2019.7.12 14:03

“ハイライトに登場しない”横浜・喜田がトリコロールの進化を象徴する

“ハイライトに登場しない”横浜・喜田がトリコロールの進化を象徴する

“ハイライトに登場しない”横浜・喜田がトリコロールの進化を象徴する

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 横浜F・マリノスは6日、昇格組ながら上位争いを続ける大分トリニータをニッパツ三ツ沢球技場に迎えた。リーグ前半戦で大分に0-2で敗れている横浜FMだったが、うまく主導権を握りながら押し込み、大分の武器であるロングカウンターからもビッグチャンスを与えないまま後半29分にエジガル・ジュニオが挙げたゴールで1-0の勝利を収めた。

 攻撃的なイメージの強いF・マリノスだが、これでリーグ戦5試合目の無失点勝利となった。良い攻撃をすることにより良い守備も付いてくるという”アタッキングフットボール”の理念を貫き続けるアンジェ・ポステコグルー監督のもとにあって、選手間のバランスワークや状況判断はチームの生命線となる。そのオーガナイズを中盤で担うのがキャプテンの喜田拓也だ。

 ■ハイライトに登場しない喜田のプレー

 喜田は試合のハイライトに登場することはほとんどない選手だ。この大分戦でもティーラトンのボール奪取を起点に、エジガル・ジュニオのゴールシーンに至る1つ前の組み立てで起点にはなったが、直接的に得点に絡んだわけではない。しかし、喜田の存在が無ければこの得点も生まれなかった可能性が高い。

 このシーンではティーラトンのボール奪取、三好康児のサイドチェンジ、仲川輝人、広瀬陸斗、そしてエジガル・ジュニオと周囲の選手たちが積極的にアタッキングサードに絡んでゴールを狙うことで、厚みのあるフィニッシュから得点に繋がったが、喜田のバランスワーク無しにそうした攻撃は成り立たないだろう。

 また、前半4分には左サイドでティーラトンからパスを受けた遠藤渓太がカットインからループシュートを放ったシーンがあった。ここでは味方のつなぎと同サイドにプレッシャーをかけてくる大分の守備に応じ、中央から左サイドにスライドすることで、バックパスの選択肢になることと、ボールを奪われた場合のリスク管理の両方に効果的なポジションを取っていた。

 前半26分には大分のディフェンスがワイドになった状況で、シンプルな縦パスをマルコス・ジュニオールに通し、遠藤の惜しいシュートシーンにつなげた。そうした攻撃を影で支えながら、小塚和季や前田凌佑が高い位置で起点になるプレーを封じるなど、ディフェンスラインと良い距離を維持しながら相手の狙い所を消し続けた。

 90分のボール支配率は横浜FMが56%、大分が44%と大きな差は無かったが、これは横浜FMがリードしてから大分の攻める時間が長くなったことが要因だろう。前半に限れば横浜FMが62%のボール支配率を記録した。そうした状況はチームとして良い距離感で連動してパスをつなぎ、ボールを失えば素早い切り替えで守備できていたことを表す。

 もちろん後半のリード後もただ守っていたわけではなく、マイボールになれば効率よくボールを運んでチャンスに繋げるなど、喜田を中心にゲームコントロールしていた。興味深いことに前半と後半でこれだけボール支配率の差がありながら、シュート数は前半が8本、後半は9本を記録している。一方で大分には前半と後半で1本ずつしかシュートチャンスを与えなかった。喜田は必要ならば自陣のゴール前で体を張ることも厭わない選手だが、大分戦では中盤で相手の起点を封じる役割にほぼ徹することができていた。

 ■横浜FMの進化に欠かせない存在

 ポゼッションにおける喜田のプレーを見ていると、ボールを持っていない時に身振り手振りをまじえて周囲の選手にコーチングしていることが分かる。また攻撃時も単にバランスを取りながらシンプルにパスを繋げるのではなく、わざと相手のマークを引きつけて味方のパスコースを作り、そこからすぐ動き直して今度は自分がスペースでもらうなど、「味方のスペースを作る」「味方にスペースを使わせる」「味方が作ったスペースを使う」という地道な作業をこなしながら、かつバランスを取っているのだ。

 また、確かにチャンスに直結するような場所に顔を出すことは少ないが、喜田なりにチャンスの起点として機能するための工夫も見られる。自陣ではシンプルにワンタッチ、ツータッチで繋げることを心がけるが、例えば相手陣内でボールを持った時に、プレスに来たディフェンスの背後にタイミングよく通す縦パスは三好やマルコス・ジュニオールが高い位置で前を向いて仕掛ける起点になっている。

 1年目の昨シーズンが”アタッキングフットボール”の「ベース」を作り上げる段階とするならば、今シーズンはそのベースを身に付けた選手たちが自分たちで考えながら状況に応じて効果的なプレーを繰り出す「応用」の段階だ。時に厳しい批判に晒されながらも辛抱強く築き上げてきたポステコグルー監督の理念は少しずつ、しかし着実に積み上がってきている。その進化に欠かすことのできない選手の一人が喜田拓也だ。

 ”キー坊”の愛称で親しまれるこのミッドフィルダーは試合のハイライトにほとんど登場しない。しかし、90分を観れば、文字通り彼こそが横浜FMのキーマンであることが分かる。喜田が自分の役割において良いパフォーマンスを見せているのは大分戦に限った話ではないが、この1-0の勝利が喜田の攻守にわたる効果的なプレーを象徴する試合となったのは間違いなく、そうした彼の働きが注目されるきっかけになれば素晴らしいことだ。 文=河治良幸(Goal.com)