2021.3.29 12:00

【ベテラン記者コラム(126)】サップの化けの皮がはがれた、ミルコの左ストレート一撃

【ベテラン記者コラム(126)】

サップの化けの皮がはがれた、ミルコの左ストレート一撃

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マウスピースを吐き出しながら倒れるボブ・サップ 

マウスピースを吐き出しながら倒れるボブ・サップ 【拡大】

 野獣が膝から崩れ落ちた。2003年3月30日にさいたまスーパーアリーナで行われた「K-1 WORLD GP」。ボブ・サップ(米国)がミルコ・クロコップ(クロアチア)にわずか86秒、左ストレート一撃でKOされた。

 試合開始直後からサップは前に突進したが、パンチはむなしく空を切った。逆に一瞬の隙をつかれてミルコの左ストレートを被弾。前日会見では1回KO勝ちを高らかに宣言し、「ミルコを処刑する」と豪語していた余裕は吹き飛ばされた。

 サップはことごとく常識を覆してきた。02年8月の「Dynamite!」で総合格闘技3戦目ながら、「柔術マジシャン」ことアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(ブラジル)をあと一歩のところまで追い詰めた。同10、12月の「K-1 WORLD GP」では、王者アーネスト・ホースト(オランダ)に連勝。巨体に似合わないおちゃめなキャラクターが人気を呼びCM10本、CDデビュー、バラエティー番組出演など、多忙なスケジュールを送っていた代償が、結果として返ってきた。

 米ワシントン大で薬学と社会学を専攻し、3年間で特進卒業した秀才だった。アメリカンフットボールでも活躍し、NFLベアーズなど3球団で4年間プレーしたが、左右のアキレス腱痛で引退に追い込まれた。米プロレス団体WCWを経て、格闘技界に進出した際、チャンスを与えたのが空前の格闘技ブームにわいた日本だった。

 栄枯盛衰を味わった。06年5月のK-1アムステルダム大会で、ホーストの母国引退試合の相手だったが、直前になってボイコット。10年大みそかは、戦意喪失を理由にキャンセルした。負傷以外で試合当日にカードが消滅するのは極めて異例の事態だった。

 サップは当日になって突然、「試合をしたくない」と訴えた。周囲の説得を受け会場入りはしたものの、控室にこもりファイトを拒絶したという。03年大みそかに格闘技デビューを飾った元横綱曙にKO勝ちし、中継したTBSの瞬間最高視聴率がNHK「紅白歌合戦」を上回る43・0%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)をたたき出した男の姿は、文字通りなかった。(江坂勇始)