「ひふみん」の愛称でタレントとしても活躍し、1月に肺炎のため死去した棋士、加藤一二三さん(享年86)のお別れの会が6日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で行われ、パネルが展示された(撮影・大澤謙一郎) 加藤一二三さん(享年86)のお別れの会が6日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で行われ、長男の順一さんが喪主としてあいさつした(撮影・大澤謙一郎)「ひふみん」の愛称でタレントとしても活躍し、1月に肺炎のため死去した棋士、加藤一二三さん(享年86)のお別れの会が6日、東京・千駄ヶ谷の日本将棋連盟で開催された。防衛戦のため、通夜・告別式に出席できなかった藤井聡太六冠(棋聖、竜王など)らも参列。改めて故人の残した功績の大きさや、愛された人柄がよく分かるセレモニーだった。当日、本人が希望していた名誉十段が追贈されたので、ここからは加藤名誉十段とする。
その当日、遺族から「一般社団法人加藤一二三レガシー」を設立することが発表された。
「将棋は芸術だ」と生前話していた加藤名誉十段が生涯追求した精神と文化的遺産を伝えることを目的に問い合わせなどに対する窓口を一本化し、知的財産(IP)の保存、整理、情報発信などを行っていく。貴重な資料などが散逸しないように組織だって管理していくという目的もある。
生前、クラシック音楽を愛し、モーツァルトやベートーヴェンなどの交響曲を好んだ。勝負師としての張り詰めた心を音楽によってリラックスさせ、集中力を高めていた。音楽に楽譜があるように将棋には棋譜がある。人柄、功績だけでなく、数々の名勝負を後世に記録として残していきたいという遺族の願いも設立の理由のひとつだ。名局集などの発刊も計画中だという。
アイデアの段階だが、壮大な構想もある。海外発信だ。加藤名誉十段は「いい音楽は後世の残る。いい将棋の棋譜も後世に残る」と話していた。将棋は藤井人気でスポンサーが多くつき、新たな棋戦が設けられるなど、国内では盛り上がっているが、取った駒を使えるなどの難しいルールや、駒が日本語の漢字で記されていることもあり、世界的な普及という意味ではチェスや囲碁に及ばない。
そこでひふみんのネームバリューを生かしつつ、故人の思いを実現する。理事長を務める長男の順一さん(65)は海外勤務が9年間と長く、40年間英語、仏語を日常的に使ってきたという。「父はいい将棋は音楽と同じと話していた。この経験を生かして将棋界の発展、海外普及に貢献できればという思いでいます」と語学力とひふみんブランド活用した世界展開を目指す考えを明かした。
最近封切られたマイケル・ジャクソンの自伝映画が大人気のように海外ではジョン・レノン、ディビッド・ボウイ、フレディ・マーキュリーら亡くなった大スターの遺族らが財団を設立して、楽曲や肖像権などの知的財産を管理し、死後も愛され、そのアーティストの音楽が聴かれ続けられる状況を作り出している。日本では最近、代表曲がサブスク解禁された西城秀樹がその形に近づきつつある。将棋界では加藤名誉十段がそのロールモデルに最適といえる。
おりしも空前のインバウンドブームである。ひふみん、世界へ-。別れを告げた日に新たな旅が始まった。(大澤謙一郎)
■加藤 一二三(かとう・ひふみ) 1940(昭和15)年1月1日生まれ、福岡県出身。早大中退。14歳で当時史上最年少の中学生プロ棋士になり、58年、史上最速でプロ棋士最高峰のA級八段に昇段。82年、名人位に就く。タイトル獲得は名人1期、棋王2期など通算8期、棋戦優勝23回。公式戦対局数は2505局で歴代1位。2017年6月に現役最高齢の77歳で引退した。00年に紫綬褒章、18年に旭日小綬章受章。仙台白百合女子大学客員教授。著書に「鬼才伝説 私の将棋風雲録」など。