東京・銀座のクラブの入り口に近い片隅の席で一人、ぽつねんと水割りを口に運ぶ姿を度々見かけた。目の前にはお相手する女性がこれまた黙って両膝を閉じて、その上に両手を置き、何も語る様子もなく、只々静かな気配だけが流れていたような気がする。周囲の喧騒を他所に、まるで二人が別れ話でもしているのか、静かにお見合いの如く飲んでいる風情であった。20年以上も昔の思い出の一コマである。そして今、寡黙な男は総理に昇りつめた。
「私たちを守ってくれるという」「期待したい」「頼りにしたい」――。空虚で軽薄な、そして無味乾燥で矛盾した論理を喧伝して、マスコミを騒がせるだけ騒がせた人寄せパンダのような候補者よりははるかに安心だ。それにしても自民党総裁選で、勝ち馬に乗ろうとして血眼になった代議士たちの姿には驚いた。
その一方で、新内閣の閣僚の顔ぶれを見て腰を抜かしそうになった。患者、友人、知人らと私のクリニックの関係者のなんと多いことかと。良いことかどうかは分からないが10人は下らない。
あえて名前を挙げるのは控えるが、親子二代に渡り親交のある人物も複数いる。医療仲間で繋がりのある有能な人、大病を抱え共に闘って乗り越えてきた人もいる。これからの日本の在り方を考えようと超党派で立ち上げられた石橋湛山研究会の幹部の岩屋毅氏(67)ら付き合いも古く、その理念と行動は尊敬に値する所だ。
再入閣となった林芳正氏(63)や加藤勝信氏(68)は報道によると総裁選での推薦人を集めるのに大変苦労されたという。しかし、ひとたび内閣の立ち上げるとなると、お二人ともいの一番に名前が挙がってくる。優秀であり経験も豊富であることを誰もが認めている。これだけの人材をそろえたのだから、一番の問題はそのかじ取りをしっかりと遂行してもらうことだろう。
顧みると、総裁選の他の候補たちは何だったのだろうか。優秀さや経験にも疑問符が付く芸能人もどきで、大衆誘導に血道を上げる面々。派閥や政策グループという利益誘導の集まりが「人気取りこそが票取り」と考えながら政治を動かす温床となった金権、裏金政治。それへの反省はどこに行ったのであろうか。まさに舌の根も乾かぬうちに、と言われても仕方がない政界の動き、政治家たちの離合集散が透けて見える。小さな国土で人口減少の許、一人一人の国民が疲弊し、土地価格も下落し、見掛け倒しの株価も紙くず同然にならんともかぎらない。高齢化する人口構成は若い世代に限りない負担を余儀なくさせることになるであろう。
最近では、高齢で体調も十分でない政治家が車椅子に乗せられ海外に行き、後継候補の息子が「外遊、外遊」とお題目を唱えた様子も目の当たりにした。訪問先の要人との交流の模様もほとんど写真にも撮れなかったような「外遊」とは何だったのか疑問を感じた。今こそ真に優秀な本物の政治家が国政を担い引っ張ってもらいたいものだ。そのためには自分の頭で考え、自分の言葉で責任を持って語れる人が政治をつかさどるべきであろう。中身の腐った「虫いろみの柿」のような見かけ倒しでは困る。