試合前練習が始まる2、3時間前になると、ぽつりぽつりと阪神の選手たちが甲子園のグラウンドに姿を見せ始める。糸原に坂本、木浪に中野と、それぞれが芝生の上でランニングやストレッチを行うことは普段と何も変わらない当たり前の光景だ。その中には豊田寛外野手(28)の姿もある。
「あのときは〝無〟というか、リラックスをして、汗をかいて練習に向けて準備をするということを意識していますね」
グラウンドを走っているときにはどんなことを考えているのか―。そんな疑問をぶつけてみたが、その日の試合のことをイメージするでも、過去の試合を振り返るでもない。とにかく無心で汗を流し、目の前の試合に備える。落ち着いた雰囲気が漂う豊田らしい返答だった。
出場機会はスタメンの日もあれば、代打の日もある。特に代打打率は・412(17打数7安打)にのぼり、泥臭さと勝負強さが共存する姿を見せてくれている。20日の中日戦(京セラ)では1点を追う九回先頭で代打出場し、守護神・松山の初球155キロを右前へ運んだ。同点劇以上の結末にはつながらなかったが、大きな歓声を呼んだ。
試合後には「昨日(21日)に糸原さんが代打でタイムリーを打って、僕も続きたいなという思いで、今日はずっと準備していた」と明かした。周りを見れば経験豊富な先輩ばかり。彼らがどのように日々を過ごし、どのように出番に備えているのかは1軍にいるからこそ、その目で知ることができる。1打席にかける代打出場の機会が多い糸原を見ていれば「普段から準備だったり練習に取り組む姿勢はすごく勉強になるところしかない。毎日、刺激がある」と感服。その姿を目に焼き付け、豊田はまた走り出す。
「準備が結果につながっているかどうかは分からないですけど、みんながそう思ってやっていると思う。先輩たちのいいところは真似をしてやっていきたいなと思います」
V戦線を進む輪に身を置き、周りにいるのはいいお手本。昨秋キャンプのMVP男は負けじとひたむきに汗を流し、1軍定着に食らいつく。(須藤佳裕)