2020.11.26 12:00

【ベテラン記者コラム(74)】引退した大相撲の元大関琴奨菊「琴バウアー」の命名者はいずこに…

【ベテラン記者コラム(74)】

引退した大相撲の元大関琴奨菊「琴バウアー」の命名者はいずこに…

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琴バウアーで気合を入れる琴奨菊

琴バウアーで気合を入れる琴奨菊【拡大】

 大相撲の一年納めの場所、さきの11月場所限りで元大関の西十両3枚目琴奨菊(36)が現役を引退、年寄「秀ノ山」を襲名した。同場所6日目の土俵で「勝っても負けても最後」と自ら決断した。

 家族を東京・墨田区の両国国技館に呼んだ土俵人生最後の取組では、最後の塩をまく前に両腕を大きく広げて上体を反らすルーチン、「琴バウアー」と呼ばれた独特のポーズを3年ぶりに披露した。長い期間、控えていた動作だったが、胸の奥底で「やめるときにやる」としていた自身の決めごと。引退会見では「応援してくれた方に感謝の気持ちが伝われば」と説明した。

 フィギュアスケートの技「イナバウアー」にちなんで名づけられた「琴バウアー」だが、平成28年初場所で国内出身力士として10年ぶりに賜杯を抱いた当初は、メディアによって「琴バウアー」と「菊バウアー」が混在。「琴菊論争」となっていた。同年2月、琴奨菊は東京都内の「日本記者クラブ」で会見を開いた。現役力士では曙、朝青龍、白鵬、魁皇に次ぎ5人目となるこの席上で、異色の論争に決着がつく。

 会見も終盤にさしかかったころ、琴奨菊はお決まりのポーズを披露し、会見に参加していた外国通信社の女性記者を突然指名した。「『琴バウアー』か『菊バウアー』か、あの女性の方に聞いて決めましょう」。

 突然の「がぶり寄り」ならぬ、ムチャぶりにメガネをかけた女性は驚き、声を引きつらせて答えた。「コ、コ、コトバウアーで」。これで一件落着となった。その後、“命名”した女性記者と再会する機会に恵まれず、「琴バウアー」を選んだ理由を聞けずにいることが残念でならない。

 琴奨菊が入門した佐渡ケ嶽部屋の当時の師匠、先代佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜、故人)は、同部屋の力士のしこ名に「琴」の文字を入れることについて「『琴』には『王』が2つも入っている。『今』に王様になるお相撲さんがいっぱいいる、ということですよ」と、笑いながら説明してくれた昔を思い出す。

 「琴」のなりたちは楽器の琴の象形文字で、その上部は琴の糸を張りわたしたさまを示し、のちに糸の部分だけを残したといわれる。琴は神を呼ぶ神聖な楽器とされ、音を示す「今」をそえて、琴のかたちになったという。今は「吟ずる」に由来するという説もある。

 長い年月が過ぎても、「琴バウアー」の言葉を思いだしたとき、琴奨菊の風貌もすぐによみがえることだろう。(奥村展也)