--師匠、師匠!
「何だよ、騒々しい」
--例の北海道・室蘭沖の噴火湾で59センチのマツカワガレイが釣れたって聞きましたが、本当ですか。
「ああ、本当だ。その他にも毎日のように船中で5、6匹のマツカワガレイが釣れていたからな。今シーズンは完全な当たり年って事だよな」
--『釣れていたから』って、何で過去形なんですか。
「噴火湾のカレイ釣りは、6月の半ばまででこれからはヒラメ狙いが中心になるからだ」
--えっ、という事はカレイの船は出ないって事なんですか。
「いいや、何人かで希望すれば午後釣りなんかで出られる。実は来週、その午後釣りガレイを室蘭の船長に頼んである」
--何それ、私、聞いてない。
「言ってないもん。仕事のついでがあったので、件の船長に頼んで出てもらうんだよ。マツカワが釣れたら持って帰って刺し身を食わせるから騒ぐんじゃない」
--以前、ほんの一切れ、二切れ、食べさせてもらいましたけど、味が分かるほど食べたことがないので、必ず釣って来て下さいよ。
「分かった、と言いたいところだが、マツカワだけは狙って釣れるカレイじゃないからな。ソウハチガレイやクロガシラガレイ、マガレイは間違いなく釣れるのでお土産は保証するが、マツカワも絶対釣って来い-と言われてもそれは確約できんがな」
--そこを何とかするのが、師匠が師匠たるゆえんでしょう。
「まあ、俺もマツカワは久しく食っていないから、最大限の努力はするがな。後は俺の仕掛けに食ってくる事を祈るばかりだな」
--マツカワガレイを釣るコツって何かあるんですか。
「俺もそれが知りたくて船長たちに何回も聞いているんだが、『それが分かればマツカワガレイ専門の漁師になってるよ』って言われちまった」
--マツカワガレイっていうのは、それほど貴重なカレイってことなんですね。
「北海道で唯一放流が行われているカレイで、35センチ未満の捕獲は禁止されている。漁師はもちろん、釣り船の船長たちもそれをキチンと守っているからな」
--その話は聞きました。だけど35センチといったら相当な大きさですよね。ずいぶんと厳しい規制ですね。
「お前の言う通り、それくらい貴重なカレイってことなんだよ」
--楽しみにしていますよ。1匹でいいので何とか釣って来て下さいね。
「ああ、分かったよ」