2021.4.1 12:00

【ベテラン記者コラム(127)】ある人気力士の容姿と悲哀「大男、総身に知恵が回りかね」

【ベテラン記者コラム(127)】

ある人気力士の容姿と悲哀「大男、総身に知恵が回りかね」

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 東京五輪・パラリンピック開閉会式の企画、演出で全体を統括するクリエーティブディレクターがさきに、式典への出演を予定していたタレントの容姿を侮辱する内容のアイデアを提案し、辞任に追い込まれた。

 大会組織委員会の橋本聖子会長(56)は「容姿を笑いものにする発言は、絶対にあってはならない」と断じたが、小学校低学年時に、女性の担任教諭から同じことを厳しく教えられたことを覚えている。なにをかいわんや。

 こうした発言やパフォーマンスに接するたびに、大相撲のある力士の悲哀を思う。

 元関脇出羽ケ嶽文治郎。

 大正時代後期から昭和初期にかけて活躍し、現役時代の体格は206センチ、203キロ。大相撲史上、身長と体重の両方が200センチ、200キロを超えた初めての国内出身力士といわれ、「文ちゃん」の愛称で親しまれた。

 故郷の山形県から上京した出羽ケ嶽を養子同然のかたちで迎え入れた支援者が、医師で歌人の斎藤茂吉と養子縁組をした関係で、その長男で医師でエッセイストの斎藤茂太、次男の医師で芥川賞作家の北杜夫とは「義兄弟」の間柄に。2人はともに作品で出羽ケ嶽を描いている。

 出羽ケ嶽は幼い頃から脳下垂体の異常で、限りなく体が成長し続ける「巨人症」におかされていたが、入学した青山学院中等科では医師を目指すほど成績は優秀だったという。土俵では類のない体形もあって人気者だったが、異形の容姿をはやしたてる鋭利な視線も少なくなかった。

 「大男、総身に知恵が回りかね。さぁ、ただいま、出羽ケ嶽登場です」

 当時、ラジオで大相撲を実況放送していたアナウンサーは、大巨人の登場に合わせて、こう紹介し続けた。当時は立ち合いまでの制限時間が10分間もあり、解説者もいなかったことから、アナウンサーが俳句や川柳を巧みに織り込み、間を持たせることも多かったそうだ。

 NHKの元アナウンサーで、大相撲中継にも長く携わった杉山邦博さん(90)は「人気者の一面をおもしろおかしく伝えようとしたのでしょうが、現在ならば完全にアウト。大バッシングを受けるでしょう。話の前後の内容がはぶかれ、その部分だけが切り取られて残ってしまったようです」。

 時代は移ろう。文ちゃんがいま、あの「名調子」を聞かされたら、どんな表情を浮かべるだろう。(奥村展也)