サンケイスポーツでは、東京五輪柔道女子52キロ級代表で、2018、19年世界選手権女王の阿部詩(うた、20)=日体大=の特集を数多く展開してきた。当時の記事を紹介する。(年齢、肩書等は掲載当時のまま)。
■生まれ 2000(平成12)年7月14日。神戸市出身。
■競技歴 5歳の時、地元「兵庫少年こだま会」で柔道を始める。兵庫・夙川学院中(現・夙川中)で15年に全国中学校体育大会優勝。16年夙川学院高(現・夙川高)の運動部の女子が集まったスポーツクラス「グローバルアスリートコース」に進学。17年は全国高校総体、全国高校選手権を制して2冠。同年世界ジュニア優勝。
■シニア大会 シニア初の国際大会、16年12月のグランドスラム(GS)東京大会は準優勝。17年2月のグランプリ(GP)デュッセルドルフ大会で主要国際大会の最年少優勝(16歳225日)を記録。昨年の世界選手権は18歳2カ月で初出場V。日本女子では1993年大会の48キロ級を18歳0カ月で制した谷亮子(旧姓田村)に次ぐ若さでの頂点。19年の世界選手権で2連覇。
■対海外勢に勝1敗 16年から出るジュニア大会も含め、海外勢には61勝1敗(不戦勝含む)。19年11月GS大阪大会決勝で、唯一負けたフランス五輪代表のアマンディーヌ・ブシャールにも20年2月のGSデュッセルドルフ大会決勝でリベンジ。GSは通算6勝。
■リオ五輪 阿部は全国高校総体で1回戦負けを喫し、どん底に突き落とされた時期。優勝して歓喜するケルメンディを見て「この人が優勝したんや」と思った程度だったという。
■恩師・兵庫少年こだま会の高田幸博監督の評価 「天真爛漫(らんまん)。コミュニケーションをとりながら頑張っていくタイプ。めそめそ泣くようなことはなかった」。
■夙川学院高(現夙川高)などに指導を受けた松本純一郎さんの評価 「自分で考えてできる子。謙虚で常に練習をやり続ける。試合で負けた課題は克服する」。
■恩師・日体大の山本洋祐柔道部総監督の評価 「(稽古で)追い込んで自信をつけていくタイプ。(けがのリスクなども考えて)練習をやりすぎないように、逆に止めないといけない」。
■ゲン担ぎ 試合のアップ時などバナナの模様が入った靴下を履く。
■水泳 「(小さい頃は)お父さん(浩二さん)とよく泳ぎに行った。まあまあできる」。
■夙川学院高時代はクラス会長 クラスリーダーを3年間、務めた。3年間、担任だった内橋静先生は「柔道を離れても一生懸命、物事に取り組む生徒だった」。
■素根と大の仲良し 東京五輪女子78キロ超級代表の素根輝(そね・あきら)=パーク24=と仲良し。「(高校時代から代表だった)2人なので、話がわかり合えるというのは輝しかいなかった」。
■慕う先輩 東京五輪女子63キロ級代表の田代未来(みく)=コマツ。田代は「高いレベルで考えている。私の若い時と比べたら意識も上。しっかりしている」と評する。
■兄とスタイルが同じ 18年世界選手権男子81キロ級銀メダリストの藤原崇太郎(旭化成)は日体大時代、阿部きょうだいと一緒に練習する機会があった。「(詩と一二三は)しぐさが似ている。柔道中の堂々とした感じが、そっくり。担ぎ技はとても似ている」と笑う。
■スーツが似合う女性に 大学生の立場でスーツを着る機会が増えた。「スーツが似合う女性になる」ことも、目標の一つに掲げている。
■はまっているもの 練習中、自身がハマっているTM NETWORKの曲「Get Wild(ゲット ワイルド)」を柔道場に流して気持ちを盛り上げる。
■目指すものは怪物 夙川学院高時代に、プロボクシングのWBA・IBF世界バンタム級王者の井上尚弥の著書『怪物』を読んだ。「怪物の本を読んだら怪物になれるかなと。好奇心で読んだ。いろんな方から刺激をもらいメンタルを強くしている」。
■握力は44・6キロ 20年10月、東京都内でのイベントに参加した阿部は右手で握力計を握り、44・6キロを記録。同世代の平均27・8キロを大きく上回る数字だった。
■座右の銘 NO PAIN NO GAIN。「努力なくして成功なし」。理由は「苦しいときは苦しい方に進んだら成長できる」から。
■目指すべき柔道家 「いない。こんな選手を目指したいと思ってくれたらうれしい」。
「世界で出会ったすごい選手」に16年リオ五輪女子48キロ級金メダルで医師でもあるパウラ・パレト(アルゼンチン)を挙げる。「柔道をしながら医師として両立している。けがも自分で指示して治すとか、すごい。今もコロナ禍で医師として活躍していて尊敬する」。
■吉田沙保里 レスリング女子3連覇の吉田沙保里(19年現役引退)に対しては「尊敬している選手、憧れている選手」。
■外国人で好きな柔道家 19年世界選手権金メダルのサギ・ムキ、18年世界選手権金メダルのサイード・モラエイ(ともに男子81キロ級)。
■家族 父・浩二さん、母・愛さん、長男・勇一朗さん、次男・一二三。
【グランドスラム東京大会】男女5階級を行い、女子52キロ級でシニア国際大会デビュー戦となった阿部詩(うた、16)=夙川学院高1年=が銀メダルを獲得した。兄の阿部一二三(ひふみ、19)=日体大1年=は男子66キロ級で2年ぶり2度目の優勝。4年後の東京五輪で兄妹での金メダル獲得を狙う。
◆惜しい最年少記録
グランドスラム史上最年少優勝(2012年東京で63キロ級の津川恵の17歳1カ月)の更新こそ逃したが、表情は誇らしげだった。シニア国際大会初出場で堂々の銀メダル。16歳の阿部が鮮烈デビューを飾った。
「負けても自分のできる限りのことは精いっぱいできた。少しは自分の力が通用することが分かった」
2回戦から3試合連続の一本勝ち。3回戦を開始30秒の合わせ技であっさり勝利すると、準決勝では、38秒に豪快な大外刈りを決めた。「技に入ったら投げられる」。決勝で今年の講道館杯を制した角田夏実(24)=了徳寺学園職=に腕ひしぎ十字固めを決められ、一本負けしたが、切れ味鋭い投げ技に手応えを感じ取った。
昨年、夙川学院中時代に全国を制した東京五輪期待の星だ。この日、男子66キロ級で優勝した兄・一二三の影響で5歳で柔道を始めた。今年は夏頃まで故障が続き、8月の高校総体では初戦敗退。「自分は弱いんだと自覚した。原点に戻って前に出ることを心がけた」。ともに練習してきた兄と同じ攻撃的なスタイルを思い出し、今大会でのブレークにつなげた。
女子52キロ級は公開競技だった1988年ソウル大会を含め、五輪8大会で日本選手の金メダルがない。鬼門の階級に現れた新星に、女子日本代表の増地克之監督は「非常に楽しみな選手が出てきた。シニアでも通用する力があるし、魅力ある選手だ」と喜んだ。
「お兄ちゃんみたいに度胸をつけて、世界一強くなりたい。東京五輪では2人で絶対に優勝します」
兄妹アベック金メダルを夢見ながら、4年後を目指す。 (白石大地)
■「刺激し合う」
男子66キロ級の阿部一二三が2年ぶりの優勝を飾った。決勝は背負い落としで一本勝ち=写真。「持ち味である一本が取れてよかった。前に出る柔道をアピールできた」。リオデジャネイロ五輪出場を逃した悔しさをぶつけた。シニア国際大会初出場で銀メダルの妹・詩については、「2人で刺激し合って、上を目指していきたい」と兄妹での進化を誓っていた。
【バクー(アゼルバイジャン)19日=石井文敏】柔道の世界選手権はきょう20日、当地で開幕する。残り2年を切った東京五輪へ向け、本格的な戦いが始まる。女子52キロ級で初出場の阿部詩(うた、18)=兵庫・夙川学院高=が本紙のインタビューに応じた。大会2連覇が懸かる男子66キロ級で兄の一二三(ひふみ、21)=日体大=と大会2日目の21日に登場するホープは、日本勢初の「きょうだい世界一」を目標に掲げた。
「こんなに早く出られるとは思わなかった。やることはやってきたので楽しみな気持ちの方が大きい。世界で阿部詩をアピールしたい」
「思いっきり、自分の柔道をする。去年のお兄ちゃんみたいな驚きを周りにみせたいのと自分の成長を感じたい」
--優勝すれば、日本女子では1993年の田村(現姓谷)亮子の18歳0カ月に次ぐ、18歳2カ月での女王となる。どんな試合がしたいか
「東京五輪につながる大切な舞台。自分の最高のパフォーマンスができるようにしたい」
「2年なんてあっという間だと思う。気を抜いている暇はない」
「五輪を目指す、と胸を張って言えるようになったのは昨年くらい。国際大会で勝ってから」
「柔道を始めた頃はお兄ちゃんも強くはなかった。尊敬はしていなかった」
「中学2、3年で全国大会を優勝してから、『お兄ちゃん、すごいな』と気づきはじめて見習うようになった。なんで勝てるんだろうと思いはじめて、まねするようになった」
「試合でお兄ちゃんの決まった技をみて、練習で試して自分風にアレンジする。不思議だなと思ったことは聞くけど、映像とかをみる」
--大会2日目の21日にきょうだいそろって登場する
「お兄ちゃんがいることで心強く挑める。一緒に世界一になりたい。肩を並べられるように頑張る」
【世界選手権 バクー(アゼルバイジャン)21日=石井文敏】女子52キロ級の阿部詩(うた、18)=兵庫・夙川学院高=がオール一本勝ちで初出場優勝を飾り、男子66キロ級で2連覇を達成した兄の阿部一二三(ひふみ、21)=日体大=と、日本史上初めて同大会で兄妹そろって世界一に輝いた。18歳2カ月の阿部詩は、日本女子では1993年大会の48キロ級を18歳0カ月で制した田村亮子(現姓谷)に次ぐ若さで頂点に立った。ニューヒロインの妹と伸び盛りの兄が、2年後の東京五輪へ期待の膨らむ快挙を果たした。
◆志々目倒した
最後は切れ味鋭い内股で決めた。阿部詩がオール一本勝ちで、世界の頂点に立った。初の大舞台で、18歳のホープがライバルを圧倒。攻めの柔道を貫き、5試合を勝ち抜いた。
ニューヒロインの誕生だ。日本勢対決となった決勝。積極的に前に出た。受けに回った志々目が2つの指導を受け、試合を優位に進めた。延長53秒。一瞬の隙を突いた。得意の内股を繰り出し、「キタッ」。18歳69日での新女王は日本勢では1993年大会を18歳27日で制した2000年シドニー、04年アテネ両五輪金メダルの谷亮子(旧姓・田村)に次いで、史上2番目の年少記録だった。
兄が逃したオール一本での頂点。横で話を聞いていた兄がうらやましがるなか、「やってやりました!」。昨年は兄と同じ高校2年で講道館杯、グランドスラム東京を優勝。そして昨年の兄に続いて初代表で世界を制した。
忘れられない試合がある。2016年夏。中学時代に輝きを放ち、優勝候補と期待された全国高校総体はまさかの1回戦で敗れた。その後の1週間は涙に暮れた。「みんなが言っている挫折みたいなのが分かった」。
小学生時代から指導する兵庫・夙川学院高の松本純一郎監督は「負ける度に成長する。なぜ負けたかをよく考える」と評する。詩は初めて味わった悔しさを糧にして、毎日3時間以上に及ぶ稽古で兄の背中を追った。
「試合でお兄ちゃんの決まった技をみて、練習で試して自分風にアレンジして出すこともある」
もう同じ思いはしたくない。寝技の強化に取り組み、他県の強豪校へも出稽古にも出た。タイミングが合えば兄・一二三が通い、来年4月に入学する日体大に行き、兄から組み手を教えてもらうなどで、力をつけた。
「ここまでやってきたことは間違いではなかった。兄妹での五輪優勝に一歩近づいた」
東京五輪で兄妹での金メダルを目標に掲げる。「一二三の妹」と呼ばれることもあったが、バクーで実力を証明した。大好きなお兄ちゃんとともに2年後の夏の祭典まで突っ走る。
【グランドスラム大阪大会】男女計4階級が行われ、女子52キロ級は世界女王、阿部詩(うた、18)=兵庫・夙川学院高=が昨年の東京大会に続き2連覇を達成した。9月の世界選手権と今大会の連続優勝により全日本柔道連盟の基準を満たし、来年8月の世界選手権(東京・日本武道館)代表に決まった。兄で男子66キロ級世界王者の阿部一二三(ひふみ、21)=日体大=は決勝で丸山城志郎(25)=ミキハウス=に敗れた。丸山は初優勝。
◆“4度目の正直”
鋭い目つきで、決勝の畳に立った。18歳の阿部詩は4分57秒の激闘の末に、指導3による反則勝ち。優勝が決まると、地元の関西大会に駆けつけてくれた両親や知人に向かってガッツポーズした。
「応援してくれる人が多くて心強かった。勝つ柔道を徹底した」
激戦の階級を制した。準決勝で、9月の世界選手権決勝で対戦した志々目愛(24)を内股透かしで下し、過去3戦全敗の角田(つのだ)夏実(26)=ともに了徳寺学園職=との決勝へ。「4回も負けたら、話にならない」と持ち味のがむしゃらに前に出る柔道を封印。角田の得意技、ともえ投げや関節技を警戒しながら徐々に追い詰めた。日本女子の増地克之監督(48)は「大人の柔道だった」と冷静な闘いぶりを評価した。
◆今季20戦19勝!!
今年は国際大会を含めて、シニア大会は全5大会に出場。20戦中19勝の詩だが、唯一の黒星が角田との全日本選抜体重別選手権(福岡)だった。世界選手権後は表彰など行事に追われたが、「この大会で勝ってこそ次につながる」と大嫌いだった負けた試合の動画を見ることを決意。角田戦の映像を「YouTube」で繰り返し見て悔しさを忘れなかった。
世界女王はこの優勝で2020年東京五輪の会場、日本武道館で行われる来年8月の世界選手権代表に内定。志々目、角田を連破し、東京五輪の代表争いで一歩リードした。
「一番(内容が)濃い1年間だった。(来年は)いろんなことに挑戦したい。新しい自分を作っていければ」
優勝の直後に畳に上がった尊敬する兄・一二三が敗れ、まるで自分のことのように悔しがった。来春からは兄と同じ日体大に進学する。東京五輪での兄妹金メダルを目標に掲げ、進化を続ける。 (石井文敏)
柔道女子52キロ級で昨年の世界選手権覇者、阿部詩(うた、18)が2日、神戸市内の夙川学院高の卒業式に出席した。式典中に涙ぐむなど仲間との別れを惜しんだ。2020年東京五輪での金メダルへ、出場が内定する世界選手権(8-9月、日本武道館)で、16年リオデジャネイロ五輪同級覇者のマイリンダ・ケルメンディ(27)=コソボ=を倒しての2連覇を目標に掲げた。
◆思い出こみ上げ
卒業式で、先生による合唱「旅立ちの日に」が流れる。畳の上では闘争心あふれる表情を見せる阿部詩が涙を流した。
「昔からの思い出がこみ上げてきた。みんなとワイワイできて良かったことが一番の思い出」
高校2年で講道館杯とグランドスラム東京を制覇、3年秋に初出場した世界選手権で優勝した。27人いるスポーツクラスの「グローバルアスリートコース」に在籍し、世界のトップ選手へと飛躍を遂げた。卒業式で、運動部の活動などの功績をたたえる賞の表彰状を壇上で受け取った。
「今年の世界選手権で2連覇し、東京五輪で優勝することが目標」。実現に向けて、最大の好敵手がいる。2016年リオデジャネイロ五輪女子52キロ級金メダルのケルメンディだ。リオ五輪後、けがが重なり休養もあった実力者は、今年2月の国際大会で優勝するなど競技に本格復帰した。
16年末のデビューからシニアの国際大会で対海外勢に24連勝中と無敗の詩だが、ケルメンディとの対戦はない。「雲の上の存在だった選手を自分が倒す立場になってきた」。パワーとスタミナを兼ね備える五輪女王を破り、世界選手権2連覇を狙う。
◆4月から日体大
「もっと強くなれるチャンスが転がっているので楽しみ。お兄ちゃんと一緒に成長できれば」
4月から男子66キロ級で世界王者の兄・一二三(ひふみ、21)と同じ日体大に進学。18年間、過ごした神戸に別れを告げ、東京で腕を磨く。 (石井文敏)
2020年東京五輪開幕まで、24日であと1年。出身大学別で最多62人の夏季五輪メダリストを輩出している日体大とコラボレーションした長期連載の第17回は、柔道女子52キロ級世界女王の阿部詩(うた、19)=スポーツ文化学部武道教育学科1年=を特集する。東京五輪のヒロイン候補が、金メダルへの思いをつづった手記「開幕1年前の決意」を本紙に寄せた。東京五輪と同じ日本武道館で開催される前哨戦、世界選手権(8月25日-9月1日)での2連覇を誓った。 (取材構成・石井文敏)
■日本人の誇り
初夏のある日、学生大会を観戦するため、東京・千代田区の日本武道館に足を運んだ。兵庫・夙川学院高時代に全国高校選手権で畳に立ったことはあるが、来夏に迫った東京五輪を強く意識するようになってから訪れた柔道家の聖地は、特別な場所だった。
360度観客に囲まれた八角形の構造が特徴の日本武道館。君が代が流れる中で日の丸が掲げられる。その様子を見ていると、鳥肌が立った。優勝して国歌が場内に流れるのはすごい。日本武道館で柔道ができるのは、日本人にとって誇りだと思った。自分が金メダルを取って君が代を流す姿を想像した。世界の一番になりたいと思ったら、甘い生活は許されない。そう強く決意した瞬間だった。
東京五輪開幕までちょうど1年になり、自分と世界の強豪選手との立ち位置を考えるようになった。自分が一番上に立つため、絶対に勝たないといけない相手が、2016年リオデジャネイロ五輪金メダルのマイリンダ・ケルメンディ選手(28)=コソボ=だ。
3年前の自分にとって、雲の上の存在だった。ちょうどその頃、全国高校総体の1回戦で敗退。自分を見失いかけ、どん底に突き落とされていた。4年後の東京五輪の出場すら思い描けず、夢に近い状況。優勝して歓喜するケルメンディ選手を見て「この人が優勝したんや」と思った程度だった。
最大のライバルと試合で対戦したことはないが、過去2回のスペイン国際合宿で怪力ぶりを体感した。東京五輪で金メダルを争う選手だと思うし、来月の世界選手権で対戦する可能性もあるので、すでに対策を練っている。詳細は明かせないが、右組みの私は、左組みで力の強い男子高校生をケルメンディ選手に見立て、乱取りや組み手の技術を磨いている。
■気持ちが大事
私は相手の両袖をつかんで投げる袖釣り込み腰が得意技。男子66キロ級で世界選手権2連覇中の兄、一二三(ひふみ、21)=体育学部武道学科4年=と同じ豪快に相手を投げ倒すスタイルだ。技をかけるタイミングが重要で、パターンはいくつかある。ケルメンディ選手との試合で、動きの中で出せれば絶対に技は決まる。あとは「前に出る」「絶対に攻め抜く」という強い気持ちが大事になる。
4月に18年間過ごした故郷の神戸から上京し、日体大に入学した。自分のやるべきことを導いてくれる先生がいた高校時代とは違い、大学生は自分で計画を立てて遂行していくことが求められる。取り組んでいることが正しいのかと不安になることもあるが、実業団や他校の選手と手合わせし、視野を広く持つことを意識している。
■柔道漬け生活
女子52キロ級は日本女子で唯一、五輪の金メダルがない階級と聞いた。金メダル第1号に絶対になりたい。東京五輪女子52キロ級は7月26日。兄が出場を目指す男子66キロ級と同じ日に実施される。日本武道館の畳で、兄妹揃って金メダルを取って、君が代を流せたら最高。いまは午前6時半の朝練から午後11時前の就寝までの柔道漬けの生活だが、おしゃれな洋服を着て東京観光することを金メダルのご褒美にしたい。
■充実!!女子大生
入学から約4カ月、阿部は柔道に打ち込むと同時に、学業面でも充実のキャンパスライフを送る。今月8日には日体大の歴史(日体伝統実習含む)で、日体大の伝統である規律ある行進パフォーマンス、集団行動を学んだ。阿部は「みんなといっぱい声を出して、いっぱい歩いて楽しかった」。数十人の隊列が、ぶつからずに交差する行進を体験し、笑顔だった。
【世界選手権】2020年東京五輪の会場で行われ、女子52キロ級の阿部詩(うた、19)=日体大=が2連覇を達成した。準決勝は16年リオデジャネイロ五輪金メダルのマイリンダ・ケルメンディ(28)=コソボ=を抑え込み、決勝はナタリア・クジュティナ(30)=ロシア=を鮮やかに一本で下した。期待のヒロインが、地元開催の日本勢に初の金メダルをもたらし、来年の東京五輪代表入りへ大きくアピールした。
◆海外勢に無傷29連勝
最後は“秒殺”で決めた。開始わずか30秒。阿部詩は決勝で、初顔合わせの2016年リオデジャネイロ五輪銅メダルのクジュティナを、得意技の袖釣り込み腰で一本勝ちした。聖地・日本武道館に詰めかけた5293人のファンからの拍手に鳥肌が立った。気持ちよさそうに、表彰台の真ん中で君が代を聴いた。
「最後に一番得意な技で投げられてよかった。(君が代を)流すことが今年一番の目標だったので、うれしかった。不安やプレッシャーがあったのでホッとしている」
事実上の決勝といわれたリオ五輪女王、ケルメンディとの準決勝。待ち望んだ初対決に、世界女王の阿部詩は闘争心あふれる“野獣”と化した。指導2つで互いに後がない状況。延長に入っても前に出た。「何分でも闘ってやろう」。7分15秒。場外際に追い込み、技を仕掛けて横四方固めで一本勝ちした。
決勝を含む5試合で勝負を決めたのは、投げ技や寝技など全て違う技。状況に応じた幅広い戦略が光った。16年末のデビューから続くシニア国際大会での対海外勢連勝記録も「29」に伸びた。
昨年大会で初出場Vを果たし、この1年間はリオ五輪後に休養していた好敵手を意識して汗を流した。過去2回(17、18年)、スペインでの国際合宿で組み合った経験を大事に、パワー自慢のケルメンディ対策を練った。「高2の時は(差は10のうち)7。高3時は4かな」。貴重な乱取り機会で感じた怪力とスタミナを思い出しながら、同じ左組みの男子選手に協力してもらった。週2回は国士舘大、東海大などに出稽古した。
男子66キロ級で3連覇を目指した兄・一二三(日体大)は銅メダルに終わった。2年連続の「きょうだい金メダル」はかなわなかったが、20年東京五輪の会場である日本武道館で栄冠に輝いた。
「国民の全員が期待してみる試合だと思う。必ず出て、優勝すると心に決めている。皆さんに感動を与えられたら」
女子52キロ級の東京五輪代表争いで大きくリードした。11月のグランドスラム大阪大会を制し、強化委員会で出席者の3分の2以上の賛成を得れば、代表に決定する。日頃から「怪物になりたい」と宣言する19歳のヒロインが新たな伝説を作る。(石井文敏)
<その時>小学校時代の監督は成長に涙
小学校時代の阿部詩を指導した神戸市の兵庫少年こだま会の高田幸博監督(55)は教え子と応援に駆け付けた。「ガンバレ!」などと書かれたお手製のウチワを掲げた子供たちは「詩先輩、ファイト」と声をからせた。大一番は準決勝。リオ五輪女王のケルメンディを抑え込むと、高田さんは「小学生の頃は寝技ができなかったのに」と目を潤ませた。
■競技歴
5歳の時、地元「兵庫少年こだま会」で柔道を始める。兵庫・夙川学院中で15年に全国中学校体育大会優勝。16年夙川学院高の運動部の女子が集まったスポーツクラス「グローバルアスリートコース」に進学。17年全国高校総体で優勝し、全国高校選手権も制して2冠達成。同年世界ジュニア優勝。
【グランドスラム大阪大会】大会が開幕して男女5階級が行われた。女子52キロ級は今夏の世界選手権(日本武道館)で2連覇を遂げた阿部詩(うた、19)=日体大=が決勝で昨年の世界選手権銅メダリスト、アマンディーヌ・ブシャール(24)=フランス=に延長の末に優勢で敗れ、今大会での東京五輪代表決定はならなかった。男子66キロ級決勝は世界王者の丸山城志郎(26)=ミキハウス=が阿部詩の兄・一二三(ひふみ、22)=日体大=に敗れ、やはり今大会での代表決定を逃した。
◆研究しつくされ
男子66キロ級で兄・一二三が優勝したのを見届けた女子52キロ級の阿部詩は、腹をくくって決勝の畳に立った。しかし、勝てば東京五輪代表決定の可能性が高い中、力を出しきれずに敗れた。
「情けない。悔しい思いでいっぱい。最後は気持ちの弱さが出た。五輪のレースはこんなにも過酷なんだ、と知った」
畳から降りると、辺りをはばからず大粒の涙を流して号泣した。
準決勝で2017年世界女王の志々目愛(25)=了徳寺大職=に内股すかしで一本勝ちするなど、圧倒的な内容で迎えた決勝は一瞬の隙を突かれた。ブシャールに内股が決まらず延長の7分40秒、肩車で技ありを奪われた。世界ランキング1位のライバルに自身を研究され、やりにくさがあった。
16年から出るジュニア大会も含め、海外勢には無敗を誇ってきた。今夏の世界選手権では16年リオデジャネイロ五輪金メダルのマイリンダ・ケルメンディ(28)=コソボ=を破るなど「怪物」ぶりを発揮していたが、対海外勢の連勝記録も「48」で止まった。
阿部詩が今年3月まで通った兵庫・夙川高(当時・夙川学院高)の松本純一郎監督は教え子を「一年に1回、負けてつらい思いをする。そこで自分で考えて謙虚な姿勢でやり続けるから、強くなる」と評する。1年時は全国高校総体で1回戦敗退など、涙を成長の糧にしてきた。五輪を控えた今年は2戦2勝だったが、またも壁が立ちはだかった。
「2位の表彰台に乗る感覚を味わえたので、一ついい経験になった。神様からの試練だと思い、五輪で(兄と)2人で優勝するために、前に進んでいく」
最後は涙をぬぐい、前を向いた。来月12日開幕のマスターズ(中国)に出場する方針を示した阿部詩。苦い敗戦を教訓に、東京五輪のヒロインへと駆け上がる。(石井文敏)
【GSデュッセルドルフ大会】2016年リオデジャネイロ五輪王者で男子73キロ級の大野将平(28)=旭化成、女子70キロ級の新井千鶴(26)=三井住友海上、同63キロ級でリオ五輪代表の田代未来(25)=コマツ=が決勝に進んだ。21日に行われた女子52キロ級で阿部詩(うた、19)=日体大、男子60キロ級で高藤直寿(26)=パーク24=が優勝、女子48キロ級で渡名喜風南(ふうな、24)=パーク24=が2位となり、東京五輪代表の座を決定的にした。(ペン・石井文敏 カメラ・納冨康)
◆全5試合一本
リベンジマッチで、成長した姿を見せた。阿部詩が昨年11月のグランドスラム(GS)大阪の決勝で敗れた世界ランキング1位のブシャール(フランス)に雪辱した。
「うれしいというよりホッとしている。東京五輪の通過点として挑んだ。落ち着いて焦らずに相手が見えた部分は成長したところかな」
宿敵との決勝。投げ技を積極的に繰り出し、攻勢に出た。組み手争いで優位に立ち、指導3を誘発。鋭い動きでブシャールに圧力をかけ、5分37秒での反則勝ちだ。デュッセルドルフの柔道ファンにも写真撮影を求められる東京五輪のヒロイン候補が、盤石の内容で全5試合を一本勝ちで優勝した。
◆初の大舞台へ
昨年のGS大阪決勝でブシャールに敗れ、あと一歩のところで内定を逃した。海外勢との連勝を「48」で止められ、大粒の涙を流した。「まだまだ強くなれる」と信じ、強豪の山梨学院大での強化合宿に参加。母校の兵庫・夙川高に出稽古を敢行して組み手などを確認した。悪夢を振り払う勝利に、女子日本代表の増地克之監督(49)は「彼女らしい攻撃的な柔道を展開できた。GS大阪での負けをしっかりと自分の糧とした。代表に近づいた」と評価。初の五輪代表を確実にした。
「寝技を躊躇(ちゅうちょ)した部分があった。足技や組み手のパターンを増やすのも課題。積極的に攻める柔道を追求していきたい」
自身の優勝後には、同じ畳で行われた男子66キロ級で兄の一二三(ひふみ、22)=日体大=が頂点に立ち「うれしくて、ホッとした」。東京五輪での兄妹金メダルに向けて「お兄ちゃん」とともに進化を続ける。
全日本柔道連盟(全柔連)は27日、東京・文京区の講道館で強化委員会を開き、女子52キロ級で世界選手権2連覇中の阿部詩(19)=日体大=や、男子73キロ級で2016年リオデジャネイロ五輪金メダルの大野将平(28)=旭化成=ら12人を東京五輪代表に選んだ。丸山城志郎(26)=ミキハウス=と阿部一二三(22)=日体大=が競り合う男子66キロ級のみが、最終選考会の全日本選抜体重別選手権(4月4、5日・福岡国際センター)に持ち越された。
◆「ホッとした」
夢の舞台への切符を手に入れた。女子52キロ級の阿部詩は、母国で開催される東京五輪での金メダル獲得を誓った。
「ホッとしたけれど、ずっと東京五輪で優勝という目標を見てきた」
前回のリオデジャネイロ五輪が行われた4年前は高校1年生。「東京五輪で代表になれるとは想像できなかった」。急成長し、17年世界女王の志々目愛(26)や同銀メダルの角田夏実(27)=ともに了徳寺大職=らを追い抜いた。「強くしてくれたのは志々目選手と角田選手」とライバルに感謝し、「代表という覚悟をしっかり持って戦いたい」と力を込めた。
「五輪は人生最大の目標。自分のすべてを東京五輪にかけたい」
その大舞台でのライバルには前回金メダリストのマイリンダ・ケルメンディ(28)=コソボ=や、昨年11月のグランドスラム(GS)大阪で敗れたアマンディーヌ・ブシャール(24)=フランス=らが予想される。ケルメンディには昨年の世界選手権(東京)で、ブシャールには今月のGSデュッセルドルフ大会で勝っているが、油断はできない。
◆最高の準備を
「外国勢の変形の柔道や、研究されている部分への対応など、課題はいろいろある。細かい部分を突き詰めて大きい技につなげたい。気持ちを強くもって最高の準備をする」と、残り5カ月でさらなる高みを目指す。
この日は父、浩二さんの50歳の誕生日だった。内定が「いいプレゼントになりました」。一方、兄の一二三は4月の全日本選抜体重別選手権で丸山との最終決戦に代表の座が懸かることに。「お兄ちゃんなら絶対に決めてくれると思う。兄が最高の準備をできるように支えたい」。家族の絆を大事にする阿部詩は、夢舞台への兄妹同時出場にもこだわりを示した。 (只木信昭)
【グランドスラム・カザン大会】男女計4階級が行われ、東京五輪代表で女子70キロ級の新井千鶴(27)=三井住友海上=はロシア選手との準決勝で延長の末に優勢で敗れ、3位決定戦へ。オランダ選手に一本勝ちし、3位となった。第1日(5日)の女子52キロ級で、全4試合をオール一本勝ちで優勝した東京五輪代表の阿部詩(うた、20)=日体大=が一夜明け、オンラインで取材に応じ、東京五輪金メダルに向け、武器の袖釣り込み腰を軸とした攻撃柔道のさらなる成熟を誓った。
◆「技の幅」広がり
表彰台の真ん中に、マスクを着けて立った阿部が胸を張った。東京五輪前最後の実戦で、優勝した2018、19年世界選手権で披露したような本来の豪快な柔道を取り戻した。
「いい感じに状態が上がってきた。今大会で自分に自信が持てた。技の幅が広がってきた」
2試合を勝ち、迎えたスペイン選手との準決勝は、武器の袖釣り込み腰の体勢から大内刈りに連動して一本。アストリド・ニェト(25)=フランス=との決勝は袖釣り込み腰を繰り出し、抑え込んでの合わせ技一本だ。1年1カ月の実戦ブランクを経て出場した3月のGSタシケント大会は優勝したものの、海外勢から警戒され、武器を発揮できなかった。「自信を持って技に入れた」と足技などを駆使しながら4試合オール一本で、実戦総仕上げを終えた。
「最高の準備をして最高のパフォーマンスができるように、悔いなく五輪までやり切りたい」
◆きょうだいVへ
東京五輪の出番は大会3日目の7月25日。男子66キロ級の兄・一二三(ひふみ、23)=パーク24=との同日きょうだい金メダル実現へ。残り約3カ月で攻撃柔道を完成させる。(石井文敏)