控え、走って汗を出して大会までに絞ったけど、練習で追い込めば落ちるだろうという考えは甘かった。

100グラムも体重を増やせないと、コップ1杯の水を飲まずに半分で我慢したこともあったけど、今ではコントロールできるようになってきた。1日で10回や15回、体重を計るのは当たり前だ。

■リオ五輪経験して「体操をやりたい」

2016年リオデジャネイロ五輪を経験しなければ、今頃引退していたかもしれない。団体総合は48年ぶりの4位。表彰台に立ったアメリカ、ロシア、中国の選手を見て、うらやましかったのと同時に、自分がもう少し強ければ勝てたのかもしれないと悔しかった。

恥ずかしい話だけど、このとき競技人生で初めて自分の意志で体操をやりたいと思った。日本の先頭に立ってメダルへ導きたい。東京五輪も目指したい。そう思うと、いても立ってもいられず、帰国した日には器具に向かっていた。

日体大での4年間で継続することの重要性を一番に学んだ。1年生の頃は得意の跳馬や床運動ばかり練習していたけど、今は苦手の段違い平行棒と平均台を何より強化したい。この2種目だけで練習が終わる日もある。

■向上心持って練習 楽しくて仕方ない

かつては言われるがままだった練習も、向上心を持つ今は楽しくて仕方ない。「この技をやりたい。演技構成に入れてみたい」。常にそう思っている。東京五輪では、個人総合と種目別床運動でメダルを取って当然。次こそは団体総合で表彰台に立ちたい。

競技への姿勢が180度変わったのは、あの日の瀬尾先生の言葉があったから。先生は言ってくれた。「人は4年間でこんなにも変われるのね」と。継続は力なりだ。(日体大体操競技部)

■日体大・瀬尾京子監督と二人三脚

村上を4年間指導してきた瀬尾監督は、体重管理がままならずに入部してきた教え子を「今とは別人。体操選手を終えて1年たったかのような、解放された体形だった」と言い表す。21位に沈んだ1年時の全日本選手権後には、日本代表の強化スタッフから「村上選手は終わった」と声が挙がったほどだった。

1992年バルセロナ五輪代表でもある瀬尾監督が、村上にたびたび掛けてきた言葉は、「いつでもできると思わない方がいい」、そして「コンスタントに練習しなさい」の2つ。今では「自分なりにフリーの練習日の使い方を考え、最低限(苦手の)平均台の演技は通したりしている」と目を細める。

東京五輪の個人総合で表彰台に立つには、苦手とする段違い平行棒の強化は特に欠かせないという。「何でもいいからメダルを取らせてあげたい。それが最大の目標」。これからも、まな弟子と二人三脚で歩む。

■村上の今後

4月以降も引き続き日体大を拠点に競技を続け、これまで同様に瀬尾監督に師事する。スポンサー契約を結ぶイタリア製熟睡寝具ブランド「マニフレックス」などの支援を受けながら活動する。次戦は4月の全日本選手権(26日開幕、高崎)で4連覇を狙う。

■体操・東京五輪への道

出場枠は男女ともに98人。昨年の世界選手権の団体総合で3位までに与えられ、銅メダルの男子は枠を得たが、6位の女子は逃した。今年の世界選手権で、既に枠を得ている国・地域を除き、上位9チームに与えられる。団体総合は1チーム4人。団体総合で逃した場合は個人総合や種目別で得られる。個人総合や種目別のW杯シリーズなどの成績上位で個人の出場枠を手にすることもできる。



体操女子で東京五輪ヒロイン候補の村上茉愛(まい)=日体ク=は、寄る年波に負けじと来夏の舞台を目指している。10代でピークを迎える選手もいる競技において、ベテランといえる24歳。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延びた強化期間に、どれほど成長する余地があるのか。シーズンの初戦、全日本シニア選手権(22日、高崎アリーナ)を前に、トレーナーの宮武誠さん(48)の証言も基に探った。(取材構成・鈴木智紘)

■ピークは10代

10代の頃とは違う。風呂上がりのストレッチでは入念に全身をほぐす。最低8時間は睡眠を取る。競技を意識して過ごす余暇は少なかったという村上が、体と対話する毎日を送っている。

「(今は)体操のことを一日考える生活です」

8月5日で24歳になった。10代でピークを迎える選手もいる女子においてベテランとされる。「休んだ次の日は動くけど、何日も続くとへこたれてくることもある。東京は地元で自国開催だから、こだわって現役を続けています」。1年延期された五輪を目指し、若くはない体に鞭を打つ。

昨春、骨盤の仙骨と腸骨の間にある仙腸関節を痛めた。一時は歩くのもままならず、世界選手権の代表から外れて涙した。過去にもあった腰痛とは異なり、競技人生で初めて負傷した部位。失意を機に、いすの座り方をはじめとした日常の動きから見直し、伸びしろを見いだした。

■ゴムまり+α

ゴムまりのように弾むばねが持ち味。瞬発力にたける一方、技を実施する際に腹部が力みがちという。「それで(体が)ぎゅっと縮まっちゃうから腰が動かせなくて、負荷が大きくなって痛くなるんです」。改善点は全身の連動性。体幹を軸に、肩甲骨や骨盤も連なるように動かそうと試みている。

「連動性が高まるとメリハリある動きに見えます。細かい表現もできるようになる。(力が)落ちている感じは全くない。練習させてあげられれば、どんどん伸びていく」と宮武トレーナー。村上が小学生のときからサポートし、今も週に1度は母校の日体大に足を運んでケアしている。10代後半の減量苦も見てきた。「仕事は楽になりました」。教え子の自己管理能力は年々伸びていると目を細める。

村上が重視するのは腰痛対策の運動療法「ドローイン」。腹部のインナーマッスルにあたり、コルセットのような役割を果たす腹横筋を鍛える。メニューの一つが腹式呼吸。あおむけに寝て鼻で息を吸い、ろうそくを消すようにゆっくり口から吐く。体の背面にも圧を加える意識を持つことで体幹が強化され、骨盤の操作性も上がるという。

■背骨一本一本

かつては練習開始20分前から準備運動を始めたが、今は1時間前から始動。四つんばいの状態で胸を丸めては反る「キャット&ドッグ」など、連動性を高めるためのメニューは約10種類にも及ぶ。「背骨一本一本を動かす」ほどの意識で体と向き合っている。

これまで跳馬では「伸身ユルチェンコ2回ひねり」を跳んできた。五輪に向け、より難度が高い「チュソビチナ」に挑戦するつもりだ。22日の全日本シニア選手権がコロナ禍で遅れたシーズンの初戦。練習できなかった期間は約3カ月に及んだが、1カ月で元の状態を取り戻せた実感がある。

「それは年齢を積んできているから。若い子たちよりも頭を使ってできる。大人らしい演技、ベテランと言ってもらえる演技をしたい」。向上心がある限り、新芽は伸びる。

■メダルへ攻める

日体大体操競技部出身の宮武トレーナーは、東京・小平市の「みやたけ鍼灸整骨院」で院長を務める。女子で2012年ロンドン五輪に25歳で臨んだ田中理恵(現東京五輪・パラリンピック組織委員会理事)も支えた。当時、満身創痍(そうい)だった田中に比べ、村上の状態は数段良いという。「腰さえもてば、もっと攻めたことができる。可能性はある」と期待した。


東京五輪開幕まで14日で100日。出身大学別で夏季五輪最多のメダリスト62人を輩出している日体大とコラボレーションした長期連載の第29回は、体操ニッポン女子のエースを担う村上茉愛(まい、24)=日体ク=の床運動を掘り下げる。2017年の世界選手権で種目別の金メダルに輝いた得意種目。集大成と位置付ける五輪の表彰台を目指し、唯一無二の演目を作り上げた。(取材構成・鈴木智紘)

■明快ビート

勝負の演目には、幾多の心が宿る。努力と努力が重なり、村上の床運動は生まれ変わった。

「世界に1個しかない曲を作ってもらえてうれしいです。自分にしかできない床をやりたい」

2017年の世界選手権で日本勢初の金メダルに輝いた得意種目。持ち味の力強さをこれまで以上に表現するため、ヒップホップを取り入れた。冬から春にかけて作り直した90秒の演技には、こだわりが詰まっている。

複数の曲を組み合わせたオリジナル作。その一つが1980年代後半から90年代前半にかけて流行した「ニュー・ジャック・スウィング」というダンス音楽だ。特徴は明快なビート。米国のボビー・ブラウンが代表的な歌手として知られ、ブルーノ・マーズが近年オマージュをささげている。

■徹夜で編集

曲選びは日体大の瀬尾京子監督(48)=顔写真=主体で進む。競技水準の高い選手には、それぞれに合った曲を用意してきた。ストックを増やすため、音楽ダウンロードサイトのチェックを欠かさない。フィギュアスケートのテレビ中継を見て、使用曲を参考にすることもあるという。

編集ソフトを使い、音の過不足を調節する役割も担う。「曲を探すのが一番大変ですね。(他の選手と)絶対に重なりたくない。いつも頭にあるのは茉愛らしさです」。教え子のかつての勝負曲の中には、徹夜で編集に打ち込んだものもある。

日体大体操競技部OGで元世界選手権代表の山中陽子さん(51)が振付師を担った。女性アクロバットダンスカンパニー「G―Rockets(ジーロケッツ)」に所属。KinKi Kidsの堂本光一が主演するミュージカル「Endless SHOCK」の見どころとして知られるフライングの振り付けをはじめ、数多くの舞台で才能を発揮している。

今回のこだわりの一つが「緩急」。肩を揺らしながら力を入れ、瞬時に脱力する動きで強弱を表現した。「(曲が)バックミュージックになってしまう人も多いけど、茉愛ちゃんは音がちゃんと聞けている。すごく耳がいい」。弾むリズムに乗った変幻自在のステップでも観衆を魅了する。

■池田イズム

山中さんは日体大の大先輩にあたる池田敬子さん(87)を師と仰ぐ。54年の世界選手権で平均台を制し、日本女子として初めて世界一となった第一人者だ。長らく師事し、床運動は徹底的に踊って技と振り付けを同時に鍛え上げた。

「茉愛ちゃんも『こんなに踊ったのは初めてかも』って。池田イズムは完璧に引き継がれています。先生は天才的な振り付けの仕方でした。体操で恩返しするなら、振り付けだけはやっていこうと決めているんです」と言葉に熱がこもる。

東京五輪代表選考会を兼ねる全日本選手権(高崎アリーナ)が15日から始まる。「時間をかけて作ってもらったからこそ結果を残さないと。皆さんが(勝利を)つかんでほしいと思っている。ここからの100日は大切にしたい」と村上。体操ニッポンのバトンを継承する唯一無二の舞いで、りりしくフロアを彩る。

■女子の床運動

12メートル四方のフロアで演じる。時間は90秒以内で、男子と異なり曲を使用。アクロバット技にジャンプやターンを組み合わせて構成する。村上はH難度の大技「シリバス」を組み込む。リオデジャネイロ五輪でこの種目を含む4冠に輝いたシモーン・バイルス(24)=米国=が金メダルのライバル。

■体操女子・東京五輪への道

4人の団体総合メンバーは、全日本選手権の得点を持ち点に個人総合で争うNHK杯(5月15、16日・長野市ビッグハット)の上位3人がまず決定。4人目は日本協会の強化本部長推薦を優先。該当者なしと判断した場合、NHK杯上位8人の中でチームを組んだときに得点が最大になる選手を選ぶ。種目別で争う個人枠は最大2。全日本種目別選手権(6月5、6日、高崎アリーナ)までの選考会の結果で決める。

■内村、白井ら日体大OB

日体大出身の男子では、2016年リオデジャネイロ五輪で個人総合と団体総合の2冠を飾った内村航平(ジョイカル)が種目別の鉄棒に絞り、最大2枠の個人枠で東京五輪代表入りを目指す。内村とともにリオ五輪の団体総合を制した白井健三(日体大助教)、19年世界選手権代表の神本雄也(コナミスポーツ)は4人の団体総合メンバー入りを狙う。