2021.2.11 12:00

【ベテラン記者コラム(106)】いつも物静かで冷静沈着だった井上康生氏の夢のようなお話

【ベテラン記者コラム(106)】

いつも物静かで冷静沈着だった井上康生氏の夢のようなお話

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井上康生氏(代表撮影)

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 柔道家のイメージといえば質実剛健、生真面目、寡黙、朴訥(ぼくとつ)と言ったところだろうか。その代表格として頭に浮かぶのは、2019年に日本オリンピック委員会会長に就任した山下泰裕氏、15年に亡くなった斉藤仁氏、そして現在は日本代表の監督を務める井上康生氏の五輪金メダリストだ。

 柔道担当だった当時は井上の全盛期だった。とにかくべらぼうに強かった。00年シドニー五輪100キロ級で優勝。世界選手権は1999、01、03年と3連覇を達成し、全日本選手権は01年から3年連続で制した。得意技は豪快な内股と大内刈り。重量級ながら動きも俊敏だった。

 実直を絵に描いたようなアスリートで、いつも物静かで冷静沈着。“大人度”では19歳年下に完敗だった。だが、井上康生も人間。何か一つくらいはニヤリとするようなおもろい話があるはず。五輪連覇を目指した04年アテネ五輪前は、金メダル原稿のためのネタ探しに必死だった。

 日本選手団の主将にも選ばれたアテネでは、まさかのメダルなしに終わった。男女合わせて8個の金メダルを獲得し、柔道ニッポンの完全復活を世界に印象づける中、井上は準々決勝で一本負け。敗者復活戦も3回戦で敗れ、用意していた優勝原稿は日の目を見ることはなかった。

 肝心なネタも見つからないままだったが、男なら誰もがうらやむような話が一つある。珍しく1対1で話をする機会があったとき、硬派な彼が照れくさそうに教えてくれた。

 「海外から帰国する飛行機の中で、客室乗務員(CA)さんに小さく折った紙をそっと渡されたことがあるんですよ」

 ほんまかいな…だった。紙には携帯電話の番号が書いてあったという。男にとってCAさんは昔も今も憧れの存在。「康生クン、モテるでしょう?」。そんな話から始まったと思うが、夢のような話である。うらやましい。

 井上は08年に約5年の交際を経て、タレントの東原亜希さんと結婚した。東原さんがテレビの仕事で井上を取材したのが2人の初めての出会い。今では4人の子供の母となった東原さんは、何かで読んだインタビュー記事で「初めて会ったときに、この人と結婚するという確信があった」と振り返っていた。モテる男はやはり違う。

 ちなみに、CAさんからの積極的なアプローチには結局、応えることはなかったという。公にはなっていなかったが、当時は既に東原さんと交際中だったはず。当然の“ごめんなさい”だが、もったいないとも思ってしまう。その辺が自分と彼の決定的な違いなんだろうな。(臼杵孝志)