(アルゼンチン共和国杯、2025年11月9日 15:30、GII、東京11R、芝・左2500m)
【日曜東京11R・アルゼンチン共和国杯】
ひいきの居酒屋のカウンター席の右端でヱビスビールを飲んでいたら、隣にいるひーちゃんとあさみちゃんにお酒のおかわりを持ってきたバイトの桃ちゃんが首をかしげた。
「あれ? 鈴木さん、帰っちゃった?」
いるよ。
「どっかから鈴木さんの声が聞こえてきた。幽霊? 鈴木さん死んじゃったの?」
生きてるよ。
「鈴木さんの声、カウンターの端っこから聞こえてくる。でも何も見えない。てか、そこだけ真っ暗」
「桃ちゃん、それって比喩です」
「また比喩?」
「人の気持ちが暗いと、その周囲も暗くなるという暗喩ですね。全く見えないってことは、鈴木さん、よっぽどひどく落ち込んでいますね」
「先週の天皇賞・秋の予想で、桃ちゃんの本命に横やりを入れたからじゃないですかね」
桃ちゃんがミュージアムマイルを本命にしたとき、こんなやり取りがあった。
<「日本ダービー2着馬もそうですが、3歳馬は皐月賞の上位馬も秋の盾と相性がいいんです。過去4年で皐月賞馬のエフフォーリアと皐月賞2着のイクイノックスが勝って、皐月賞4着のダノンベルーガが3着に来ているんです」
そのうち、エフフォーリアとイクイノックスは日本ダービー2着でもあるけどね。
「その前だってジェニュインとイスラボニータの皐月賞馬が3着以内に来ています」
その2頭も日本ダービー2着だけどね。
「シャラップ!」
朝ドラ「ばけばけ」で吉沢亮が演じている錦織友一みたいだ。怖い怖い。
「セントライト記念を勝って天皇賞に臨むのは2着だったフェノーメノと同じです」
フェノーメノも日本ダービーで2着だったよね。
「とにかくベスト距離といえる2000メートルでミュージアムマイルが勝ちます! 以上」>
「勝てなかったけど、3番人気で2着に来たじゃないですか。桃ちゃんに合わせる顔がなくて落ち込んでいるんだと思います」
「なるほど」
そんなんじゃないよ。
「わっ! いきなり出てきた」
僕をお化けみたいに言わないでよ。
ミュージアムマイルにつけた僕の印は3番手の▲。それだけ評価していたんだから関係ないよ。僕が落ち込んでいるのは理由があるんだ。長くなるけどいい?
「簡潔にお願いします」
努力してみるよ。そう言って僕は問わず語りに語り始めた。
◇◇◇
11月2日、僕は休みを取って天皇賞・秋が行われる東京競馬場にいた。世界を股にかけるサンケイスポーツ特約のフリーカメラマン、斎藤克己さんからもらった紫色のブリーダーズカップの帽子をかぶっていた。その日の朝、フォーエバーヤングが米国のデルマー競馬場で行われたダート競馬の最高峰・ブリーダーズカップクラシックを制したので、祝福の思いを込めてかぶってきたのだ。この歴史的快挙についてはサンケイスポーツの名物コラム「甘口辛口」(11月8日付)に書いた(「甘口辛口」をクリックまたはタップすると記事に飛びます)。
この日、馬友と特別来賓室(通称ダービールーム)でレースを観戦することになっていた。午前11時に集合して「ディープブリランテ」ルームに入る。ここは部屋ごとに歴代の日本ダービー馬の名前がついているのだ。
部屋(面識のないグループと相部屋)に入ると早速、馬券検討に没頭する馬友がいたり、「パドックを見てきます」と言ってメインレースまで戻ってこない馬友がいたり、競馬の楽しみ方はそれぞれだった。
僕は、天皇賞の前にも大一番が控えていた。その日の新馬戦に、僕が馬名を考えたアイアムコロンブス(牡2歳、美浦・奥平雅士厩舎、父スクリーンヒーロー、母レッドジェノヴァ)が出走するのだ。
きっかけは、僕が年始に公開した【2025 期待の星☆】で取り上げたことだった。詳細は記事を読んでほしいが(【2025 期待の星☆】をクリックまたはタップすると記事に飛びます)、母がレッドジェノヴァだけに、安岡力也がイタリアのジェノヴァ出身と知った店主のミチヤが「ヤスオカリキヤ」や「アイアムリキヤ」にしたいというのを、ジェノヴァはコロンブスが生まれたところでもあると誘導した(祖母の名前コロンバスサークルからの連想でもある)。それを読んだオーナーが、その名前を気に入ってくれてアイアムコロンブスが採用されたというわけ。
武豊騎手を背にパドックを歩くアイアムコロンブス当然、ダービールームに集まった馬友にそのことを伝えていた。パドックに行って馬体を見ると、やや仕上がり途上ながら好馬体を誇っていた。しかも鞍上は武豊だ。期待感が高まる。単勝オッズ6.5倍の3番人気。単勝&複勝に加え、1番人気アローメタルとの馬単&馬連を購入してダービールームから出たバルコニーでゲートが開くのを待った。
9頭立てながら縦長の展開に。アイアムコロンブスは、やや出遅れて中団の後方を進む。1000メートルの通過タイムは64秒4。超スローペースだ。まだまだ大丈夫。自分に言い聞かせて最後の直線に入った。ここから伸びてほしい。祈るような気持ちで見ていたが、人気に応えたアローメタルとは対照的に、アイアムコロンブスは前の馬を一頭もかわせずゴール。7着に終わった(1頭競走中止)。後日確認したサイト「サンスポZBAT!競馬」の「ゴールドパック」で読める【レース後記者評価】は「パワフルな馬体だが、もうひと絞り欲しい感じ。後半が極端に速くなる瞬発力勝負は向いていない印象」とジャッジしていた。
無言で部屋に戻ると、冷たい風が吹いていた。馬友はみんなアイアムコロンブスから馬券を買っていたからだ。「期待に応えられなくてすみません」。頭を下げると「いいよいいよ」「これも競馬」となぐさめてくれる馬友がありがたかった。
馬友の馬券に少しでも貢献したいと思った僕は、サイト「サンスポZBAT!競馬」で提供している「レース直前情報」のパドック診断を伝えることにした。天皇賞のそれは、1番手③ジャスティンパレス、2番手⑦マスカレードボール、3番手⑨ミュージアムマイル。
天皇賞・秋のパドックを歩くミュージアムマイル先ほどまでパドックで間近で見てきた出走馬の中で一番よく見えたのは、ひいき目もあるが、わが本命馬マスカレードボールだった。ミュージアムマイルも「さすが皐月賞馬」という印象だった。ジャスティンパレスの漆黒の馬体は光り輝いていた。馬友たちが興味を示したのはジャスティンパレス。取捨選択に迷う8番人気という微妙な人気だからだ。「油を塗ったようにピカピカでしたよ」というとみんなの目がキラリと光った。
天皇賞・秋のパドックを歩くジャスティンパレス僕はといえば、すでにジャスティンパレスを入れていない馬券を購入(もちろん、居酒屋ブルースで披露している予想では無印)。軍資金が底をついていたので買い足すこともできない。レース直前、馬友たちに「ジャスティンパレスが来たら僕の馬券は全てパー」と話していたら…。
◇◇◇
「それで落ち込んでいたんですね」
「新馬戦といいメインといい散々な目に遭っていたんだ」
「お気の毒さまです」
「アイアムリキヤの方がよかったなあ」
「ミチヤさん、ツッコむところ、そこじゃないです」
「『簡潔に』ってお願いしたのに長い!」
そろそろ今週の予想に移ろうかな。
「はぐらかした!」
勝負レースはアルゼンチン共和国杯にしたよ。今週はひーちゃん、あさみちゃん、桃ちゃん、僕の順だ。早速だけど、ひーちゃんよろしく。まずはみやこSの本命を教えて。
「ロードクロンヌです。4連勝でオープン入りすると、3戦続けて重賞に挑戦して3、2、2着と健闘中。ここで重賞初Vを決めるとみました」
アルゼンチン共和国杯の本命は?
「ホーエリートにしました。同じ舞台の目黒記念では55キロのハンデでクビ差の2着。今回は休み明けの産経賞オールカマーを使われて定石通り良化していれば、目黒記念より500グラム増のハンデ55.5キロなら好勝負になるとみました」
ありがとう。続いてあさみちゃんよろしく。まずはみやこSの本命をどうぞ。
「シゲルショウグンです! オープンで5戦して、ここ3戦で1、3、1着と勢いがあります。なにより今週から鞍上の幸英明さんが復帰! 天皇賞・秋のセイウンハーデスに間に合わなかった鬱憤をここで晴らしてくれるはずです!」
アルゼンチン共和国杯の本命は?
「プラダリアです! 春の天皇賞から3戦続けて2桁着順ですが、前走の京都大賞典は休み明けながら、この馬らしい好位からのレースをしていたので、ひと叩きされた今回は力を出し切ってくれるはず! 東京コースは3戦して青葉賞の1着とダービー&目黒記念の5着。相性は悪くありません!」
ありがとう。続いて桃ちゃんよろしく。まずはみやこSからお願い。
「本命はアウトレンジです。平安S1着で帝王賞2着は出走メンバーで一番の格上。松山弘平さんとのコンビでは2戦して1着と2着なので連軸として堅いはずです」
アルゼンチン共和国杯の本命は?
「ルメールさまが騎乗するスティンガーグラスです。デビューからずっと芝の2000メートル以上を使われて、ルメさまとのコンビでは【4・1・0・1】(左から1着・2着・3着・4着以下)と好相性。2番人気で11着と大敗した目黒記念は、ルメさまいわく『ペースが遅かった』。後半1000メートルからのロングスパート勝負に対応できなかった感じでした。今回はミステイーウェイという逃げ馬が出走してきたし、プラダリアも前めの競馬から早めにスパートをかけるはずなので、この馬の展開に合うはず。確変に入ったルメさまが今週も重賞を勝ちます!」
ありがとう。
「鈴木さんの番です」
まずはみやこSの予想を少々。
本命はドゥラエレーデ。昨年のみやこSは2番人気で11着だったが、鞍上の北村友一によると「速い馬がみんな外にいて、内枠で難しい流れになると思いました。この馬のベストポジションではないところで競馬をさせてしまい、全力で走り切れませんでした」とのこと。もちろん、これも「ゴールドパック」で読める【レース後コメント】から引用した。昨年と同じ3番枠に入ったが、今年の鞍上は世界的名手のクリスチャン・デムーロ。この馬にはUAEダービーで手綱を取って2着に持って来ており、その時に感じたいいイメージを持って騎乗できるはず。とにかく全力を出し切れれば好勝負になるとみた。
印は◎ドゥラエレーデ、○アウトレンジ、▲シゲルショウグン、△ラムジェット、サイモンザナドゥ、ロードクロンヌ、レヴォントゥレット、ダブルハートボンド、ペリエール、デルマソトガケ。
さあ、勝負レースのアルゼンチン共和国杯だ。
本命はボルドグフーシュ。
「攻めますね。社台ファーム生産のスクリーンヒーロー産駒といえば、アイアムコロンブスと同じ。そのリベンジですか?」
そういう気持ちは全くない。ただ単に初めて臨む東京コースで一変しそうな予感がするからだ。阪神の菊花賞と阪神大賞典、中山の有馬記念でそれぞれ2着なので、直線に急坂のあるコースがベストと思われがちだが、実は左回りの中京コースで4戦して神戸新聞杯3着など【1・0・3・0】と必ず馬券に絡んでいるのだ。東京の直線は日本で最も長い。末脚勝負一辺倒のこの馬にとっては、直線の距離が長ければ長いほどいいはず。
宮本博厩舎の知り合いの調教助手は「トシ(今年6歳)とともにズブくなっているのは心配」と言いながらも「休み明けをひと叩きした上積みはありそう。力を出し切れれば勝ち負けできそう。メンバー的にも重賞を勝てる最後のチャンスかもしれないので頑張ってほしい」と期待している。
天皇賞・秋でシランケドの手綱を取り、後方一気の競馬で驚異的な上がり3ハロン31秒7の末脚を発揮させた横山武史が初騎乗。ボルドグフーシュと手が合いそうなので楽しみだ。
◎⑭ボルドグフーシュ
○⑱スティンガーグラス
▲⑪ホーエリート
△①ワイドエンペラー
△⑥ディマイザキッド
△⑦シュトルーヴェ
△⑩マイネルカンパーナ
△⑫プラダリア
△⑯ニシノレヴナント
《単勝》
⑭番 1000円
《3連複》
⑭-⑱-①⑥⑦⑧⑩⑪⑫⑯(8点) 各600円
⑭-⑪-①⑥⑦⑧⑩⑫⑯⑱(8点) 各400円
⑭-①⑥⑦⑧⑩⑫⑯-①⑥⑦⑧⑩⑫⑯(21点) 各100円
今回は計1万100円で勝負する。
「そういえば、LINEの人って秋の盾はどうだったんです?」
トリガミだったみたい。
「てことは、今週は大荒れを期待している?」
「あさみちゃんの本命に乗りそう」
プラダリアが馬券に絡んだら大万馬券になりそうだ。
「プラダリアよ、なんとかなれーッ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
主な登場人物
桃ちゃん…ひいきの居酒屋のアルバイト。馬券のセンスが抜群の競馬女子(UMAJO)。ちなみに、居酒屋ブルースのUMAJOは、酒場のあすピー→バイトのマヤ姉(ねえ)→桃ちゃんと変遷
ひーちゃん…Gallopエッセー大賞受賞者。石川裕紀人推し
あさみちゃん…ひーちゃんの馬友。ジョッキー推し(石橋脩、松山弘平、津村明秀、幸英明ら多数)
LINEの人…謎の人物
ミチヤ…ひいきの居酒屋の店主。ずぶの素人から、どこまで競馬に興味を持ってくれるか