2020.10.23 12:00

【ベテラン記者コラム(60)】トップアスリートゆえの脱水症状による途中棄権

【ベテラン記者コラム(60)】

トップアスリートゆえの脱水症状による途中棄権

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新型コロナウイルス感染防止のため沿道の応援自粛が要請され行われた、全日本実業団対抗女子駅伝の予選会=18日午後、福岡県宗像市

新型コロナウイルス感染防止のため沿道の応援自粛が要請され行われた、全日本実業団対抗女子駅伝の予選会=18日午後、福岡県宗像市【拡大】

 18日に行われた陸上の全日本実業団対抗女子駅伝予選会(福岡県宗像市)でアクシデントがあった。

 京セラの1区(7キロ)に起用された岡田佳子(22)が第1中継所の約100メートル手前で突然倒れ、動けなくなってしまった。脱水症状を起こしたようで全身がけいれんしており、大会審判長の判断で途中棄権とし、近くの病院に緊急搬送された。幸い軽症で大事には至らなかったという。たすきがつながらなかった2区の走者は繰り上げスタートとなった。

 なぜ脱水症状を起こしてしまったのか。順天堂大陸上競技部女子監督の鯉川なつえさんに話を聞いた。鯉川さんは実業団の三田工業時代、1995年ユニバーシアード福岡大会の女子マラソンに出場。トップで独走していたが、39キロ付近で熱中症のため意識がもうろうとなり、途中棄権した経験がある。このときはスタート時で気温28・5度、湿度86%という悪条件で、途中棄権者が続出。完走率は男子55%、女子70%という低さだった。湿度が高すぎて汗が蒸発しないため、体温は上昇する一方。鯉川さんはレース途中からの記憶がないそうだ。

 18日の予選会は午後12時10分号砲。正午での天候は晴れ、気温21・0度、湿度47%、北東の風3・0メートルだった。鯉川さんのときとは気象条件がずいぶん違うようだが、テレビでレースを見ていた鯉川さんは「身体的な発汗だけではなく、精神的な発汗もありますから」と指摘。「強い選手あるあるですが、精神的な限界を超えることができるのがトップアスリート。普段から高いレベルで自分を追い込んでいるので、キツい状況でも走ってしまい、重症化するときは一気にくる可能性が高い。野口みずきさんも2013年の世界陸上(モスクワ)のとき、熱中症で途中棄権したでしょう」と説明してくれた。長距離ランナーとはなんと過酷な世界に生きていることかと驚くばかりだ。

 岡田佳子は松山大時代に2018年4月の世界大学クロスカントリー選手権(スイス)の日本代表にも選ばれた実力者。このとき日本チームのコーチを務めたのが鯉川さんで、「日の丸を背負ったこともある強い選手ですし、プレッシャーのかかる1区に起用されるようなエリート選手だからこそ、今回の件は起こったと言えます」と理解を示す。

 京セラは前監督が8月末で退任するなどチームも大変な時期。実業団スポーツだけに、選手には予選会はぜひとも突破しなければならないという重圧もあっただろう。鯉川さんは「力のある選手だから、今回のことは気にしないで進んでいってほしい」と気にかけていた。(牧慈)