サンケイスポーツでは、柔道男子66キロ級・東京五輪代表の阿部一二三(ひふみ、23)の特集を数多く展開してきた。当時の記事を紹介する。(年齢、肩書等は掲載当時のまま)。

■生まれなど 1997(平成9)年8月9日。神戸市出身。

■競技歴 6歳の時、地元の「兵庫少年こだま会」で柔道を始める。和田岬小から神戸生田中に進み、神港学園高2年の2014年に南京ユース五輪66キロ級を制覇し、「東京五輪の星」として脚光を浴びる。

■シニア大会 14年11月の講道館杯全日本体重別選手権でシニア大会初出場し、男子史上最年少優勝(17歳2カ月)。日体大体育学部(武道学科)から20年にパーク24に入社。世界選手権は17、18年金メダル、19年は銅メダル。グランドスラム(GS)は16年チュメニ、東京、17年パリ、東京、21年アンタルヤなど通算9勝。

■得意技 背負い投げ、袖釣り込み腰。右組み。

■リオ五輪 高校3年生だった15年11月の講道館杯全日本柔道体重別選手権。リオの1次選考で3位に終わり、リオ五輪への道が絶たれた。「期待を感じてしまった。空回りしてしまった」。リオ五輪男子66キロ級に出た海老沼匡の試合は寮でテレビ観戦。「見に行きたかったけど、悔しさは東京五輪で晴らそうと。結果を残せれば(五輪に)からめると思っていた」。

■丸山との24分間の死闘 20年12月13日、東京五輪柔道男子66キロ級代表決定戦で19年世界選手権金メダルの丸山城志郎(ミキハウス)を大内刈りで優勢勝ちした。五輪代表選考で日本柔道史上初となる1試合限定の「ワンマッチ」を24分間の激闘の末に制し、初の五輪代表を決めた。両者の対戦成績は4勝4敗。

■相次ぐけが 19年4月に左脇腹、同6月には左足首を負傷して低迷。丸山に代表争いでリードを許したが、同11月のGS大阪から直接対決2連勝。20年2月のGSデュッセルドルフでは左手親指を負傷しながら全6試合を闘い抜いた。10カ月ぶりの実戦となった同12月の代表決定戦でコンディションを最高の状態にし、丸山を破った。

■女子に敗戦も 小学生のとき、試合で現在女子63㌔級の鍋倉那美に投げられて負けたことがある。それが悔しくて本格的に稽古に打ち込むようになった。

■スター性 00年シドニー五輪金メダリストで、東京五輪男子代表の井上康生監督は「人を引きつけるスター性を持った逸材。大事に育てたい」。

■憧れ 同じ軽量級で五輪3連覇の野村忠宏氏。野村氏を超える五輪4連覇が夢。18年から野村の会社「Nextend」とマネジメント契約を結ぶ。野村氏は「体の強さがあって、ぶれない。多少、強引でも投げ切る力が備わっている」と阿部を絶賛する。

■古賀魂の継承者 1992年バルセロナ五輪男子71キロ級金メダリストの古賀稔彦さんが3月日に53歳の若さで死去した。阿部にとって古賀さんは日体大の30歳違いの大先輩。相手を高々と担いで投げ飛ばすスタイルは「平成の三四郎」と称された古賀さんを、ほうふつとさせる。訃報に際して「豪快な担ぎ技で海外選手を倒す姿は本当に憧れ。自分自身も古賀先生のように五輪で優勝したい」と決意する。

■パーク24 日体大卒業後、20年4月に1992年バルセロナ五輪金メダリストの吉田秀彦氏が総監督を務める実業団のパーク24に入社。「柔道に打ち込む最高の環境とサポート体制を整えてもらった」。

■父と二人三脚 消防士の父、浩二さんと小学校低学年の頃から、メディシンボールを使った腹筋で体幹を強化。

■験担ぎ 試合では赤いパンツを着用する。理由は「闘争心がかき立てられるから」。

■好きな言葉 努力は天才を超える。

■恩師・兵庫少年こだま会の高田幸博監督の評価 「体が小さくて泣き虫だったけど、体力的にも意識的にも(成長が)早かった」。

■恩師・日体大の山本洋祐柔道部総監督の評価 「10、20年に一人の逸材。最初は若さや勢いがあった。けがなど苦しみを味わったことで精神的にも強くなった」。

■体幹の強さ 日体大准教授で日本男子の体力強化部門長、岡田隆氏は阿部の体について「体幹の筋肉が強い。崩されない、入った後にグッと力でひねってもっていく」と目を丸くする。

■データは非公表 握力、腹筋、背筋など身体的なデータは非公表。理由は関係者によると「阿部が不利になる情報は一切、出さない」。

■よく発する言葉 「前に出て一本を取りにいく柔道、圧倒的な柔道」。

■武者修行 18年1月に初の海外武者修行。オーストリアとドイツでの約3週間の単身合宿を行った。19年2月にはGSパリでの大会出場後に、2日間居残り、強豪クラブチームの練習に参加して研鑽を積んだ。

■好物 焼き肉。

■嫌いな食べ物 数の子。「昔から嫌い」。

■きれい好き 道着を他人に触らせない。自分で洗濯する。

■明るい性格 日体大入学時に知り合い、同期で付き人の片倉弘貴さんは「明るくてお茶目な性格」と語る。寮生活では一緒にゲームで遊ぶことがあったという。「(負けたら)悔しいからもう一回やろうと。一番最後までやりたがる」。Switch「大乱闘スマッシュブラザーズ」やサッカー「ウイニングイレブン」など長いときは仲間と7時間、ゲームに熱中したことも。

■視力 「(両目)1・5以上は確実にある」。

■闘争心を上げる 試合のときは対戦相手の「目をはじめ全体的な感じをみる。組む前に相手の表情をバッと見て闘争心を上げる」。

■趣味 買い物。

■名前の由来 両親が「一歩一歩進んでいってほしい」との思いから名付けた。

■家族 父・浩二さん、母・愛さん、兄・勇一朗さん、妹・詩。

■サイズ 168センチ。

【グランドスラム東京大会】17歳が大快挙!! 男女計5階級を行い、男子66キロ級では17歳の阿部一二三(兵庫・神港学園高2年)が、初めてのシニア国際大会で優勝。準決勝では世界選手権3連覇中の海老沼匡(24)=パーク24=を破るなど、2016年リオデジャネイロ五輪代表争いに名乗りを上げた。女子57キロ級ではロンドン五輪金メダリストの松本薫(27)=フォーリーフジャパン=が復活Vを果たした。

“東京五輪の星”が、強烈な輝きを発してリオデジャネイロ五輪に接近し始めた。男子66キロ級。17歳の阿部が大金星で表彰台の頂点に立った。

「あまり実感はないけど、すごいうれしい」

初戦から物おじせず、スタミナを生かし前に出る自分の柔道で攻めた。世界王者・海老沼との準決勝では開始早々「様子を見てしまい」、有効を取られたが、「このままじゃ勝てない」と本来の姿勢を取り戻す。残り46秒に繰り出した大内刈りが技あり。逆転で最大の壁を破ると、勢いそのまま決勝も優勢勝ちだ。

8月の南京ユース五輪を制するなど、20年東京五輪での金メダルが期待される逸材。小学校低学年のころから、重いメディシンボールを持っての腹筋や、トスされたボールをつかんでの瞬発力強化など、消防士の父・浩二さんが考案した独自の方法で鍛えてきた。この日、海外のトップ選手と戦い、「体幹の強さは通用すると分かった。もっと鍛えたい」。効果を実感し、父に感謝した。

激戦区の、この階級で「リオ五輪の代表争いに足を踏み入れた」。井上康生日本男子監督は認めながらも「体力も技術も心も、まだまだ」と注文を付ける。「ここまで来たらリオを狙いたい。そのためには、来年の世界選手権で優勝できないと…。もっと上を目指したい」。若武者は貪欲に上を見据える。 (只木信昭)

2020年東京五輪開幕まであと1065日。日体大とコラボレーションした長期連載の第2回は、「東京五輪の星」と呼ばれる柔道男子66キロ級の阿部一二三(ひふみ、20)=2年=を特集する。28日に開幕する世界選手権(ブダペスト)を前に、決意を激白した。また、日本オリンピック委員会強化スタッフで、テレビでお馴染みの岡田隆准教授(37)が、日本柔道の将来を背負うホープの肉体を徹底解剖した。 (取材・構成=石井文敏)

◆早くやりたい

熱気あふれる場内に、畳をたたく音が響く。8月上旬、東京・世田谷区にある日体大の柔道場。初の世界選手権を控え、阿部が一心不乱に稽古に打ち込んだ。

「ずっと目指していた大会。緊張とかプレッシャーというよりも、ワクワク感とか早く試合がしたい気持ちの方が強い。2020年東京五輪への第一歩。オール一本勝ちで優勝したい」

今大会は、リオデジャネイロ五輪金メダルのファビオ・バシレ(イタリア)ら強豪がそろう中、阿部は対策を練る。得意技を生かすための逆技と足技の精度アップだ。

「(得意技の)右の担ぎ技は、海外の強豪選手にも印象があると思う。相手がびっくりする逆の一本背負いといった逆技を出せれば動揺するし、効いてくると思う。足技も出しつつ、足技で崩して担げたら理想」

実績に裏打ちされた自信もある。17歳だった兵庫・神港学園高2年時に講道館杯全日本体重別選手権を男子史上最年少で制覇。日体大進学後も国際大会で結果を出し、早くも東京五輪の金メダル候補に挙げられる。

「やっと目標にしてきた舞台に立てる。一気に駆け上がってきたことはなく、積み上げたから今がある。自分の柔道をしたら世界で負けないと思っている。言わないことには始まらない。思っていることが口に出ているだけ。もっと、強くなりたい」

五輪2大会連続銅メダルの海老沼匡(27)=パーク24=は66キロから73キロに階級変更。9日に20歳の誕生日を迎えた阿部は、66キロ級で日本柔道界を引っ張る覚悟だ。

「世界の人たちに、66キロ級はやはり『阿部一二三だな』と思わせられるように、力を見せつけて優勝したい。(日本代表は)全階級で、金メダルを狙えると思うので、自分たちがいいスタートを切れればいい。すごいいい勝ち方で次の階級の人にパスできれば」

20歳で迎える初の試合に向けて決意を示した。優勝を成し遂げ、3年後の大舞台への足がかりとする。

◆五輪4連覇!!

「これまで勝ってきた大会とは、世界選手権や五輪で勝つことは違う。いい内容で勝てれば東京五輪がグッと近づいて自信にもなる。みんな年上で、酒を飲みに行ったりしている。世界選手権が終わって、みんなと楽しくやれたら。東京五輪に向けて、勝っていいスタートが切れればいい」

阿部の究極の目標は、五輪4連覇。初出場となる今夏の世界選手権は、“一二三伝説”の第一章になる。

【柔道世界選手権 ブダペスト29日(日本時間同日深夜)=須藤佳裕】男子66キロ級で、初出場の阿部一二三(20)=日体大=がロシア選手から袖釣り込み腰で一本を奪い初の金メダルを獲得。女子52キロ級決勝は初出場の志々目愛(23)が角田夏実(25)=ともに了徳寺学園職=との日本勢対決を制し初優勝。日本は第1日にも男子60キロ級の高藤直寿(24)=パーク24、女子48キロ級の渡名喜風南(22)=帝京大=も優勝。男女軽量級の全4階級を制するのは初めてとなった。

◆「うれしい!!」

日本男子66キロ級の阿部が、世界の舞台で大暴れした。日本男子では五輪と世界選手権を通じ史上3番目の若さで初優勝。すべてを捧げた大会で一番輝くメダルを手にし、大歓声を浴びた。

「今日に向けてやってきたので、うれしい気持ちが一番。落ち着いて自分の柔道ができた」

決勝では試合巧者のプリャエフ(ロシア)から袖釣り込み腰で一本を奪うと、ニヤリと笑った。

4月の選抜体重別選手権以来約5カ月ぶりの実戦だったが、あえてブランクを作って臨んだ。

「世界選手権ひとつにしぼってやってきた。一番いい状態に、とやってきた」

神港学園高時代からシニアの大会に出場するようになり、世界の舞台を狙える位置にいることを感じ始めた。だが選考会での敗戦やタイミングの問題で出場を阻まれた。

大舞台で輝くため、実戦を避けてまで練習漬けの道を選んだ。特に取り組んできたのは逆技(阿部の場合は右組みから出す左技)だ。国際大会で海外の強豪選手に印象づけてきた右のかつぎ技。そこに逆技を繰り出すことで相手を動揺させ、効果的に攻めることを研いた。その成果を見せることができた。

9日に誕生日を迎え成人になった。やりたいことに「お酒を楽しむこと」を挙げた。ちょうどこの大会に向けた減量期間と重なり「終わって、みんなと楽しくやれたらいいですね」と我慢してきた。“初体験”は祝杯という形で解禁となる。

この大会は3年後の東京五輪への「第1章」と位置づけていたが「東京(五輪)に向けての第一歩を踏み出せた。突っ走りたい」。66キロ級に新時代を到来させたヒーローが高らかに宣言した。

【グランドスラム東京大会】男女計7階級が行われ、男子66キロ級は世界王者の阿部一二三(20)=日体大=が2連覇を達成した。女子52キロ級の妹、詩(うた、17)=兵庫・夙川学院高=は初優勝し、きょうだいで頂点に立った。男子60キロ級は世界王者の高藤直寿(24)=パーク24、女子48キロ級は近藤亜美(22)=三井住友海上=がともに2年ぶりに優勝した。阿部一二三と高藤は来年の世界選手権(アゼルバイジャン)代表となった。

◆大内刈りで決めた

出番を待ちながら見守った女子52キロ級決勝で、阿部の目には妹の詩が鮮やかな背負い投げで金メダルをもぎ取るシーンが飛び込んだ。引きあげてくる妹と入れ替わるように畳に向かう。目を合わせたが、会話はない。

「僕の試合の前に妹がプレッシャーをかけてきた。あの姿を見て心が引き締まった」

兄の意地を示すべく臨んだ決勝は苦戦を強いられた。国内でしのぎを削り、互いの手の内を知る丸山城志郎(24)=ミキハウス=に技を仕掛けられない。迎えた延長戦。兵庫から駆けつけ、畳の横の応援席で見守った熱血漢の父・浩二さん(47)の野太い声が場内にとどろく。「スピードあげんかい!」。攻めの姿勢を取り戻した阿部が大内刈りを決める。初戦から全て一本勝ちで2連覇。8月の世界選手権(ブダペスト)を初制覇し、世界王者の証しである「赤ゼッケン」を背負った若武者が、今年を負けなしで締めくくった。

この優勝で来年9月の世界選手権代表に内定。早々に切符を得たことで単身での海外武者修行計画も飛び出した。約1カ月間欧州に渡り、技術の強化はもちろん、英会話も学ぶ狙いがある。「ひと回りもふた回りも大きくならないといけない。1人で行かないと意味がない」。時期はあげなかったが、強くなるためとよどみなく言い切った。

きょうだい優勝のインパクトは大きい。「世界選手権や五輪を2人で優勝するイメージがしっかりついてきた」と阿部。自らを追いかけるように力を伸ばす妹に、兄としての威厳を示し続ける。 (鈴木智紘)

2020年東京五輪開幕まで、24日であと2年。出身大学別で最多62人の夏季五輪メダリストを輩出している日体大とコラボレーションした長期連載の第9回は、柔道男子66キロ級の世界王者、阿部一二三(ひふみ、20)が登場。具志堅幸司学長(61)、柔道部の山本洋祐部長(58)と対談した。東京五輪の金メダル大本命といわれるホープが、2人のメダリストの前で明かしたさらなる進化の鍵とは-。 (取材構成・石井文敏)

◆リオ落選

具志堅学長(以下、具志堅) 「あと2年に迫った東京五輪の青写真は描けているの」

阿部 「今年9月の世界選手権(バクー)で2連覇、来年の世界選手権(日本武道館)で3連覇できればいいと思います」

具志堅 「世界中の人が柔道の日本代表=金メダルというイメージがある。プレッシャーはあるか」

阿部 「プレッシャーに負けていたら五輪で優勝できない。プレッシャーを力に変えようと思っています」

具志堅 「得意技は」

阿部 「担ぎ技。なかでも背負い投げです。世界王者になって周りから研究されているのを感じます。課題を克服して、その上をいけるようにしたいです」

具志堅 「本当のチャンピオンは研究されてもその上をいく。ところで学生生活はどう」

阿部 「もう3年生なんだと思うと、早いです。(2016年の)リオデジャネイロ五輪のときは1年生で、日本代表に入ることができませんでした。この悔しさを東京五輪で晴らしたいです」

具志堅 「練習することはイメージすること。考えない練習は練習ではない。金メダルを獲得した(1984年の)ロサンゼルス五輪で学ばせてもらったこと」

阿部 「自分の柔道を追求していきたいと思っています」

具志堅 「一年一年の積み重ねが大事で、前に進んでいってほしい。他の選手の模範となるような憧れるような選手になってもらいたい。では、どんな稽古に取り組んでいるの」

阿部 「日々、課題を持って取り組んでいます。特に、立ち技からの寝技です。寝技が少し苦手なので」

山本 「伸びる選手は自分で考えて練習する。阿部は学生のなかで突出して考えて練習する選手です」

阿部 「寝技や逆技をひたすらかけるときもあれば、足技ばかりや組み手を重視するときもあります。減量のときは、道着の中に服を着込んで汗をかきます。考えながら練習します」

具志堅 「いいことだ」

阿部 「課題にしていた逆技(阿部の場合は右組みから出す左技)の感覚をつかめてきています。試合で出せるように仕上げたいです」

◆不自由さ求め

具志堅 「訓練、訓練だよ。日体大には体操の白井健三選手(4年)やレスリングの樋口黎選手(助手)ら多くのメダリストが在籍する。他競技の選手との交流は」

阿部 「多少、あります」

具志堅 「一緒に稽古するのもいい」

阿部 「レスリングは柔道につながる部分があると思います」

具志堅 「(2つの競技は)似ているね」

阿部 「寝技の部分でも役に立つと思います。以前、全日本の合宿で(総合格闘技の選手から関節技の入り方などを)体験したとき、楽しかった。(レスリング部の)練習に参加して組み合ってみたいです」

具志堅 「(山本部長が65キロ級で銅メダルを獲得した1988年の)ソウル五輪のとき、柔道はレスリングのような動きになっていたよね」

山本 「英語でJUDOに変わるような感じで、外国スタイルでした。一本を狙わずに、ポイントや反則(指導)を取りにいく“ジャケットレスリング”と言われていました」

具志堅 「柔道とレスリングは類似スポーツで、発見があるかもしれない。ぜひ、日体大のレスリング道場を訪ねてください」

阿部 「行ってみます!!」

具志堅 「今年1月にオーストリアとドイツに約3週間の武者修行に出た、と聞いた」

阿部 「寝技を学ぶことができました。単身での初の海外武者修行で一回りも二回りも成長できました」

山本 「五輪2大会連続銅メダルをとった(現ドイツ代表監督の)トラウトマンに預かってもらいました。彼は十字固めが得意で、かける技術と防御する技術を教えていただいた」

具志堅 「鬼に金棒!!) 財産になったようだね。では再び単身武者修行に出るのか」

阿部 「モンゴルは冬に山道を走るなどハードなトレーニングをやっています。厳しい環境のところでやってみたいです」

山本 「モンゴルや韓国などのアジア圏に行って、不自由さを求めていくのが大事になると思います」

具志堅 「便利さではなく、不自由さを求めていく!? いい言葉だね」

山本 「東京五輪はわれわれが経験した五輪とは異なるほど、日本中が注目する大会になると思います。本来の力が出せれば間違いなく金メダルを取れると思います。平常心を忘れずに頑張ってもらいたいです」

◆予行演習

具志堅 「(来春、日体大に入学予定の妹で52キロ級世界選手権代表、詩との)きょうだい優勝は」

阿部 「もちろん目指していますが、まずは自分のことが大事。それぞれ東京五輪で優勝したいという気持ちがあれば、きょうだい優勝になっているのかなと思います」

山本 「(通例では男子66キロ級と女子52キロ級は試合が)同じ日に行われます。2020年7月26日」

具志堅 「日本中が阿部きょうだいの金メダルに沸く日だね」

山本 「(今年の)世界選手権も同じ日(9月21日)にあります」

具志堅 「予行演習、予行演習」

阿部 「去年の世界選手権(ブダペスト)は6試合中1試合だけ、技ありの優勢勝ちでした」

具志堅 「東京五輪開幕1000日前(昨年10月28日)に、オール一本勝ちの目標を立てた」

阿部 「去年(オール一本勝ちを)できなかった。一年一年、自分の目標を達成して、東京五輪でオール一本勝ちで優勝したい。自分の柔道をしっかりやればできると思います」


【グランプリ大会】男女5階級が行われた。男子66キロ級準々決勝で、世界王者の阿部一二三(ひふみ、20)=日体大=がアルタンスフ・ドフトン(30)=モンゴル=に一本負けを喫した。約3年ぶりの黒星で、国際大会での連勝も「34」でストップ。敗者復活戦に回り3位決定戦で銅メダルを獲得した。同60キロ級で高藤直寿(25)=パーク24、女子52キロ級で志々目愛(24)=了徳寺学園職=が優勝した。

■開始42秒まさか

開始42秒、一瞬の隙を突かれた。世界ランキング1位の阿部が、同19位の格下にまさかの敗戦。国際大会で積み重ねた連勝が「34」で止まった。

3月の大会以来、132日ぶりの実戦だった。阿部は初戦の2回戦、3回戦と順調に一本勝ちしたが、準々決勝で倒され、驚いたような表情を浮かべた。2015年7月の大会以来、約3年ぶりの黒星。引き揚げる足取りは重かった。

立ち止まってはいられない。9月には2連覇を狙う世界選手権(バクー)が控える。初出場となる女子52キロ級の妹、詩(うた、18)=兵庫・夙川学院高=とのきょうだい優勝の目標もある。「去年、達成できなかったので、オール一本勝ちして2連覇したい」。

敗者復活戦に回り、3位決定戦では世界ランキング14位のスロベニア選手を一本勝ちで退けて意地を見せた。逆境に強い王者が、クロアチアで味わった苦杯を糧にする。

【柔道世界選手権 バクー(アゼルバイジャン)21日=石井文敏】兄も続いた!! 男女各1階級が行われ、男子66キロ級の阿部一二三(ひふみ、21)=日体大=が優勝。東京五輪の金メダル候補は、妹で女子52キロ級の阿部詩(うた、18)=兵庫・夙川学院高=が初出場優勝した直後に2連覇を達成した。昨年覇者の志々目愛(24)=了徳寺学園職=は決勝で阿部詩に敗れた。日体大で阿部一を指導する1988年ソウル五輪銅メダリスト、山本洋祐部長(58)が本紙に観戦記を寄せた。

◆同じ内股一本!!

燃えないわけがない。妹・詩が鮮烈な一本で、目の前で金メダルを奪った。兄・一二三は、引き揚げてくる妹と入れ替わるようにして決勝の畳へ。間髪入れずに技をしかけ、詩と同じ内股による一本で決着をつけた。

「(妹が先に優勝し)『次は自分がやるしかない』と思えた。2連覇すること以上に、兄妹での優勝が目標だった」

◆戻った荒々しさ

今年2戦目、7月のグランプリ(GP)ザグレブ大会の準決勝で敗れて3位。国際大会の連勝記録も34で途絶えた。約3年ぶりの敗戦が、世界王者を成長させる。この日の決勝の内股は、相手の頭をつかむようにして投げた。本来の荒々しさが完全に戻った。

ザグレブ大会から帰国後、過去の自身の映像を見返した。持ち味の担ぎ技で相手をなぎ倒す自分の柔道を見失っていたことに気づいた。反省を生かし躍動した。

東京五輪を見据え、新たな取り組みにも着手していた。今年から大会に向けた準備の開始時期を1週間前倒しし、5週間前に変更。日頃から指導する日体大の山本洋祐部長(58)は阿部の良さを引き出すため「できるだけ本能や感覚でやっていかないといけない」と説明する。

◆本能と感覚磨き

逆技(阿部の場合は右組みから出す左技)などに取り組み、練習で考えすぎる傾向があったため、すぐに体が反応して投げられる技を確かめる「本能期間」(同部長)を増やした。強豪の国士舘大などへ出稽古に行きハイレベルな選手との乱取りで刺激を入れた。2年後の東京五輪で金メダルを獲得するために最善の調整法を模索する。

「世界王者になって研究されているなと感じる。その上で勝ちきれる選手が五輪で頂点に立つ選手だと思っている」

妹・詩との兄妹出場もありプレッシャーが重くのしかかった。それでもスター性抜群の一二三は落ち着き、バクーのファンを魅了した。


【バクー(アゼルバイジャン)28日=石井文敏】27日に終了した柔道世界選手権の個人戦を制した日本代表7人が、当地で記者会見に臨んだ。男子66キロ級で2連覇した阿部一二三(ひふみ、21)=日体大=は「東京五輪にまた一歩近づけた」と手応えを口にした。新たな挑戦として、世界ランキング上位で争う12月のマスターズ大会(中国)への出場を検討していることを明らかにした。来年の世界選手権は9年ぶりの東京開催。日本武道館で8月25日-9月1日に行われる。日本勢は29日に帰国予定。

◆きょう帰国予定

金メダルを首にさげた一二三は、女子52キロ級で初出場優勝した妹の詩(うた、18)=兵庫・夙川学院高=との一緒の取材対応に「なんだか恥ずかしい」と苦笑い。それでも喜びの声はほどほどに、今後の野望と東京五輪への思いを語った。

「自分自身2連覇できて、兄妹優勝もできてよかった。東京五輪にまた一歩、近づけたかな」

世界の強豪に警戒されながらも、担ぎ技を武器にして2連覇を達成。前日27日の男女混合団体はサポート役に回り、スタンドから見守った。東京五輪では団体要員はなく、個人戦メンバーのみで構成される。出場となれば阿部は1階級上の73キロ級となる。普段から自分よりも階級が上の選手と稽古をする王者は「試合に出たいなと思った。(73キロ級でも)仕上げられれば」と出場に意欲をのぞかせた。

今後は10月20日開幕の学生大会後、グランドスラム(GS)大阪(11月23日開幕、大阪市中央体育館)に出場。来年9年ぶりに東京で行われる世界選手権の出場権獲得を狙う。

「新しい刺激を入れたい。経験してみたい」

世界ランキング上位で争うマスターズ大会(12月15日開幕、中国)に初出場することを視野に入れる。GS大阪から中2週間と強行日程となるため検討中の段階だが、圧倒的な強さを求めて体を鍛え抜く。

国際柔道連盟(IJF)がこの日までに発表した最新の世界ランキングで、兄妹で世界1位になった。「来年は世界選手権で3連覇して、東京五輪にいい流れを作らないといけない。兄妹では2連覇を目指していきたい」。勝っても決しておごらない一二三。来年4月から同じ日体大に進学する妹とともに進化する。


【全日本学生体重別団体優勝大会】7階級で争う団体戦。男子は9月の世界選手権66キロ級で2連覇を果たした阿部一二三(ひふみ、21)=写真上=を擁する日体大が決勝で筑波大に3-1で勝ち、初優勝を飾った。日体大は準々決勝で世界選手権100キロ超級代表の小川雄勢(22)がいる明大、準決勝で昨年2位の国士舘大を破った。世界選手権後、初の実戦となった阿部は、3回戦から決勝までの4試合に出場して2勝2引き分けだった。女子は龍谷大が初優勝した。

■明大、国士舘大を撃破 「緊張。でも楽しくできた」

個人戦では味わえない喜びを仲間と分かち合った。阿部(3年)は力強い技で相手を寄せ付けず、日体大の初Vに貢献した。

「チーム一丸となって優勝できたのは、いつもとは違う。緊張したけど楽しく試合ができた」

4回戦から決勝まで明大、国士舘大、筑波大と優勝経験のある強豪を撃破。阿部は大将として4試合中、2試合で一本勝ち。明大との準々決勝と、国士舘大との準決勝は自身が一本勝ちしなければチームの敗退が決まる状況で期待に応えた。平成最後の秋に“下克上”を成し遂げた。

次戦は11月23日開幕のグランドスラム大阪。勝てば、来年日本武道館で開かれる世界選手権の代表が内定する。「今年最後の大勝負になる」。阿部は、いつも以上に枯れた声で宣言した。(石井文敏)

■代表首脳陣も地力の高さ評価

日体大の阿部について、日本男子の井上監督は「大将として控えているのは、相手にとっては相当なプレッシャーだっただろう」と存在感の大きさを認めた。全日本柔道連盟の金野強化委員長は、勝負どころをものにする地力の高さを再認識した様子。「あそこで勝ちきるのは、さすが(阿部)一二三だ」とうなった。

【柔道・パーク24プレゼンツ世界選手権】悔やんでも悔やみきれない。阿部一は3位決定戦で何とか銅メダルを死守したが、3連覇を逃した。丸山との準決勝に敗れ、独走していた東京五輪代表争いから大きく後退。まさかの結果に涙を流した。

「(涙の理由は)優勝できなかった悔しさと情けなさから。自分の力がなかった」

序盤に攻勢に出た阿部一だが、決めきれなかった。互いに譲らず延長へ。7分46秒。一時は右脚を引きずるしぐさを見せていた丸山に浮き腰を許し、技ありで屈した。

◆3回戦でイタッ頭突き食らい…

中国選手と対戦した3回戦で頭突きを食らい、右目が腫れた。「徐々に(視界が)ぼやけていった。これが原因だとは言いたくない」。普段は人前で弱気な姿を見せない22歳は気丈に振る舞ったが、思わぬアクシデントに流れをつかめなかった。

丸山は因縁の相手だ。兵庫・神港学園高3年で臨んだ2015年の講道館杯準々決勝で、丸山のともえ投げを食らい、16年リオデジャネイロ五輪代表争いから脱落した。東京五輪前哨戦と位置づけられた今大会で、またも敗れ、肩を落とした。

阿部一は2連覇した世界選手権後、2月のGSパリで初戦敗退するなど国内外で3連敗。さらにけがに苦しんだ。4月に左脇腹、6月には左足首を痛めた。同月末から道着での稽古を再開し、急ピッチで仕上げてきたが、「調整はいつも通りではなかった」と苦しい胸中を明かした。

「兄として残念。情けないと感じている」

妹の詩が2連覇を達成した一方、阿部一は銅メダルに沈んだ。東京五輪のスター候補が、厳しい状況に追い込まれた。(石井文敏)

【柔道グランドスラム大阪大会】男子66キロ級決勝で、昨年まで2年連続世界一の阿部一二三(ひふみ、22)=日体大=が今夏の世界選手権覇者の丸山城志郎(26)=ミキハウス=に延長の末に優勢勝ち。今大会での丸山の2020年東京五輪代表決定を阻止した。昨年9月の世界選手権以来、国内外の大会で427日ぶりの頂点に立ち、五輪代表入りへ夢をつないだ。

◆出たガッツポーズ

瀬戸際に立たされていた男が踏みとどまった。男子66キロ級決勝で阿部が丸山を破り、世界選手権で2連覇した昨年9月21日以来、427日ぶりの優勝。東京五輪代表入りへ、望みをつないだ。

「すごいうれしい気持ち。阿部一二三の存在をたくさんの人に知ってもらうことができた」

今夏の世界選手権で金メダルを獲得した丸山は、今大会も制すれば五輪代表に決定する可能性があった。代表は各階級1人だけ。阻止に向け、阿部は前に出る柔道で準決勝までの4試合中3試合を一本勝ちして、勝負の舞台へ駒を進めた。

宿敵との決勝は序盤から互いに技を仕掛け合う展開。場内から両者への声援が飛び交った。延長に入り、阿部は先に指導2つを誘発し、優位に進めた。「気持ちと気持ちのぶつかりあいだった」と7分27秒、支え釣り込み足で技ありを奪い、優勢勝ち。左手でガッツポーズが出た。

阿部は2016年リオデジャネイロ五輪出場を逃して以降、17、18年と世界選手権で優勝し、66キロ級を牽引(けんいん)してきた。しかし、切れ味鋭い内股と、ともえ投げを武器にする丸山には3連敗中で、通算でも2勝4敗と負け越し。3連覇を狙った3カ月前の世界選手権も準決勝で丸山に敗れ、3位に沈んだ。

◆妹・詩に「闘争心」

「自分が積み上げてきたものをつぶされたというか、五輪までもう一度、積み上げたかった」

丸山との直近の3試合は延長戦で屈していた。同じ日体大に通う今大会女子52キロ級2位の妹・詩(うた、19)とトレーニング機会を増やした。「(世界選手権を優勝した)妹を見ると悔しくなり、闘争心がわいた」。約250段の階段ダッシュなどで徹底的に追い込んでスタミナも手にし、この日は動きが最後まで止まらなかった。丸山に17年グランドスラム東京大会以来、720日ぶりに勝ち、存在感を示した。

◆夢の五輪兄妹Vへ

「ただ一回勝つのではなく、東京五輪出場を手にして優勝するまでは悔しさを晴らせない。何がなんでも出場して、金メダルを勝ち取りたい」

昨年の世界選手権以来の兄妹アベックVこそ逃したが、兄が威厳を示した。夢の五輪まで残り8カ月。目標は「東京五輪兄妹優勝」。この栄冠を逆襲の号砲にする。(石井文敏)

【GSデュッセルドルフ大会】2020年東京五輪代表選考会の1つ。開幕し、男子66キロ級で一昨年まで2年連続世界一の阿部一二三(ひふみ、22)=日体大=が決勝でジョージア選手に一本勝ちし、優勝。土壇場で執念を見せ、五輪代表争いで1番手の世界王者、丸山城志郎(26)=ミキハウス=に並んだ。最終選考会となる4月の全日本選抜体重別選手権(4、5日、福岡国際センター)を制し、大逆転で五輪出場を決める。(ペン・石井文敏 カメラ・納冨康)

◆左手親指を負傷も

ライン川が流れるドイツ西部のデュッセルドルフで勝ちどきをあげた。男子66キロ級の決勝。阿部一は海外勢を圧倒する体幹の強さを武器に大腰で相手を沈めた。負けられない状況で6試合を勝ち抜き、強さを示した。

「優勝できたことは良かったが、全然満足していない。もっといいパフォーマンスができる」

負けたら東京五輪への扉が閉ざされる土俵際から押し返した。序盤戦に左手親指を負傷するアクシデントに見舞われた。自然体を心掛けたというが、プレッシャーからか守りに入る場面もあった。準決勝では先に指導2を受けるピンチに立たされたが、延長の末、移り腰で辛くも制した。

◆最後は大腰で一本

逆境の連続を救ったのが、同じ日体大に通う3学年下の妹・詩(うた、19)の存在だった。自身の決勝前、女子52キロ級で妹が優勝する姿を見届け「兄としても負けられない。燃えた」と奮い立った。決勝は2分1秒に大内刈りで技ありを奪い、その後も攻撃の手を緩めず、残り40秒で大腰を決めて一本勝ちした。

昨年は左脇腹、左足首を負傷するなどけがに苦しみ、丸山との代表争いでリードを許した。この日、応援に駆けつけた父・浩二さんが「センスはないけど、努力を積み重ねてここまできた。去年が一番どんくさかった」と回想するほどの低調ぶりだった。阿部一は「昨年経験したものをぶつける」と一念発起。畳の上だけでなく、食事で栄養のバランスを意識するなど体調管理を徹底。GS大阪からの国際大会2連勝につなげた。

5カ月後の東京五輪へ価値あるVだ。五輪代表争いで1番手の丸山が左膝の故障で今大会を欠場する中、僅差で追う立場の阿部一が勝ち切った。阿部一がV逸すれば、27日の強化委員会でライバルが代表に決まる可能性もあったが、阻止した形だ。男子日本代表の井上康生監督(41)は「阿部は勝たなければいけない一戦で勝ち切った。非常に大きな勝利だ。(丸山と)並んだような状態となり、2人とも次の闘いが重要になった」と横一線を強調。過去の両雄の対戦成績は阿部一の3勝4敗。4月の全日本選抜体重別選手権が最終決戦になる。

「次も勝ち切って代表になり、兄妹で五輪優勝という夢を達成したい」

2018年9月21日の世界選手権(バクー)以来518日ぶりの兄妹優勝で、言葉にも力強さが戻ってきた。丸山に準決勝で敗れた昨夏の世界選手権(日本武道館)以降、破竹の12連勝でライバルに並んだ。勢いに乗る阿部一が、4月の最終決戦でドラマを起こす。

■試合後に「アベウタ」2度も…場内が笑いに

試合後に“ハプニング”が待っていた。優勝者を紹介する場内アナウンスで読み上げられたのは、妹の「アベウタ」。日本柔道界が誇る兄妹の読み間違いに、場内は笑いに包まれた。阿部一は「マジか」と頭をかきながらも、優勝の余韻に浸ろうと必死に平静を装った。一度は「ヒフミ」と言い直されたが、直後に再び「アベウタ」と言い間違えられてしまい、「1回なら分かるけど、2回間違えられたので。なんでそんな間違えているんだろう」と笑った。


【東京五輪男子66キロ級代表決定戦】「東京五輪の星」が24分の死闘を制した!! 2017、18年世界選手権2連覇の阿部一二三(ひふみ、23)=パーク24=が19年世界一の丸山城志郎(27)=ミキハウス=に大内刈りで優勢勝ち。五輪代表選考で日本柔道史上初となる1試合限定の「ワンマッチ」を延長で制し、初の五輪代表を決めた。妹で女子52キロ級の阿部詩(うた、20)=日体大=と日本柔道初のきょうだい五輪代表を実現。きょうだいでの金メダルへ、大きく前進した。

無観客で息づかいが聞こえるほどの静寂の中、阿部が声を出して攻めた。開始24分、大内刈りで優勢勝ち。柔道の総本山・講道館で行われた激闘を制し、東京五輪代表を決めた。止血のため右鼻にティッシュペーパーを詰めた23歳は、うれし涙を流した。

「1シーンも忘れられない闘いだった。長い試合になったけど、前に出る自分の柔道、その中で冷静さも貫き通せた」

柔道の創始者、嘉納治五郎の肖像写真の前で実施された異例の代表決定戦。阿部は武器の袖釣り込み腰、丸山は内股を軸に展開した。新旧の世界王者によるワンマッチは4分間の試合時間を終えて時間無制限の延長へ。前に出続ける阿部は5分50秒で2つ目の指導を誘発。過去の対決で食らったともえ投げも徹底して防御した。技の打ち合いで12分過ぎには右手中指を負傷。治療して畳に戻った6分後には鼻血が出た。丸山の白い道着に血がにじむほどだったが「集中力は切れなかった」。

24分、阿部が切り込んだ大内刈り。「イヤアー!!」と力を振り絞った。丸山の返し技が及ばず。ビデオ判定の末、過去の対戦で最長だった13分23秒を超える24分間の決闘に決着をつけた。兵庫・神港学園高3年で臨んだ2015年の講道館杯では丸山に敗れ、16年リオ五輪代表争いから脱落した。あれから5年1カ月。再び立ちはだかった4歳上の好敵手を破り、「丸山選手がいたからここまで強くなれた」と感謝。通算成績も4勝4敗の五分と戻した。

「しんどい時期、モヤモヤする時期もあったけど、やるしかなかった」

6歳で帯を締めた。幼少期は父・浩二さん(50)と訓練。畳外ではメディシンボールを使った腹筋練習や走り込みなどで体幹を鍛えてきた。背負い投げ、袖釣り込み腰など担ぎ技につながる強靱(きょうじん)な体の原点だ。「真面目。センスはないけど、努力だけでここまできた。1ミリを積み重ねて10cm、1mにつなげてきた」。阿部は天才と評されるが、浩二さんがそう振り返るほど。阿部の座右の銘は「努力は天才を超える」。慎重な性格で階段を一歩ずつ上がってきた。

コロナ禍は先に五輪代表を決めた妹・詩との練習機会を増やし、200段以上の階段で走りこんだ。「長い時間でスタミナも切れなかったのは大きい」。体の強さを追い求め、大一番の粘りにつなげた。

「東京五輪の星」として脚光を浴び続けてきたが、18年秋から昨夏まで丸山に3連敗し、崖っぷちに。コロナの影響で東京五輪が延期になり、実戦もない中、柔道人生をかけた24分間の死闘を制した。

「まだここ(五輪代表)がゴールじゃない。兄として絶対に負けられない。きょうだいで一番輝く舞台にしたい」

五輪の出番は妹の詩と同じ21年7月25日。過去の夏季五輪で日本選手で兄と妹による五輪金メダリストはいない。初の偉業へ、阿部きょうだいが東京五輪の主役になる。 (石井文敏)


柔道男子66キロ級で東京五輪代表の阿部一二三(ひふみ、23)=パーク24=がサンケイスポーツの新春インタビューに応じ、女子52キロ級代表の妹・詩(うた、20)=日体大=とともに「きょうだいでオール一本勝ちして金メダル」と誓いを立てた。昨年12月13日に行った丸山城志郎(27)=ミキハウス=との代表決定戦についての“裏話”も、初めて詳細に明かした。

◆きょうだいで「伝説」残す

2度目となる東京五輪イヤーの幕開け。日本のお家芸、柔道界の若きスターで「東京五輪の星」と期待される阿部が、目標を力強く言い切った。

「きょうだいでオール一本勝ちして金メダルを取る。伝説に残るし、これ以上の目標はない」

昨年12月13日、世界王者・丸山との代表決定戦を24分間の死闘の末に制して念願の五輪代表に内定した。東京五輪では女子52キロ級に出場する妹・詩とともに大会3日目の7月25日、日本武道館の畳に立つ。兄と妹での五輪代表は日本柔道史上初めてだ。

「自分のスタイルは、前に出て一本を取りにいく圧倒的な柔道。詩のスタイルも投げ切る柔道。きょうだいで一番輝く舞台にしたい」

「生きるか死ぬか」の覚悟で臨んだ丸山との“令和の巌流島決戦”から半月余。日本中が注目した激闘の舞台裏について、落ち着いた表情で明かした。

「減量のリカバリー食としては初めてうなぎを食べた。高かったです(笑)。しっかり栄養が取れた」

昨年12月12日午後8時、前日計量をパスした阿部は宿泊するホテルの自室に戻り、うなぎのかば焼きを食べた。午前0時に就寝し、翌13日午前8時起床。朝は大好きなステーキを100g、勢いよく頬ばった。

「やるぞ!! と気持ち的にも高まったし、リラックスもできた」

◆勝負パンツ赤 インナーも

その後は散歩や仮眠を取るなどして過ごし、午後2時に会場の講道館(東京・文京区)に到着。同3時15分から15分間、あえて試合で使用する畳でウオーミングアップした。試合前の調整で赤のインナーシャツ、試合でも赤のパンツと勝負カラーを着用。同4時44分から24分間、阿部は丸山を攻め続け、技ありでライバルを退けた。

「試合後、みんなに『目がすごかった』と言われた。そんなに? と思ったけど翌日、顔面が筋肉痛だった。初めての経験。そのくらい顔に力が入って集中していた」

今後は所属のパーク24や母校の日体大を拠点に練習を積み、出稽古も積極的に行う。武器の背負い投げ、袖釣り込み腰などの担ぎ技を軸に長年強化に励む足技も磨く。コロナ禍で不透明だが、例年通り開催されれば2月以降の欧州遠征を次戦として想定している。

「五輪までには国際大会に出たい。(海外の)どんなタイプの相手でも、投げ切ることを強化したい」

柔道の聖地、日本武道館は2019年夏の世界選手権で経験。3位に沈み悔しさを味わったが、五輪金メダルへの思いが一層強くなった。「日本武道館で試合ができることは本当に幸せ。たくさんの人に見られている感じがした」。世紀の一戦を制した自信を胸に、阿部が2021年の主役になる。 (石井文敏)


日本柔道界史上初めて兄と妹で東京五輪代表に内定している男子66キロ級で兄の阿部一二三(ひふみ、23)=パーク24=と、女子52キロ級で妹の詩(うた、20)=日体大=のルーツをたどった。地元の神戸市を拠点にする「兵庫少年こだま会」で柔道を始めたのは、一二三が6歳、詩が5歳のとき。東京五輪で金メダル候補に挙がるきょうだいの原点は、こだま会名物の“離れ小島”と呼ばれる一畳の畳だった。(取材構成・石井文敏)

◆兵庫警察署の一角

神戸電鉄・湊川駅から500mほど歩くと、兵庫警察署がある。道場は同署敷地の一角。コロナ禍の影響で今は閉鎖中だが、そこに阿部きょうだいの原点がある。学校の教室3分の1の広さに敷かれる畳とは別に、まるで浮島のような「一畳の畳」が置かれる。詩が幼少時代を懐かしんだ。

「自分の柔道の始まり。原点ですね」

一二三が6歳、詩は5歳で初めて帯を締めた。入門直後は「離れ小島」と呼ばれる一畳の畳で自分を守るための受け身を練習するのが「兵庫少年こだま会」の伝統。幼少から小学生時代にかけて阿部きょうだいを指導した同会の高田幸博さん(57)が回顧する。

「いきなり初心者が(他の子供たちと)まざると衝突など危ないですから。最初は『離れ小島』で基本の受け身を練習する。柔道が面白い、と感じてもらえるような指導を心掛けています」

◆当時は100人大所帯

同会は兵庫県内有数の強豪。コロナ禍の影響で近隣の体育館などを借りて60人ほどで稽古に励む現在とは異なり、当時は元気いっぱいに走り回る子供たち100人ほどが集まる大所帯。指導歴30年以上の高田さんは「寝転んで頭を上げられることが目安。みんなと打ち解けられることも判断材料」と、一畳の畳から何枚も敷いた畳へ移行する時期の基準を明かす。

和田岬小への入学前に門をたたいた一二三は全国大会に出場するような上級生を横目に、基礎練習に励んだ。直立不動で泣き続けていたこともあったというが、道着が似合う男を目指して努力した。「体が小さくて泣き虫だったけど、体力的にも意識的にも(成長が)早かった」と高田さん。2、3カ月間で“入門編”をクリアした。

◆オール一本で「金」

3学年下の妹・詩は付き添いで道場に来ているうちに、兄の練習する姿を見て柔道に興味を抱いた。高田さんは「詩は天真爛漫(らんまん)。コミュニケーションをとりながら頑張っていくタイプ。めそめそ泣くようなことはなかった」と振り返る。両親は女の子だから強要するつもりはなかったが、「自分もやる」と詩は聞かなかったという。「好奇心はすごかった。(『離れ小島』には)面白がって取り組んでいた」。兄の背中を追いかけ、すくすくと成長していった。

相手と組んで技を掛け合う柔道に魅了された阿部きょうだいは、小学生の高学年頃から同会での週3回ほどの練習に加えて“出稽古”にも励んだ。基本の受け身を土台に、代名詞の袖釣り込み腰など攻撃的な投げ切るスタイルを築いた。

半年後、日の丸を背負って日本武道館に立つ。出番は大会3日目の7月25日。「きょうだいでオール一本勝ちして金メダル。一番輝く舞台にしたい」と一二三は決意する。「離れ小島」から育った阿部きょうだいが東京五輪の主役になる。