その10年後、私は開業医として日々の診療に追われていた。ある日、親友だった作家の半村良さん(2002年没、享年68)に「たまには銀座でも行って息抜きしようよ」と誘われた。同伴したのは東映で後に副社長となる渡辺亮徳さん(19年没・同89)。お二人の案内で夜の街に繰り出し、最初に入った店は小さなビルの細い地下にあった。現れたママに「初めまして」と名刺を差し出して、「もしやあなたは…」。あのとき気を失った女性だったのだ。
以来、「麻衣子」に通い続けて50年近く。ママが店を休み慶大病院に入院中の母親を看護する様子も見つめ、葬儀には彼女側の人間として参列した。感慨は尽きない。ママには銀座のカルチャーにより一層磨きをかけ、寄り添ってもらいたいと願うばかりだ。
■水町 重範(みずまち・しげのり) 1946年生まれ、77歳。岐阜県出身。日本医科大卒業後、慶大病院内科を経て、82年に東京・西新宿に水町クリニック開設。岸信介、鈴木善幸、中曽根康弘各首相の主治医となり、鈴木氏、中曽根氏の外遊時、歴代最多23回にわたって随行医を務めた。充実した医療提供のために設置した会員制医療サービス「水町メディカルクラブ」には政界、財界、スポーツ界、芸能界などから多くの会員が集まる。