2021.5.10 12:00

【ベテラン記者コラム(143)】高見盛に「お茶漬けは食べるのか」故鳴戸親方との珍問答

【ベテラン記者コラム(143)】

高見盛に「お茶漬けは食べるのか」故鳴戸親方との珍問答

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気合を入れるパフォーマンスで人気を集めた高見盛

気合を入れるパフォーマンスで人気を集めた高見盛【拡大】

 勝っても負けても人気者だった。平成23年大相撲秋場所、西十両7枚目だった高見盛は6勝9敗で終えた。記者が大相撲担当だった17、18年は幕内の土俵を沸かせていたが、遊軍として取材した同場所では14年初場所以来、57場所ぶりの十両となった。

 「(場所前は)幕下陥落も考えていた。十両に番付が残りそうだし、来場所もやれる」 

 九州場所も関取の座を確保したが、悩みは消えない。その悲壮感を周囲も感じ取っていた。支度部屋を引き揚げる際、監察委員を務めていた故鳴戸親方(元横綱隆の里)から、「これからどうするんだ」と声をかけられた。進退を尋ねた元横綱の心配とは裏腹に、「部屋の打ち上げパーティーに行きます」と直近の予定を伝えた。

 珍問答はまだ続いた。以前、高見盛が永谷園のテレビCMに出演していたことを踏まえ、「お茶漬けは食べるのか」と聞いた同親方に、「力士の食事はちゃんこです」と真顔で答えた。厳しい指導で知られた名伯楽から質問攻めにされ、「問題児扱いされそう」と戸惑いを隠せず。「リラックスしないと頭がおかしくなる。もともとか…」と最後は一人ボケ突っ込みをして、肩を落としながら両国国技館を後にした姿が忘れられない。

 入幕2場所目で右膝前十字靭帯(じんたい)を断裂し、幕下まで落ちてから再起した。「恐怖心を振り払いたかった。自分を鼓舞したかった」。再入幕を果たした14年春場所から顔や胸をバシバシたたいて気合を入れるパフォーマンスを始め、「ロボコップ」のニックネームで人気者に。テレビCMやバラエティー番組にも多数出演した。体がぼろぼろになるまで土俵に上がり続け、東十両12枚目で迎えた25年初場所で現役を引退。横綱や大関に劣らぬ人気を集めたことには、「うれしいような恥ずかしいような気持ちがある」と苦笑いした。

 その後は年寄「振分」として、東関部屋付きで後進の指導に当たっていたが、一昨年12月に先代師匠(元幕内潮丸)が血管肉腫のため急逝(享年41)。師匠不在となった所属力士は同じ高砂一門の「八角部屋預かり」となり一門の関係者、先代師匠のおかみさんらが話し合いを続け、部屋付き親方だった自身が年寄「東関」を継承し、暫定的に継ぐことでまとまった。

 その後、後継者選びは難航。外国出身初の横綱となった曙を輩出した東関部屋は4月1日付で閉鎖され、八角部屋に転属することになった。東関親方は「師匠として私なりに精進してきたが、よりよい稽古環境などを求め八角理事長に相談させていただき決断をした」と苦渋の決断だったことを明かした。現役時代と変わらない、不器用で愚直な態度を貫いた。(江坂勇始)