「いい景色に見えるかもしれないですけど、決して、そうは思わないですね。経験が必要なポジションでもありますから。投手コーチが頭を悩ませながら、指導に当たっているんじゃないでしょうかね」
降雨中止となった9日の中日戦(甲子園)。伊原陵人、木下里都、工藤泰成の3人のルーキーが練習で顔を揃えた状況に、阪神・藤川球児監督は苦言を呈した。豊富な中継ぎ陣で白星を拾いながらも、勝利の方程式は未確立。理由はメンツが安定しない救援陣。体調不良だった石井大智がようやく復帰したが、ハビー・ゲラは無期限調整の状態だ。岩貞祐太は再調整。島本浩也は左上肢の張りで抹消され、漆原大晟もコンディションが整わず、1軍本隊から離脱した。
こんな状況ながら3カード連続勝ち越し&最多タイ貯金「6」ーは底力の証明。しかし受け皿となる2軍は大変だ。積極的な抜擢に加えて、次から次へと体調不良者や再調整組がやって来る。戦力提供と降格選手のケアなどが2軍の本来の姿と言えば、それまでだが、今季は、この繰り返し。1軍はリーグ最速20勝。その裏でファームのチーム編成はー。
西勇輝、伊藤将司、大竹耕太郎、岩貞、岡留英貴、富田蓮と1軍にいても不思議ではない豪華なメンバーも逆に言えば、自由に登板させることはできない。1軍の事情を考えながら…となる。上に気兼ねすることなく起用できるフリー枠があるとすれば川原陸、佐藤蓮、椎葉剛、津田淳哉くらい。伊藤稜、早川太貴ら育成選手は「1球団1試合5人以内」の規定があり、野手とのバランスが必要となる。飽和状態に見えるが内情は「投少」。先発ローテを組むのに四苦八苦の状況だ。
野手に目を向ければ正反対。井上広大、原口文仁、小野寺暖といった1軍経験者に加えて、高卒野手では井坪陽生、戸井零士、百崎蒼生に山田脩也。捕手では長坂拳弥とルーキー育成の嶋村麟士朗。外野手では野口恭佑に豊田寛が昇格を狙っている。ラモン・ヘルナンデスら助っ人野手も控えている。
藤川監督の方針で、1軍で先発の可能性がある投手を「9番・DH」に置くケースもしばしばで、普通なら9人の野手が出場できるが、これで枠は1減となる。いろんな選手を使いたい。ただ「打多」だから、どの人選でも、しわ寄せが出る。4番は井上、原口、野口に楠本泰史まで務めた。自由に使える投手の駒不足からか、チームは4月24日時点で最多貯金の「5」が、その後の10試合は2勝8敗と負けが込んで、借金生活を味わった。2桁貯金をキープし、首位を快走する中日を横目に、勝率5割を前後する日々だ。
1軍が小さなアクシデントを乗り越えながら、順調に歩を進めているから、まだ救われる。森下翔太、佐藤輝明は好調を維持。2戦連続完封の村上頌樹は両リーグ最多の6勝をマークしている。一方でヤクルト・村上宗隆に続いて、巨人・岡本和真も負傷で戦列を離れた。外的要素も藤川監督を後押しする。
胸のうちはどうであれ、よほどのことがない限り、2軍に「NO」の選択肢はない。その姿勢も育成や選手供出とともに、課された使命だ。時には捨て駒になり、ある期間には、上をサポートする隠れた主役にもなる。それがファーム。いつ何時、飛んでくるかわからない要望に応えてみせるのも、大きな仕事であり、腕の見せ所だ。1軍はGW9連戦を終え、次の区切りは6月3日の日本ハム戦(エスコン)から始まる交流戦。パ・リーグとの18番勝負まで1カ月を切った。新たなステージに突入する〝球児アニキ〟を〝弟分〟が今まで以上の力を込めて、新本拠地SGLから支援する。
■稲見 誠(いなみ まこと) 1963年、大阪・東大阪市生まれ。89年に大阪サンスポに入社。大相撲などアマチュアスポーツを担当し、2001年から阪神キャップ。03年には18年ぶりのリーグ優勝を経験した。現在は大阪サンケイスポーツ企画委員。