4月11日にあった悲しい発表。阪神のドラフト1位・下村海翔投手(22)=青学大=が右肘内側側副靱帯(じんたい)再建術(トミー・ジョン手術)を受けた。掲げた理想とは真逆をいくプロ生活のスタート。だが、右腕の気持ちはいたって前向きだった。
「いろんな人に助言をいただいて、最後は自分で決断した。この決断を今後、いいものだと言えるように、これから一生懸命取り組んでいきたい」
2月の春季キャンプでのブルペン投球は一度だけ。沖縄から鳴尾浜へ帰ってきた3月も、キャッチボールはしていたが、周囲より早く切り上げる日もあり、元気に投げているほかの選手たちに向ける視線は、羨望のまなざしにも見えた。
下村が常に思い描き続けてきたのは、自らが1軍マウンドに立つ姿。その思いがより強くなったのが3月10日だった。巨人とのオープン戦前に行われた、恒例の新人選手のお披露目。甲子園のオープン戦では実数発表となった2005年以降で史上最多となる4万1129人がスタンドを埋め、シーズンさながらの雰囲気に包まれた。しかし、下村らは名前を呼ばれてその場で一礼すると、あっという間に引き揚げることとなった。
「タクシーに乗って鳴尾浜に帰っているときはずっと『ここで投げたいな』とすごく思って。落ち込むとかではないですけど、自分に対して『何してんねん』みたいな感じのことを思っていました」
甲子園の雰囲気を味わえた周りの選手からは興奮したような言葉も聞こえたが、共感する気持ちはなかった。同期ではD5位・石黒(JR西日本)、同6位・津田(大経大)がその日の試合に投げ、大歓声を肌で感じているであろうときに、自分がいるのは静かな車内。その〝温度差〟に、燃え上がるように悔しさが湧いた。通例では復帰に1年以上を要するため、今季中の1軍デビューは絶望的だ。ただ、下村はどんな感情もエネルギーにし、これからにつなげていく。
「まだ一回も試合に投げられていないので、本当に早く投げたいというか、しっかりと試合で投げて、思いっきりプレーできるように、一生懸命頑張ります」
日々、自分と向き合い、長いリハビリ期間を過ごしていく。それが甲子園をその右腕で沸かせる日の礎となる。(須藤佳裕)