今春リリースの松任谷由実の新アルバムへの思いを明かした松任谷正隆氏 ユーミンの夫でプロデューサー、松任谷正隆氏(73)がユーミンが今秋発売のオリジナルアルバムに対する思いをサンケイスポーツなどに文書で明かした。以下本文。
われわれの求めているもの
あれはほんの4、5年前のことでしょうか。スタッフが倉庫から未発表曲の入ったマルチテープを持ってきたことから始まりました。50年も続けていれば未発表曲もそれなりにあります。その曲はどうやら70年代の終わりか、80年代初めのものらしいことが、スタジオのデータとかミュージシャンの声から分かりました。
ところが作曲した由実さんも、編曲した僕自身もほぼ記憶にない。確かに(松任谷)由実さんらしい曲だし、僕らしい音なので、それは間違いないのだけれど、こんな曲あったっけ…なんてみんなで顔を見合わせたのを覚えています。聴いているうちに、この70年代だか80年代の音が妙に新鮮で、現代では絶対に再現出来ないことが肌で感じられてきました。
しかも「ラララ」で仮歌を歌っている由実さんの声もずいぶん若くて高い。このオケは使いたくてもキーが高くて今では無理、再び倉庫行きか、なんて諦めかけていた頃、某国立大学に、声をサンプリングしてメロディにする研究をするチームがあることを知りました。AIなどという言葉が今みたいに普通ではない時代だったので(たった数年前のことなのに!)、それがどういうことなのか理解出来ず、でもどうなるのかやってみたい、という気持ちから、昔の由実さんの声をサンプリングして新しいメロディに作り替えられないか、という打診をし、やってみよう、という返事をもらったのです。
試行錯誤の末に出来上がったものは、まだまだ僕がイメージしたものとはほど遠く、似ていなくもない、程度のものだったでしょうか。でもこれを部分的に使って、昔の自分に会いに行く、というテーマの作品にしました。Call me backという曲です。そう、これが全ての始まりでした。
それからほんの数年後、Dreamtonicsの「Synthesizer V」というソフトウェアの存在を知りました。あの頃某国立大学が挑んでいた研究は、この短い時間でのテクノロジーの発達ゆえか、それとも技術者の才能ゆえか、天文学的な発達を遂げていました。誰が聴いても昔の由実さんがそこにありました。僕はもやもやしながらも、これは使える。と、どこかで思ったのです。