休日返上で汗を流し、この先の戦いへ備えた阪神・岩崎優=甲子園球場(撮影・水島啓輔) 一緒に、追いかけたい夢があった-。2リーグ制以降では史上最速となった阪神のセ・リーグ制覇から一夜明けた8日、岩崎優投手(34)が甲子園を訪れ休日返上でトレーニングを行った。前夜は藤川球児監督(45)の現役時代の〝あの登場曲〟とともに九回のマウンドに現れ、三者凡退で胴上げ投手となった。粋な演出の裏にあった覚悟と、何年も温めていた自身と師の思いを激白した。
つま先が震えた。鼓動が高鳴った。虎党を酔わせたサプライズとの引き換えは自身への重圧。それでも、藤川監督がずっと追いかけた夢を一緒に見たかった。岩崎が登場曲を変更した理由には、周囲の想像以上の師弟愛があった。
「(藤川監督の)エキスが入っている身として、やっぱり優勝を達成する必要があったんです。いざそういうチャンスが巡ってきて、監督に就任されるときに、優勝するときは(監督の登場曲を流す)と思っていたんですよね」
7日の広島戦の九回。ロックバンド、LINDBERGの「every little thing every precious thing」が時を超えて甲子園に流れた-。
壮大なストーリーの始まりは、1998年12月21日までさかのぼる。D1位ルーキーとして入団会見に出席した藤川投手は「優勝を3回する」と豪語し、就任したばかりだった当時の野村克也監督を驚かせた。しかし、実際は2003年と05年の2回にとどまる。そして、22年後の20年9月1日に行われた引退会見での「僕が入ったときに『3回優勝する』と言って2回しかしていない。別に自分が(グラウンドに)いようがいまいが関係ない。エキスは入ってますから、後輩たちがやってくれます」という発言に至った。岩崎は燃えた。師と仰ぐ藤川球児の〝血〟が注入された岩崎にとって、優勝は自分だけの夢ではなくなった。
ただ、悩んだ。2年前のリーグ優勝の際には、同年に脳腫瘍のため亡くなったドラフト同期の横田慎太郎さんの登場曲、ゆずの「栄光の架橋」を流しており、その経験が何度も何度も頭をよぎった。「仮に優勝できたとしても、曲を変えるっていうことは一発で優勝を決める必要がありますから。ものすごいプレッシャーになりますし」。苦悩した。だが、優勝決定が甲子園で九回にリードしている場合しか実現させられないことでもある。「こんなチャンス、次はいつあるかわからない。これはもうやるしかない」と心を決めた。