7週間で11キロ!プロボクサー驚異の減量作戦、小原王座奪回に密着

科学特捜隊
減量を開始した試合7週前の小原

 科学的なアプローチでスポーツに斬り込むサンケイスポーツ東京発刊55周年企画「科学特捜隊」の第15回は、過酷とされるプロボクシングの減量に迫る。9日に行われたWBOアジア・パシフィック・ウエルター級タイトルマッチで、4カ月ぶりに王座を奪回した小原佳太(31)=三迫。リングに立つまで、パワーは落とさずに体重を11キロも減らすことに成功。試合の7週間前から取り組んだ画期的な「永末(ながすえ)式水抜き法」による減量に密着した。 (取材構成・伊藤隆)

 体重によって17階級に細分化されているプロボクシング。体格が同等の選手同士が戦う公平性を担保したものだが、最近は体重超過による失格が国内外で続出している。

 「減量に失敗するのは知識がないということ。そして、誘惑に負けてしまうことが原因でしょう」

 冷静に分析するのは、「最も減量に精通したプロボクサー」と自称する小原佳太。王座に返り咲いたWBOアジア・パシフィック・ウエルター級タイトルマッチ(9日、後楽園ホール)まで、約11キロの減量に励んだ。

 小原が2014年4月の試合前から採用しているのは、東京・練馬のジム「トライブ東京MMA」のトレーナー、永末貴之氏(37)が医師や栄養士らのアドバイスを受けて編み出した「永末式水抜き」。計量前日に4~5キロを一気に落とす画期的なもので、直前まで食事、水分を摂取できるメリットがある。

 従来の減量法は計量1週間前から食物、水分を絶つことが少なくない。飢え、渇きで体を動かせず、伴うのは苦しさだけ。「水抜き」は減量のデメリットを最小限まで軽減できる。

 緻密な作業が必要になる。減量開始前に上半身、下半身を中心に徹底的なウエートトレーニングで筋肉量を増やす。パワーアップの狙いもあるが、筋肉は水分の貯蔵タンク。筋肉量が増えることで、水分をより多くため込むことができる。

 「体脂肪で5・5キロ、水抜きで5・5キロ落とす」と計算を立てる小原は身長1メートル78、試合7週間前の減量開始時で77・3キロ。ウエルター級のリミットは66・6キロだ。

 水抜きで落とす重さと同じ水を1日5~6リットル飲む。この作業が重要で、体にたっぷりの水分を保持しないと、水抜きを成功させられないからだ。汗や尿などで体外に排出される分もあるが、小原は筋肉中の水分率を平均とされる20%より2割以上も多い約25%を維持する。

 一方で体脂肪を落とすため、食事は鶏胸肉、野菜など高タンパク、低脂肪が中心で炭水化物も口にするが、ラーメンなどの脂肪分の高いものは厳禁。ジムワークなどの有酸素運動で体脂肪を燃焼し、1日の摂取カロリーを基礎代謝以下に抑えれば「食事と運動で71キロまで落ちる」という。

 実際、計量前日の体重は71・2キロだった。あとは水抜きを実践するだけだ。午後からサウナスーツを着て30分走り、15分のエアロバイク。夜にジムで縄跳び30分、サンドバッグ打ちを9分。これで筋肉からの水分が一気に抜け、65・4キロとリミットを切った。このため、前夜も少量のおかゆ、水をとれた。

 「水抜き」を採用したことで肉体的、精神的なストレスが激減し、1度も減量に失敗していない。「緻密な知識、計算が必要だし、最後までそれを実践できなければ何の意味もない」。科学が進歩してもボクサーとしてのプライドがなければ、リミットまで体重を落とすことはできない。

★NO MORE失格

 今年に入って、計量での体重超過が続出している。国内では7件の計量失格が起きたが、これは過去最悪の数字だ。世界戦は3月のルイス・ネリ(メキシコ)、4月の比嘉大吾(白井・具志堅)の2件。いずれもテレビ中継の事情もあり、試合が強行されている。世界戦以外は日本ボクシングコミッションの方針で、試合は原則中止となる。

 また、1、6月の日本バンタム級タイトルマッチは選手が計量会場に姿を見せなかったため、中止になった。詳細は明らかになっていないが、減量の失敗が原因とされている。

★プロアスリートのための減量法 水分量などデータ緻密にチェック

 「永末式水抜き」はプロアスリートのために考案された減量法。永末氏は「一般の人がダイエットのためにやっても、まったく効果はありません」と強調する。

 小原は減量を開始すると毎日、永末氏に体重、体脂肪率、摂取した水分量などのデータをメールで送る。永末氏が数値をチェックし、体脂肪率などから体内の水分量を判断。不十分の場合には、水分量を増減するように指示を出す。緻密な作業が計量前日まで続く。

 アスリートではない人が体重を落とすために、すべきことは何か。○○抜きダイエットなどがあるが、「やはりウオーキングです。やや速いペースで毎日のように歩けば、体脂肪が燃焼しやすくなる。ランニングなどと比較しても、けがをする可能性が低いのでお勧めします」と永末氏。ダイエットには地道な努力が必要だ。

永末 貴之(ながすえ・たかゆき)

 1981(昭和56)年12月18日生まれ、36歳。東京・板橋区出身。専門学校でトレーニング方法などを学ぶ。パーソナルトレーナー。総合格闘技「PRIDE」のバンデージチェックなどを務める。拳や手首に巻いて保護するバンデージの専門家でもあり、WBA世界バンタム級王者の井上尚弥ら多くのボクサーを担当する。

小原 佳太(おばら・けいた)

 1986(昭和61)年11月12日生まれ、31歳。岩手・北上市出身。黒沢尻工でボクシングを始め、インターハイ3位。東洋大でアマ2冠。2010年8月にプロデビューし、13年4月に日本Sライト級王座、14年4月に東洋太平洋同級王座を獲得。8月にWBOアジア・パシフィック・ウエルター級王者返り咲いた。1メートル79。右ボクサーファイター。

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