2021.2.1 12:00

【ベテラン記者コラム(102)】世界王座奪取翌日に職務質問された佐藤洋太 第二の人生は“挑戦者”

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世界王座奪取翌日に職務質問された佐藤洋太 第二の人生は“挑戦者”

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警察から職務質問を受けたという佐藤洋太。リュックの中にはスケボー用の工具が入っていた 

警察から職務質問を受けたという佐藤洋太。リュックの中にはスケボー用の工具が入っていた 【拡大】

 キビシ~イ現実を突きつけられた。2012年3月、プロボクシングのWBC世界スーパーフライ級王者に輝いた佐藤洋太は王座奪取から一夜明け、東京都内の協栄ジム近くで職務質問を受ける屈辱を味わった。スリヤン・ソールンビサイ(タイ)との激闘で顔面は腫れ、両足の皮がめくれて足取りがおぼつかないことを不審に思った警察官から10分間、事情聴取された。 

 ベルト奪取の興奮から一睡もできず、地上波で録画放送された自身の試合を目に焼き付けた。喜びいさんで東京・小平市の自宅を飛び出し、西武線に乗って西武新宿駅で下車。新大久保方面へ歩き出すと追いかけてきたのは韓流女子ではなく、パトカーから降りてきた警察官だった。

 「僕きのう、ボクシングの世界チャンピオンになったんですよ」と胸を張ったが、警察官は「へぇ~、そうなんだ…」とつれない反応。新王者の顔面は腫れボサボサの金髪に黒のジャージー姿だった。警察官に前をふさがれて財布の提出を求められ、クレジットカードの名義を確認された。

 災難に拍車をかけたのは、背負っていたデイパック。中には趣味のスケートボードを調整するために使用するスパナが入ったままで、警察官の緊張感はさらに高まった。窮地に陥った佐藤は仕方なく“世界王者”の称号を切り出したが、悲しいかな、相手はその事実を知らなかった。

 減量中だった1週間前は、顔がゲッソリしていたことで職務質問を受けたという。歓楽街として有名な新宿歌舞伎町から近い新大久保ならともかく、自宅近くでのどかな雰囲気が漂う西武花小金井駅前でも警察官に声をかけられた。

 「僕は真っ白なボクサーですよ。有名人にはなりたくない。めんどくさいから」

 13年5月、3度目の防衛戦に失敗し、引退を決意。その後は故郷・岩手に戻り、盛岡市内で焼き肉店「チャレンジャー」の店長として第二の人生を歩んでいる。周囲からは店名を「世界王者だから『チャンピオン』にすればいい」と勧められたが、「これから飲食の世界でスタートするのに、いきなり王者じゃずうずうしい感じがする」と拒否したという。

 現役時代は腕をぐるぐる回したり、わざとよそ見をしたりする変則的なスタイルが武器だった。相手の虚を突く作戦を重視していたが店の信条はうまい肉、心を込めた接客。経理や仕入れなど、経験したことのない飲食業の経営に日々、頭を悩ませている。戦う舞台は変わっても、“挑戦者”の気持ちを貫いていく。(江坂勇始)