2020年12月に行われた早明戦。いよいよ大学ラグビーが開幕する 【ノーサイドの精神】いよいよ大学ラグビーのシーズンが始まる。この8月から、新しい試験実施ルールが採用されていて、日本でも適用される。そのひとつが「50:22」と呼ばれるものだ。
このコラムでも昨年夏に取り上げたが、ハーフウェーライン(中央線)より手前(つまり自陣側)から蹴ったボールが相手22メートルラインを越えて直接ではなくタッチに出た場合、キックを蹴った側のボールによるラインアウトで再開される。敵陣深くのラインアウトからだとトライの可能性も大きくなる。50メートル地点の中央線と22メートルラインをまたぐことで「50:22」と呼ばれる。スーパーラグビー(SR)で採用されていたものが世界でも広く試されることになった(SRでは自陣22メートルより手前から蹴ったボールが中央線を越えて出た場合も蹴った側のボールになったが、それは今回見送られた)。
8月以降の南半球のテストマッチを何試合かパソコンで観戦したが、このルールが適用されそうなシーンは1試合に2、3度あるかどうか。9月5日のニュージーランド(NZ)-オーストラリアでは、NZのSOバレットが中央線少し手前から蹴って狙ったが、タッチライン近くで手前にはねてオーストラリアがなんとか処理した。国内でも4日の明大-慶大の練習試合を取材した際、生でこのルールの適用が見られそうだったが、明大のキックに慶大が追いつき、ことなきを得た。
そもそもこのルール、国際統括団体のワールドラグビーは、「ディフェンスラインから相手の選手を下がらせなければならない場面をつくり、攻撃のスペースをつくり出す」と、よりスペクタクルにする目的と、「長いキックを蹴ることで、捕球者が危険なタックルにさらされる場面が少なくなる」という安全面の考慮を理由にしている。
あるリーグワン関係者は、「CTBのキックの精度が重要になる。WTBも正確なキックが蹴られるようにならないといけなくなる」という。1次攻撃からは相手のWTB、FBもキックに備えて下がっているが、外まで回れば上がってこざるを得ず、そこでCTBやWTBが自陣から正確に蹴り出すことができれば大きなチャンスとなる。密集から出たボールをSHが蹴るボックスキックを、これまでのように高く上げて競り合うのではなく、タッチ際に転がるように22メートルラインを越えて出すような蹴り方を練習しているチームも、いくつも出てきている。
このルールがラグビーを大きく変えるわけではない(ディフェンスシステムは変わりそう)だろうが、パンチの利いたスパイスにはなりそう。さて、どのチームがこのキックからトライの恩恵を得られるか。
田中浩(たなか・ひろし)
1983年入社。ラグビーブーム全盛期に担当を約10年、その後デジタルメディア、ボクシング担当、アマ野球担当などを経て2008年から運動部一般スポーツ担当デスクを務め、14年秋に二十数年ぶりにラグビー取材の現場に復帰。秩父宮ラグビー場でトライ(高校都大会決勝)と東京ドームでヒット(スポーツ紙対抗野球)の両方を経験したのがプチ自慢の60歳。
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