2021.5.13 12:00

【ベテラン記者コラム(144)】歌舞伎役者、松本白鸚さんの提言を横綱白鵬はどう聞く

【ベテラン記者コラム(144)】

歌舞伎役者、松本白鸚さんの提言を横綱白鵬はどう聞く

特集:
記者コラム
ベテラン記者コラム
白鵬

白鵬【拡大】

 日本相撲協会に設置された「大相撲の継承発展を考える有識者会議」がこのほど、最終の提言書を協会へ提出した。八角理事長(元横綱北勝海)の諮問機関で、山内昌之委員長(東大名誉教授)、プロ野球ソフトバンクの王貞治球団会長ら計8人が名を連ねた。令和元年6月から11度の会合を重ね、大相撲の目指すべき方向性を示し、大所高所からさまざまな提言を取りまとめた。

 同会議は現役時代に著しい実績を残した力士に対し、引退後に現役名のまま親方になれる「一代年寄」についても言及。現在の協会の定款に根拠となる制度や規定はなく、一代年寄の存在意義を示すものは見いだされないと論じ、横綱白鵬を含め今後の授与には否定的な見解が列挙されたことは記憶に新しい。

 提言書には各委員の意見(要旨、抜粋)も掲載され、歌舞伎役者の松本白鸚(はくおう、78)委員の鋭い指摘に虚をつかれる思いがした。

 「いまの時代ほど、歌舞伎や大相撲が優遇されている時代はかつてなかったのではないかと考える。江戸時代の後期などは、歌舞伎や相撲が冷遇されていた。当時の社会がいまほど伝統文化に寛容ではなかった。歌舞伎も相撲も、かなり困窮していた」

 舞台や土俵を彩る華美な光景の裏側に、当時の社会に厳に横たわっていた身分制度を冷静に踏まえた見識を示し、こう続く。「そうした過去に比べれば、いまはとても恵まれている。多くの方々が、伝統文化を大事にしようと言ってくださっている。われわれはあぐらをかいてはいけない。慢心してはいけない」。

 44度の優勝を誇る横綱白鵬の実績は否定しない。だが、北の湖理事長(元横綱)が亡くなった際、白鵬は「理事長の手から一代年寄をもらいたかった」と発言した。自ら「一代年寄」を口にしたことに、当時、少なからず違和感を覚えた。「才能は天与。名声は人与。うぬぼれは自与」。栄誉や褒賞は、他人が与えてくれるものだろう。

 かつて横綱審議委員も務めた人間国宝、6代目沢村田之助翁(88)と席を同じくしたとき、「歌舞伎役者の一生は子役、中年、大人と進歩がある。子役が修業を重ね、次へ進む。相撲や芝居という社会、芸道を究めるこの世界にいったん飛び込んだからには、身を削る思いで勉強しないと心技体は磨けない」と力説していた。

 力士も番付を上げていく過程で、土俵史の大局観を身につけないと、勘違いをしたまま「大人」になってしまう。