工藤公康は日本シリーズMVPに。副賞の車の前で記念写真に収まる広島球団では、第1戦の引き分けで第9戦チケットも発注してあったという。「シリーズ開幕球団はあらかじめ第8戦までチケットを準備する義務があるんです。引き分けが発生した時点で第9戦も作るわけです」と担当者。第8戦が行われたゆえ、こんなことも勉強になった。
3連敗からの4連勝は西武の前身、西鉄が58年に遂げて以来2度目。歴史は繰り返された。その後の89年の巨人を含めて3例しかない。そして第8戦まで及んだケースはこのあと39年間ない。
「ビールかけ会場に行け!」。デスクの指令が飛ぶ。広島グランドホテルに急いだ。工藤がビールの泡にまみれる。当時は全て午後1時プレーボール。締め切りまで時間は十分ある。会場の隅で原稿用紙(当時PCはない)を取り出し、落ち着いてMVP男の原稿を書いた。雑用だらけ?の毎日で初めて署名入りの記事を書いた。
新人記者が挑んだ初めての日本シリーズ。一番の衝撃は同じ1963年生まれの左腕がとてつもなく大きく見えたこと。40年前の工藤が「諦めないこと」を教えてくれた。そして2027年、6年連続Bクラスの中日に、どんな奇跡が起こるのか見てみたい。(敬称略)
■伊藤 英慈(いとう・えいじ) 1963年生まれ。86年サンケイスポーツ入社。西武、横浜(現DeNA)、ヤクルト、アマ野球などを担当。巨人は第2次藤田政権、第2次長嶋政権で計6年間担当。元野球殿堂入り競技者表彰委員会幹事。法大野球部OB。本紙専属評論家の江本孟紀、小早川毅彦の両氏は一生頭が上がらない大先輩。コンテンツビジネス局ニュースコンテンツ部嘱託。