2019.7.30 14:06

【サッカーコラム】夢のバルサ戦でカウントダウンにかき消された「神戸讃歌」

【サッカーコラム】

夢のバルサ戦でカウントダウンにかき消された「神戸讃歌」

特集:
No Ball, No Life
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 【No Ball、No Life】「俺たちのこの街に お前が生まれたあの日…」確かに聞こえた「神戸讃歌」は、選手入場を告げる大音量のカウントダウンに、次第にかき消されていった。

 7月27日、ノエビアスタジアム神戸でヴィッセル神戸とバルセロナの対戦が実現した。昨夏加入したアンドレス・イニエスタ(35)が、12歳から過ごした古巣と初めて対戦する夢の一戦。欧州はオフシーズンで、試合自体が特別なクオリティだったかどうかは疑問の余地もある。それでも選手たちの巧みなプレーは随所に見られたし、イニエスタと元チームメートとの共演はそれだけで大きな注目を集めた。

 「特別」だったのは相手だけではない。チケットは全席指定で最低価格が10000円。そして応援幕の掲出、大旗振りや鳴り物などは一切禁止された。「通常の試合とは異なり、全席指定席またご着席でのご観戦となるため、応援グループによる応援体制はございません」。それでもこの日のスタジアムには、今季の平均観客数をはるかに上回る2万7720人が足を運んだ。興行的にも大成功だったはずだ。

 冒頭の光景はそんな条件下で発生した。「神戸讃歌」は、1995年の阪神・淡路大震災を機に誕生したサポーターソング。選手紹介VTR後から選手入場時にかけて起こる大合唱には、スタジアム側の演出が極力重ならないようになっていた。この日も応援グループこそ不在だったが、何百人かがゴール裏から(もしかしたらそれ以外のエリアからも)声をあげていた。しかしスタジアムからは、いつもと異なるカウントダウン。普段通りの応援は、特別な演出で埋もれてしまった。クラブは「応援グループ」以外が占めるゴール裏から起こる「神戸讃歌」を想定していなかったのかもしれない。

 一蓮托生に見えるクラブと(特にゴール裏の)サポーターだが、その関係は流動的だ。この試合のように、その気になればいつでも今の関係を放棄し、追いやることもできる。それは現実的ではないにしても、既存の応援に変更を迫ることは容易だ。現状の応援スタイルは、両者の歩み寄りと相互理解でかろうじて成立しているに過ぎない。

 その意味で、特別に扱われたバルセロナ戦を通して、逆説的に「普通の試合」の応援が、いかに熱量を伴った特別なものか再認識する機会となった。スタンド中からわき起こる歓声は新鮮だった一方で、普段は応援にかき消される容赦ない罵声もこの日ははっきり耳にした。クラブとサポーター、どんな関係が正解かなどと簡単にオチをつけられる話でないことは明らかで、時間とともに変化し続けるもの。ならば自分は今週末のG大阪戦で、「神戸讃歌」の大合唱がノエスタに響き渡るその瞬間を楽しみにしたい。(邨田直人)