2019.10.14 11:30

【すぐそばに東京五輪(11)】何のため、誰のため…突き詰めて歩く山西利和

【すぐそばに東京五輪(11)】

何のため、誰のため…突き詰めて歩く山西利和

特集:
すぐそばに東京五輪
国旗を掲げる優勝した山西利和(桐山弘太撮影)

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 世界一になれば喜ぶものだと思っていた。取材エリアで淡々と紡がれた通り一遍でない言葉に、驚きがあった。

 「勝っちゃったというか。別に何も成し遂げていません」

 さきの世界陸上の男子20キロ競歩で日本勢初の戴冠を飾り、東京五輪切符を手にしても、山西利和に笑顔はなかった。喜ぶしぐさもない。半日以上たってからの表彰式で金メダルを受け取っても、レース後に抱いた感情に変化はなかった。

 何のため。誰のため。23歳は自問自答しながら歩いているという。勝敗や速さを競うことが、競技に没頭する理由の全てではない。「それの何がすごいのか。自己満足にすぎないんじゃないか。社会に何を生み出すかを探求している。それは学問っぽい考え方かもしれない」。壮大な陸上競技観を胸に抱くから、世界王者になっても素直に喜ばなかった。

 陸上の世界では関東の強豪校に比べて影の薄い京大卒。工学部に在籍し、制御工学を専門とした。卒業論文のテーマは「部分空間同定法を用いた信号の周波数推定」。勉強と両立して競技に励み、二条城の周りや京都御所の中を歩いて独学を基本に鍛えてきた。

 「競技をしていることが当たり前でない陸上部」で4年間すごし、競歩に取り組む意味を根本から突き詰めてきた。

 「やらなくてもいい陸上をしているのはなぜか」

 純粋に競技が好きな気持ちや、1秒でも速くなりたいという向上心は、もちろんあるはずだ。ただ「いろんな人のサポートを受けている。それで自己満足でいいわけがない」と言い切る。

 各国の代表が立つ世界陸上のスタートライン。「勝っちゃった」との発言はライバルたちにとって、いい気分のしないものだったかもしれない。もちろん山西に悪意はない。「自分の考えを発信できるのは勝てたから」という。

 何のため。誰のため。この視点を持ち、道を極めようとするアスリートはどれほどいるだろう。競技に臨む目的を追求するから、山西は手垢のついていない言葉で自己表現できるのかもしれない。(鈴木智紘)