2020.9.6 12:00

【ネクストスター候補(18)】萱和磨、飛躍への25メートル 大技ロペス習得へ見直した助走/体操

【ネクストスター候補(18)】

萱和磨、飛躍への25メートル 大技ロペス習得へ見直した助走/体操

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世界体操・男子団体決勝 萱和磨の跳馬=2019年10月、ドイツ・シュツットガルト(撮影・川口良介)

世界体操・男子団体決勝 萱和磨の跳馬=2019年10月、ドイツ・シュツットガルト(撮影・川口良介)【拡大】

 体操男子の萱和磨(23)=セントラルスポーツ=は来夏の東京五輪で日本のエースとなるべく、高難度の技に挑んでいる。その一つが跳馬の「ロペス(伸身カサマツ跳び2回ひねり)」。目標とする個人総合王者に向けて鍵を握る大技で、使い手となれば強者と評価される。習得に向けて取り組んだのが、スプリント能力の強化による助走の改善だった。(取材構成・鈴木智紘)

 練習場所は自宅近くの公園だった。メニューは約20メートルのダッシュを10本。「走るのはこんなにきついのかと痛感しました」。新型コロナウイルス禍で体育館が自由に使えなかった間、萱はさながら陸上のスプリンターのように自らを追い込んでいた。

 かつてない試みには狙いがあった。「苦手」という跳馬の助走の改善だ。「今までは、ただ走っていました」。所属先のセントラルスポーツが昨年12月からチームとして強化を始めたのを機に、技を繰り出す前段階から見つめ直してきた。

 男子のトップ選手を支える中島啓トレーナー(43)から指導を仰ぎ、フォームを修正した。「体操では力を後ろに伝える選手が多い。ロスが生まれているんです」と中島氏。トラックから受ける反発を推進力とする短距離選手を参考に、助走速度の向上を図ったという。

 もっとも、速く走ればいい訳ではない。跳馬の着手までの技術が技の成否を左右する。ロイター板の踏み切りにおいては、腰の上下動を減らして頭の位置が前にぶれない形を心掛けた。重要なのは、高めた出力をいかに跳躍につなげるか。「無駄な力を使って走ると踏み切りや着手に影響が出ます」と萱。25メートルの助走路を効率よく駆ける意識を植え付けてきた。

 地道な積み重ねにより、大技「ロペス」を練習で決められるようになった。試合で成功すれば名手と評価される。難度を示すDスコアは5・6。これまで跳んできた「ドリッグス」より0・4も高い。わずかな数字に見えるかもしれないが、萱が目標とする東京五輪の個人総合王者に向けた大きな一歩となる。

 昨秋の世界選手権を制したニキータ・ナゴルニー(ロシア)の6種目のDスコアは合計36・4で、6位だった萱は35・8。「ロペス」を決められれば差を縮められる。他に床運動や鉄棒の難度も高めており、次戦となる22日の全日本シニア選手権(高崎アリーナ)では36・4前後の演技構成を予定している。

 「ロペス」は「恐怖心が今までで一番大きい技」。練習を始めたのは大学1年の頃。踏み切りにトランポリンを使い、着地点にスポンジを敷き詰めるなど試行錯誤を重ねてきた。「突き詰めてこそ、試合で自信を持ってできる。納得するまでやる性格なんです」。けがと隣り合わせの中、切り札への挑戦を諦めなかった。

 正確無比な演技から「失敗しない男」と呼ばれる23歳。「ロペスを跳べれば、6種目で満足した構成になる。世界と戦えるレベルまで、やっときたなと」。誰もが認める練習の虫は、今日も助走路に立つ。

 【一問一答】

 --高難度の演技構成の手応えは

 「最初は体力が続かなかったり、ミスが多かったりしたけど、だんだん仕上がってきました。前の自分よりも1点以上パワーアップした感覚があります」

 --高難度の技は、けがと隣り合わせでもある

 「周りは冷や冷やしているかもしれません。でも、どこか冷静な自分がもう一人いる。これ以上やったら肩が壊れる、とか分かっています。自分の体は自分が一番分かっていますから」

 --なぜミスをしない

 「毎回の練習を本当に大事にしている。練習だから(ミスをしても)いいとは思いません。ミスが出たら、なぜかを解明するまで練習します。調子が悪かったというのは、解決したことにはならないので」

 --全日本シニアではどのような演技を

 「早く試合がしたいというわくわく感があります。今までは安定感を評価されてきて、さらに(技の難度を上げて)複数の種目で点数を取れるようになってきました。6種目合計で(世界王者の)ナゴルニーに勝つため、88点を狙っています」

 --東京五輪の開催を危ぶむ声も

 「延期をマイナスには捉えていません。1年後に本当に開催されるのか。それは僕が何を言おうと変わらない。五輪は絶対にあると思って練習しています」

萱 和磨(かや・かずま)

1996(平成8)年11月19日生まれ、23歳。千葉県出身。習志野高から順大に進み、順大大学院。セントラルスポーツ所属。世界選手権では2015年団体総合で金メダル。同種目別あん馬、18年団体総合、19年団体総合、同種目別平行棒で銅メダル。163センチ、52キロ。