2023年、オリックスとの日本シリーズ第1戦の五回、二盗をヘッドスライディングで決めた阪神・佐藤輝明 アノ時のコメントは強烈だった。阪神・岡田彰布監督(現オーナー付顧問)の〝最後の咆哮〟だ。退任が決まった影響なのか。チームのムードが手に取るようにわかる2連敗。2024年10月12日開幕の3位DeNAとのCSファーストSを甲子園で迎えながらも、あっけなく敗退した。試合後、怒りの矛先が向けられたのは、佐藤輝明だった。
「去年見てみいや、去年のクライマックスから、日本シリーズでも。大事なところで大きい一本とか打たれへん言うの。盗塁1個やないか、去年の日本シリーズ。言うてるやんか。ちゃんと練習して、ちゃんと自分の打ち方も分かって、ちゃんと打てるヤツが、大事な場面で一本打てるんよ。簡単にホームラン、打てるわけないって。打ったか? 日本シリーズで。え? 言われたの盗塁だけやんか。そういうことやんか」
延々に続くかと思われた佐藤輝への10・13発言から、ちょうど1年。言葉を重ねながらも本音をひたすら隠す藤川球児監督とは大違い。内面をさらけ出し、明確に思いを伝えていた、と改めて気づかされる象徴的な放言だった。
「盗塁1個」…。場面は23年のオリックスとの日本シリーズ(NS)第1戦(京セラ)。両軍無得点で迎えた五回、先頭で佐藤輝が中前打。次打者のシェルドン・ノイジーの打席の初球、ヘッドスライディングで二盗に成功した。奇襲から山本由伸(現ドジャース)を一気に攻めて、4点を奪取。六回に3点を加えて迎えた九回1死満塁で佐藤輝の三ゴロで8点目を挙げて、無失点勝利を飾った。
4勝3敗で制し、日本一に輝いたものの、佐藤輝の打点は初戦の内野ゴロによる1点のみ。5番から始まった頂上決戦は最後は7番で終了。7試合出場で27打数4安打の打率・148。本塁打ゼロで12三振を喫した。広島とのファイナルSでも12打数2安打2三振。老将にとって不愉快極まりないDeNA相手に連敗を喫した24年ファーストSは8打数1安打5三振…。
岡田監督だったから、ではない。矢野燿大監督時代を含め、入団から4年連続出場のCS通算成績は13試合出場で43打数7安打の打率・163。打点は2で16三振。本塁打は22年のDeNAとのファーストS第3戦(横浜)でのソロのみ。ちなみに今回は招集が見送られた日本代表では強化試合を含めて33打数6安打の打率・182で4打点。本塁打ゼロだ。対照的に森下翔太はNSで新人最多の7打点で優秀選手賞を獲得し、昨年のプレミア12では4番を務め、CS打率・389。〝お祭り男〟に変身するチームメートとは打って変わって、佐藤輝にとって短期決戦は鬼門だ。
そして25年。15日開幕のファイナルSの相手はDeNAに決まった。前虎将の言葉を借りれば、紆余曲折はあったものの「ちゃんと自分の打ち方」を理解して、結果的には「簡単にホームラン」を積み上げて、40本塁打。「大事な場面で一本」を繰り返して102打点に到達した。打撃の引き出しが増えた。何より相手が怖がっていることを認識できた。4年間の佐藤輝とは違う。そういえば、岡田監督はアノ時、こうも語っていた。
「野放しにしたら全然やもんな。大変やで。怒る人間がゼロやったら」
そうではなかった。ムチが入らなくても、結果は残せる。今シーズンは、それを証明してみせた。今までの経験から「ちゃんと練習して」つかんだ2冠。フェニックス・リーグ参加を取りやめて、久しぶりの試合となるが、逆に真価を示すチャンス。〝オカの予言〟をことごとく覆し、日本を代表する4番に成長した。〝非ラッキーボーイ〟を返上するための舞台が、やっと整った。
■稲見 誠(いなみ まこと) 1963年、大阪・東大阪市生まれ。89年に大阪サンスポに入社。大相撲などアマチュアスポーツを担当し、2001年から阪神キャップ。03年には18年ぶりのリーグ優勝を経験した。現在は大阪サンケイスポーツ企画委員。