紀平、5位から逆転V!真央超え女子世界初3冠王手/フィギュア

 
満足の演技に、紀平は思わず右拳を突き上げた。痛めた左手の薬指と小指をテープで固定して、底知れぬ力を示した(共同)

 フィギュアスケート・四大陸選手権第2日(8日=日本時間9日、米カリフォルニア州・アナハイム)欧州以外の国・地域が参加する大会。女子ショートプログラム(SP)で5位と出遅れたグランプリ(GP)ファイナル女王の紀平梨花(16)=関大KFSC=がフリー1位の153・14点をマークし、合計221・99点で初優勝を飾った。左手薬指を亜脱臼する手負いの状態でトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決め、逆転に結びつけた。3月の世界選手権(20日開幕、さいたま)で女子史上初となるGPファイナル、四大陸選手権との同一シーズン3冠を目指す。

 いかにして3回転半を跳ぶか。紀平の頭の中は、その考えで埋め尽くされていた。演技直前に浜田美栄コーチ(59)から掛けられた言葉も、いつもは演技後に行う得点の計算も、忘れていた。神経を研ぎ澄まして4分を演じ抜いた安堵(あんど)で、気づけば総立ちの客席に向けて拳を握っていた。

 「『お願い、高い点数が出ますように』って思った。『よかったー』って素直に喜べました」

 2本か1本か。6分間練習を終えるまで大技の本数を決めかねていた。「安全に、良い成績を残せるように考えた」。氷の感触を確認し、滑走直前に1本で臨むと決意。切れ味鋭く代名詞を決めると、大歓声がリンクにこだました。2・51点ものGOE(出来栄え点)を引き出す精度だった。

 5日の練習で転倒し、左手の薬指を亜脱臼した。この日もテープで固定した薬指と小指は曲がらないまま。胸の前で拳を強く握れず、思うように回転軸をつくれない。“感覚派”は前日7日のSPで大技が不発に終わってから、頭の引き出しを開けた。思い出したのは、昨年1月に同じ薬指を骨折した際に3回転半の跳び方を変えた記憶だった。

 心掛けたのは「強く、速く」。指が伸びた状態では空気抵抗が大きくなり、腕を振り上げてから締めるまでのテンポが遅れるという。1年前の感覚を頼りに、午前の40分間の練習では大半を3回転半の調整に充て、4連続を含め7度着氷。遅くなっていた回転速度を見直し、いつもより重心を中心から右へ移して本番の成功につなげた。

 「あの子は自分の感覚を持っている。2本目も(跳ぶかどうかは)感覚を信じて決めなさいと言った」と浜田コーチ。繊細なジャンパーは失敗を教訓に一夜にして修正。SP首位との5・06点差を逆転し、2位に14・53点をつける圧勝だった。今季のフリーは7戦全てで1位。国際大会では無傷の5勝だ。

 1月に10日間、米コロラド州で合宿を行った。元世界女王のキム・ヨナを指導したトム・ディクソン氏の下でフリーの振り付けを鍛え直した。ステップを3つのパートに細分化。「『ここではハッピー』『ここではダーク』と、ポーズごとに使い分けるイメージ」。顔の角度を意識して喜怒哀楽の表現を磨いた。基礎点8・00点の3回転半1本で出した153・14点は、大技を2度決めた昨年11月のNHK杯でマークした自己ベストまで1・58点に迫る。技術点だけでなく演技点も全体トップ。確かな表現力も光る。

 21日からのチャレンジ杯(オランダ)をはさみ、3月の世界選手権(さいたま)を迎える。女子で過去に同一シーズンでGPファイナルと四大陸選手権を合わせた3冠を成し遂げた選手は、元世界女王の浅田真央らを含めいない。「世界選手権でも絶対にショートとフリーで完璧な演技をしたい」。銀盤の主役はこの先も譲らない。(鈴木智紘)

★ライオンになれた

 フリーに大技を入れるか悩む教え子の心を見透かしたように、浜田コーチが名作童話「オズの魔法使い」を引き合いに出した。「ライオンが勇気をもらいに旅に出る話をした」と、当日朝のやりとりを明かした。冒頭でトリプルアクセルを決め「どんなハプニングがあっても前を向いてやっていこうと思った」と貴重な経験を手にした紀平に、浜田コーチは演技後「ライオンになれたね」と語り掛けた。

データBOX

 ◎…男女シングルでGPファイナル、四大陸選手権、世界選手権を同一シーズンに制した3冠は、男子で2011-12シーズンのパトリック・チャン(カナダ)だけ。
 ◎…浅田真央は07-08、09-10シーズンに四大陸と世界選手権を制したが、GPファイナルで07年はキム・ヨナ(韓国)に敗れて2位、09年は出場できなかった。12-13シーズンはGPファイナルと四大陸を制したものの、世界選手権は3位。
 ◎…キム・ヨナは08-09シーズンに四大陸と世界選手権を制したが、GPファイナルは浅田に敗れて2位。
 ◎…羽生結弦は13-14、16-17シーズンにGPファイナルと世界選手権を制したが、四大陸で14年は欠場。17年はネーサン・チェン(米国)に敗れて2位だった。

紀平 梨花(きひら・りか)

 2002(平成14)年7月21日生まれ、16歳。兵庫・西宮市出身。16年に国際連盟(ISU)公認のジュニアGPシリーズ第5戦、スロベニア大会で女子史上7人目のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に成功。17年にジュニアGPファイナルで女子では世界初の3回転半-3回転トーループを決めた。17年全日本選手権3位。今季シニアデビューし、GPシリーズは第4戦のNHK杯と第6戦のフランス杯で2連勝。GPファイナルも初出場優勝した。全日本選手権は2位。ネット通信制N高1年。関大KFSC所属。154センチ。

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