ロックバンド、FANTASTIC◇CIRCUS(ファンタスティックサーカス)のボーカル、石月努が、4月30日に約2年半ぶりのソロアルバム「HUMARIUM(ヒューマリアム)」を発売する。社会情勢などを多角的に表現した短編映画のような新作は、大切な人との別れなどを経験した自身の苦悩も投影した。「救いようのない時に救いようのない歌もありだと思っている」。理想論ではない、生身のメッセージだ。
石月は、1990年代後半から2000年代前半に人気を集めた5人組のビジュアル系ロックバンド、FANATIC◇CRISIS(ファナティッククライシス)のリーダーでボーカル。バンドは、2022年から現名称に改めて3人組で再始動したが、1人が体調不良で休養したことを理由に、24年をもって活動休止に入った。
師走のラストステージから約4カ月。ソロでの新アルバムは、ひとりの人間を主人公に表現した。タイトルの「HUMARIUM」は自身が考えた造語。「FANATIC◇CRISIS時代から、恋愛というよりも、『人間』をテーマにした曲を多く書いてきた。近年は新型コロナなどで世界や価値観が大きく変わったけど、この世に住む人は、死であったり、生きることは何だろうという思いが、共通認識としてあるんじゃないか。客観的に『人間』を見ようという思考に至りました」と意図を説明した。
昨今の社会情勢や人の生死などを連想する言葉が並び、重いメッセージを感じさせる13曲。前作を発売してから約2年半の間、自身が影響を受けた音楽家の坂本龍一さん、BUCK-TICKのボーカルの櫻井敦司さん、漫画「ドラゴンボール」作者の鳥山明さんら先達が相次いで旅立ち、父親を亡くしたことなども、制作に影響しているという。
「前作を出してから、大好きなアーティストが他界されたり、父親が亡くなり、ちょっと元気が出なくて。ファンタの活動があったから、そこはやりきろうという思いではあったんですけど、1人になると喪失感がありました。そして、昨年はバンドのメンバーが休養し、本当にいろいろなことが重なりました。でも、やっぱり、待っていてくれるファンの方々がいる。完成までには非常に時間がかかりましたね」
自身は8年前に鬱病を発症し、うまく付き合いながら仕事や生活をしてきた中、大切な人との別れや仲間の休養で直面した苦しみや悲しみ。感じたことは日々、スマホや紙の切れ端に記録し、メモをまとめる作業から1年かけて完成した。重いメッセージに光明を見いだすような「救いのある言葉」はあえて外した。
「時間にすると短く、コンパクト。伝えたい言葉がさらっと入っていればいいのかなと。違和感や生きづらさを感じながらも、必死で生きているのが人間。聴いていて気持ちが落ちる曲は、もう落ちてくださいというか・・・。本当に救いようのない時に本当に救いようのない歌もありだと思っている。何がスタンダードかはさておいて、石月努の世界観を表現できて、やり切った感がありますね」と力を込めた。
FANATIC◇CRISISとのボーカルとして1997年にデビュー。「火の鳥」や「Maybe true」などで人気を集め、平成のビジュアル系バンドシーンを彩った。2005年に解散後は一度、音楽活動から離れた。
「FANATIC◇CRISISが青春の全てだったし、それまでの人生の全てと言っても過言ではないものだった。ありがたいことに、他にバンドをやらないかと誘っていただいたんですけど、その気になれなくて・・・」。バンド時代からCDジャケットや衣装などのデザインを手掛け、アートに造詣が深いことから、デザイナーに転身。社員約10人の会社を経営し、アパレルやジュエリー、ホテルの空間デザインなどのビジネスを経験した。しかし、11年に東日本大震災の被災地で復興支援をしたことを機に、自身にできることの一つとして再びマイクを取ることを決意。12年からソロアーティストとして再始動した。デザイン会社はすでに廃業したが、音楽活動をしながら、アート作品もコンスタントに発表している。