2020.9.17 12:00

【ベテラン記者コラム(44)】名伯楽エディさん、“品定め”とは違うロマンを感じた振る舞い

【ベテラン記者コラム(44)】

名伯楽エディさん、“品定め”とは違うロマンを感じた振る舞い

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 日本野球機構(NPB)と日本高校野球連盟が主催する「プロ志望高校生合同練習会」がさきに、開かれた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で春夏の甲子園大会が中止になるなど、多くの公式戦が消滅。鍛錬した成果を披露する場を失った高校3年生の救済を目的とした初めての試みで、西日本会場(甲子園球場)、東日本会場(東京ドーム)に球児を集め、NPB12球団のスカウトらが集結した。

 スカウトといえば、こんな体験がある。この仕事に就いて1年もたっていなかったろう。ボクシングの聖地といわれる、東京・文京区の後楽園ホールを訪れていた。東側の壁にもたれて、リング上の前座の試合を見つめていると、背が高く髪の毛を短く刈り込んだ男性が声をかけてきた。

 「You(あなた)はたばこを吸いますか」

 ライターでも借りにきたのかと思い、「いいえ」と返答した。流ちょうな日本語を操り「それはいいですね」といいながら、体を触りだして「なにかスポーツしてますね」。大学の4年間、体育会運動部に在籍していたことを伝えると「一緒にボクシングやりませんか。夢、見ませんか。たばこ、吸っちゃだめよ」とたたみかけてきた。

 この男性は国内のジムに請われて藤猛、海老原博幸、柴田国明、ガッツ石松、友利正、井岡弘樹と最終的に6人の世界王者を育てた米ハワイ出身のボクシング・トレーナー、エディ・タウンゼントさん(故人)だった。その後、親しい付き合いが始まり、いつも見ず知らずの人に声をかけているのか、と尋ねると「自分の目で探した人が世界王者になったらね、これトレーナーのだいご味よ。勘とにおい、信じて。原石、探すのよ」とウインクした。

 スキルやテクニックは問わない。氏素性、性格もわからない。経験を頼りにした直観、骨格と筋肉のつき方が、エディさん流の「見る目」だったのだろう。

 中国春秋時代(紀元前)、孫陽という人物が「伯楽(はくらく)」と呼ばれるようになった。古代中国では「伯楽」という名前の星が、天馬の世話をしていると信じられていた。馬の鑑定能力にずば抜けていた孫陽を、「彼なら天馬の世話もできる」とし、伯楽の称号が与えられた。

 スポーツ界にも「名伯楽」はいる。それでも、エディさんのように、広い砂漠のなかで一粒の砂金を探すような振る舞いには、“品定め”とは違うロマンを感じた。(奥村展也)