息を吐いて打席へと向かう。ワゲスパックは3球連続ボール。4球目を見逃し一度は一塁へ歩きかけた。判定はストライク。気持ちを整え、ファウルでタイミングを合わす。フルカウントから148キロ直球を振り抜いた。
低く鋭く放たれた打球は黒土を弾み、左翼芝生に転がる。待っていたのは歓喜のウオーターシャワー。仲間たちからの祝福にびしょぬれになった。球団では金本知憲が2003年、ダイエーとの日本シリーズ第4戦で放って以来のサヨナラ打。17年にドラフト1位で入団したときの監督に続いた。
日本シリーズは4試合で打率・188(16打数3安打)と決して状態がいいというわけではない。最後の打者となった第3戦(10月31日、甲子園)の試合後も「ありがとうございました」と口数少なくクラブハウスへと引き揚げた。ただ、シーズン中から貫き通した己のスタイルは変わらなかった。2-1で迎えた五回1死一、三塁の好機。ボテボテの遊ゴロに全力で走った。併殺崩れ。泥臭くもぎ取った今シリーズ初打点だった。
阪神・岡田彰布監督(左)と大山悠輔「どんな形であれ得点する。1年間しっかり走り切る。それをやってきた成果が出たと思う」
プロ入り後から徹底してきたのが、全力疾走だ。勝利のために、やるべきことを最大限の力で、表現する。そんな4番が中心で構えているからこそ、競り負けない。
「この先どうなるか分からない。(甲子園)最後か、まだあるか僕たち次第。先のことよりもあしたの試合勝つだけです。またチーム一丸で頑張ります」と大山。サヨナラの余韻に浸ったのは一瞬だけ。岡田監督も「あそこでもう打たなあかんやろ」と全幅の信頼を寄せていた。八回途中には左脇腹筋挫傷から湯浅が139日ぶりに1軍登板を果たし無得点に抑えた。絶対に負けられない一戦で主砲が応えた。もう足踏みはいらない。38年ぶりの日本一まで、大山が全力疾走する。(原田遼太郎)