7月の半ばだった。「アベサン。チョット、イイデスカ?」。虎番サブキャップ・阿部はオマリー打撃コーチ補佐から声をかけられた。
「ひとつ考えていることがある」
オマリーコーチは不敵な笑みを浮かべた。
「パピー(ゴメスの愛称)が今度、甲子園でお立ち台に呼ばれたとき、僕も通訳として、いこうと思っているんだ。パピーの打撃は今、調子は悪いけど、いずれ、上がってくるだろう。それを楽しみにしているよ」
オマリーコーチといえばパフォーマンス。現役時代にヒーローインタビューで叫んだ「ハンシンファンハ、イチバンヤァー!」はあまりにも有名で、「コウシエンキュウジョウニ、チュウシャジョウハ、アリマヘーン」という甲子園のCMも。さらには1994年に、『オマリーのダイナミック・イングリッシュ』というモノスゴイCDを発売したりもした。
これは原稿になるぞ、と阿部は思った。すぐに「ゴメス復活へ、オマリーコーチがビッグプラン」という見出しが浮かんだ。一緒に六甲おろしを歌うこともある? いつもの球団通訳さんは、どうするの? 発案者は誰? 根掘り葉掘り聞き出そうとしたのだが…。この取材がいけなかった。オマリーコーチは人さし指を口にあてて、クギを刺した。
「アベサン、シークレットネ。トップシークレットネ。キジ、ダメネ」
なんとしてもサプライズで敢行して、ムードを盛り上げたいという。そうなると、振り切って書くわけにはいかない。とりあえず阿部は、その場はしぶしぶとうなずき、どこかで書けるチャンスはないか、虎視眈々と狙っていたのだが…。
結局、ゴメスは打撃不振から抜け出せず。たまにヒーローインタビューに呼ばれることはあっても、チーム状況が悪いこともあり、実行に移せないまま、シーズン終了を迎えた。結局、ゴメスもオマリーコーチも退団したことで、幻のお立ち台に…。オマリーインタビュアーのヒーローインタビュー、ぜひ一度見てみたかったと、阿部はいまも残念でならない。