2020.11.23 12:00

【ベテラン記者コラム(73)】内山高志、サラリーマン時代に培った“KOダイナマイト”級の営業力

【ベテラン記者コラム(73)】

内山高志、サラリーマン時代に培った“KOダイナマイト”級の営業力

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強烈な右をムクリス(手前)の顔面に打ち込む内山。完勝で2度目の防衛に成功した

強烈な右をムクリス(手前)の顔面に打ち込む内山。完勝で2度目の防衛に成功した【拡大】

 衝撃的な失神KO劇だった。2010年9月、プロボクシングWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志が、同級5位のロイ・ムクリス(インドネシア)に5回2分27秒TKO勝ち。2度目の防衛に成功した。

 挑戦者の左ほお骨を砕いて失神させ、病院送りにするダイナマイト級の破壊力を見せつけ、日本初となる世界王座奪取からの3連続KO勝ちの快挙を成し遂げた。

 3回に右ストレートでムクリスの左目上をカットさせたのは、伝説の序章に過ぎなかった。5回終盤、内山の右フックが相手の顔面を襲った。続いて左右から容赦なく6連発。ひざまずいてリングに突っ伏した挑戦者は目を見開き、再び立ち上がることはなかった。

 「ムクリスの目が前を向いていなかったので、手応えはあった」

 失神したムクリスは、リング上から担架で運ばれ、そのまま救急車でさいたま市内の病院へ。検査の結果、左ほお骨骨折が判明した。まさにダイナマイト級、破壊力抜群の一発だった。

 パンチの強さは、その角度による。内山の拳は人さし指と中指の付け根が異常に盛り上がっていた。相手に当てる拳の面積を先端に集めることによりパンチの威力が増した。試合後はトレーナーに拳を氷で冷やされた。

 氷のような硬い拳とは対照的に、心は温かだった。拓大卒業後、2年間サラリーマン生活を送り営業活動はお手の物。後援会のパーティーでは自らがデザインした写真入りの名刺を配り、チケット販売をした。申し込んでくれた人には手書きの礼状を書いて感謝の気持ちを伝え、V2戦では個人で900枚を売り上げた。観衆は5800人。“KOダイナマイト”の異名に引けを取らない、驚異的な営業力だった。

 その後も防衛回数を重ね、15年2月には日本選手で初となるスーパー王者へ昇格を果たした。日本歴代3位の11連続防衛、王座在位最長(6年3カ月)、最年長防衛(36歳1カ月)など数々の記録を打ち立て、18年7月で現役を引退した。現在はフィットネス・ボクシングジム「KOD STUDIO」の代表を務め、出身地の埼玉・春日部市にもオープンさせた。

 「かすかべ親善大使」を務めており、「健康促進を目的として頑張っていきたい」と夢だった地元でのジム運営に挑戦している。その人格者ぶりから、ボクサーや報道陣に敬意を込めて「内山先輩」と呼ばれた偉大な王者は、第二の人生も自らの拳で切り開いていく。(江坂勇始)