2021.2.12 12:00

【ベテラン記者コラム(107)】ペースメーカー不在の東京五輪、一山、前田、鈴木にも可能性あり

【ベテラン記者コラム(107)】

ペースメーカー不在の東京五輪、一山、前田、鈴木にも可能性あり

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第40回大阪国際女子マラソンで10キロ付近を走る一山(右)と前田(左から2人目)。ペースメーカーは川内(左)、岩田。(代表撮影)

第40回大阪国際女子マラソンで10キロ付近を走る一山(右)と前田(左から2人目)。ペースメーカーは川内(左)、岩田。(代表撮影)【拡大】

 1月31日に行われた大阪国際女子マラソンは東京五輪代表の一山麻緒(ワコール)が2時間21分11秒で優勝した。目標としていた野口みずきの日本記録(2時間19分12秒)には届かず、「力不足で日本記録を出せず申し訳ない」「今は悔しいです」とまるで敗者のような言葉が印象的だった。

 とはいえ、このタイムは日本女子の歴代パフォーマンスでは5位の好記録だ。野口に次ぐ2位は渋井陽子、3位は高橋尚子と2時間19分台が並び、すべてベルリン・マラソンでマークしたもの。男子のペースメーカーとともに走ったので「男女混合」としての扱いになる。4位は一山自身が2020年3月の名古屋ウィメンズでマークした2時間20分29秒で、これは「女子単独」での日本記録である。

 コロナ禍の影響で公道を使わず、長居公園内の周回コースに変更された今回の大阪国際は、大会史上初めて男子選手がペースメーカーを務めて注目された。一山と同じく東京五輪代表の前田穂南(天満屋)による先頭集団は、川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)、岩田勇治(三菱重工)、田中飛鳥(ひらまつ病院)の男子3人が引っ張った。

 驚いたのは彼らがペースメーカーとしてとても優秀だったこと。予定されていた1キロ3分18秒前後のペースをきっちり刻んで走った。13キロ過ぎで前田が遅れると、すかさず田中が離れて前田の先導役に回るなど臨機応変の対応も光った。

 24キロ付近で一山の足が鈍ってからは、1キロ3分25秒前後のペースに落とし、ときには声をかけて励まし、ゴールのヤンマースタジアム長居に入る手前まで引っ張った。レースを終えた一山は、スタジアムに戻ってきた川内(2時間21分58秒で完走)に深々とお礼していた。

 対照的だった2001年2月の東京国際マラソンを思い出した。ケニア人のペースメーカーがへたくそで、レースがめちゃくちゃになったのだ。5キロ15分ちょうどで30キロまで引っ張る契約で、たしかに5キロごとだとそのとおりに走っていたが、1キロごとが速かったり遅かったりとバラバラ。時計を見てなんとか5キロで帳尻を合わせているというありさまだった。

 この乱高下に合わせて走ると、むだに脚を使ってしまうらしい。有力選手の何人かは早々と先頭集団につくのをやめ、後方でレースを進めた。先頭集団でペースメーカーの乱調に付き合わされた3選手のうち1人は折り返し地点を過ぎてから遅れると途中棄権に追い込まれ、もう1人も脱落。優勝した高橋健一も終盤は大失速し、記録は2時間10分51秒と低調だった。レース後、ペースメーカーと大会主催者が出場料をめぐって大もめにもめていた。

 このようにペースメーカーの存在はマラソン大会の成否を左右する。ただ、好記録を狙って複数のペースメーカーが用意される大会と違い、各国の代表選手しか出場できない五輪や世界選手権はでペースメーカーは不在。日本勢もアフリカ勢を相手に勝負できる可能性が広がる。

 東京五輪が開催された場合、夏の札幌のコースで強さをみせるのは、“現役日本最速”の一山か。2019年9月の東京五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」で独走優勝した“現役日本最強”の前田か。それとも鈴木亜由子(日本郵政グループ)か。興味は尽きない。(牧慈)