審判員による粘着物質のチェックに笑顔で対応する大谷翔平(共同) 大リーグで昨季の途中から導入された「粘着物質」使用の取り締まり。今季はさらに強化され、グラブや帽子といった用具ではなく、審判は主に投手の手と指を直接触って異物使用のチェックをしている。マンフレッドコミッショナーは昨年「試合での公平を期すため、異物に対するルールの適用が必要」とコメントしていた。有言実行となったか、今季から新しい試みが始まっている。
それは投手が滑り止めに唯一使用できるロージンバッグだ。今季大リーグ機構は投手全員が公平に、同じロージンを使用できるよう業者を1つに絞った。メジャー全30球団のロージンを提供するとなると、専用の機械などで大量生産されていると予想していたが、なんと、1人の職人さんが手作りしているのだ。
米カリフォルニア州サンフランシスコ出身で同地にロージン制作のワークショップを構えるデーブ・フィリップス氏(41)。野球好きのサーファーだったフィリップ氏は2012年に印刷会社を立ち上げるも、同時にクリエーティブなことができないか考えていたという。
「サーフィンで使うワックスと似たようなもので、野球で打者がバットに塗るスティックタイプの滑り止めを作ったら良いアイデアだと思った」
打者用の製品を売り出し、17年には印刷会社から完全に転身するなどビジネスも軌道に乗っていた。しかし17年には大リーグで本塁打量産の「飛ぶボール」、昨年は粘着物質の取り締まりと投手に不利な状況が続いた。
「投手が公平に使用できる滑り止めが必要だとなったとき、同じタイミングで投手のために何かを作りたいとアイデアがいくつかあった。そして大リーグの関係者と話す機械があり、意見がうまくかみ合った」
フィリップス氏は大リーグ機構と2年契約を結び、23年シーズンまで公式戦で使用できるのは同氏の会社「Pelican Bat Wax」で手作りされるロージンのみとなった。
フィリップス氏はロージンに自信とこだわりを持つ。中南米から厳選して輸入しているというロージンは粉末と固形の2つのタイプにし、それぞれを綿製のバッグに詰めている。選手は好みのタイプを自由に使えるようマウンドには常に2つのバッグが置いてある。また、同氏の扱うロージンは他の品種と違い粘着性が若干強く、かつ即効性があるという。
「投手はリズムよく投げることが大事だから、(即効性もある)このロージンはとても機能的。同時に問題になった粘着物のように〝ねばねば〟しすぎないのがポイントだと思う」
公式戦の規則でロージンバッグは毎試合新しいものが使用されるため、シーズン前半だけで約3200個を制作。今季は計7000個以上の生産見込みとフル回転も、フィリップス氏は、アシスタントを務める愛犬と一緒に充実した日々を送っているという。
「大リーグ側と投手がともに気に入ってくれる物を作ること、そしてそれを変えないことが重要。メジャーのボールは飛んだり飛ばなかったり。規則が変わる度にアジャストするのは選手への負担も大きい。このロージンバッグを長い間安定して提供できればとてもうれしいし、野球界にとっても有益なことだと思う」。(竹濱江利子通信員)