2021.4.12 12:00

【ベテラン記者コラム(132)】長谷川穂積、あと1秒もてば…衝撃の王座陥落

【ベテラン記者コラム(132)】

長谷川穂積、あと1秒もてば…衝撃の王座陥落

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フェルナンド・モンティエル(右)にTKO負けを喫した長谷川穂積 

フェルナンド・モンティエル(右)にTKO負けを喫した長谷川穂積 【拡大】

 衝撃的な王座陥落だった。2010年4月30日、東京・日本武道館で行われたプロボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチ。11度目の防衛を目指した王者・長谷川穂積が当時、日本非公認だったWBO同級王者フェルナンド・モンティエル(メキシコ)に4回2分59秒、TKO負けを喫した。

 日本国内では男子初の世界王者による対決だった。1万1000人で埋まった会場は静寂に包まれ、敗れた長谷川はうつろな目でリングに立ち尽くした。05年4月から5年間、守り続けた王座を失い、控室では涙を浮かべた。

 「気を抜いたところにもらった。あれだけもらったら仕方がない。言い訳はできない」

 一瞬の油断が生じた。4回残り10秒、右を出そうとしたところでモンティエルの左フックをもらい、さらにもう一発、左フックをまともに食らうと、よろめきながらロープにもたれかかった。連打を浴び、レフェリーが試合をとめた。

 長谷川の敗戦は01年5月以来、9年ぶりのことだった。世界戦ではもちろん初、KO負けも初の屈辱となった。05年4月16日、場所も同じ日本武道館でウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)から王座を奪って、1840日目の悲劇だった。

 09年12月に10度目の防衛に成功後、2階級上のフェザー級転向を見据えながらバンタム級に残留。元WBA世界ライトフライ級王者・具志堅用高が持つ日本人世界王者の連続防衛記録「13」を目標に掲げたが、その夢はついえた。

 WBO王座の2度目の防衛、WBC王座との統一を果たしたモンティエルは、「WBCベルトは子供のころからの夢だった。4回は野球でいえばホームランのようなジャストミート」と会心の笑みを浮かべた。残酷なまでに、勝者と敗者の違いが浮き彫りになった。

 日本武道館には殺伐とした雰囲気が漂った。記者がこれまで取材した世界戦とは明らかに違っていた。世界的なリングアナウンサー、ジミー・レノン・ジュニアの「イッツ・ショータイム!」の呼び声も、華やかな空間に活気を与えた。「やるか、やられるか」。“本物”同士のつぶし合いに目の肥えたボクシングファンが酔いしれた。

 3回まで採点は「29-28」が2人、残る1人のジャッジは「30-27」のフルマークで全員が長谷川を支持していた。劣勢ではない中、長谷川を狂わせた4回で残り1秒もてば運命は変わっていたかもしれない。闘拳の醍醐味が詰まった至高の一戦だった。(江坂勇始)