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【サンスポ×日体大】阿部詩の夢歌 武道館で君が代を

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日体大の東京・世田谷キャンパスにある柔道場で、東京五輪への決意を記した阿部。強い気持ちで金メダルを目指す(撮影・戸加里真司)  2020年東京五輪開幕まで、24日であと1年。出身大学別で最多62人の夏季五輪メダリストを輩出している日体大とコラボレーションした長期連載の第17回は、柔道女子52キロ級世界女王の阿部詩(うた、19)=スポーツ文化学部武道教育学科1年=を特集する。東京五輪のヒロイン候補が、金メダルへの思いをつづった手記「開幕1年前の決意」をサンケイスポーツに寄せた。東京五輪と同じ日本武道館で開催される前哨戦、世界選手権(8月25日-9月1日)での2連覇を誓った。 (取材構成・石井文敏)

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 初夏のある日、学生大会を観戦するため、東京・千代田区の日本武道館に足を運んだ。兵庫・夙川学院高時代に全国高校選手権で畳に立ったことはあるが、来夏に迫った東京五輪を強く意識するようになってから訪れた柔道家の聖地は、特別な場所だった。

 360度観客に囲まれた八角形の構造が特徴の日本武道館。君が代が流れる中で日の丸が掲げられる。その様子を見ていると、鳥肌が立った。優勝して国歌が場内に流れるのはすごい。日本武道館で柔道ができるのは、日本人にとって誇りだと思った。自分が金メダルを取って君が代を流す姿を想像した。世界の一番になりたいと思ったら、甘い生活は許されない。そう強く決意した瞬間だった。

 東京五輪開幕までちょうど1年になり、自分と世界の強豪選手との立ち位置を考えるようになった。自分が一番上に立つため、絶対に勝たないといけない相手が、2016年リオデジャネイロ五輪金メダルのマイリンダ・ケルメンディ選手(28)=コソボ=だ。

 3年前の自分にとって、雲の上の存在だった。ちょうどその頃、全国高校総体の1回戦で敗退。自分を見失いかけ、どん底に突き落とされていた。4年後の東京五輪の出場すら思い描けず、夢に近い状況。優勝して歓喜するケルメンディ選手を見て「この人が優勝したんや」と思った程度だった。

 最大のライバルと試合で対戦したことはないが、過去2回のスペイン国際合宿で怪力ぶりを体感した。東京五輪で金メダルを争う選手だと思うし、来月の世界選手権で対戦する可能性もあるので、すでに対策を練っている。詳細は明かせないが、右組みの私は、左組みで力の強い男子高校生をケルメンディ選手に見立て、乱取りや組み手の技術を磨いている。

 私は相手の両袖をつかんで投げる袖釣り込み腰が得意技。男子66キロ級で世界選手権2連覇中の兄、一二三(ひふみ、21)=体育学部武道学科4年=と同じ豪快に相手を投げ倒すスタイルだ。技をかけるタイミングが重要で、パターンはいくつかある。ケルメンディ選手との試合で、動きの中で出せれば絶対に技は決まる。あとは「前に出る」「絶対に攻め抜く」という強い気持ちが大事になる。

 4月に18年間過ごした故郷の神戸から上京し、日体大に入学した。自分のやるべきことを導いてくれる先生がいた高校時代とは違い、大学生は自分で計画を立てて遂行していくことが求められる。取り組んでいることが正しいのかと不安になることもあるが、実業団や他校の選手と手合わせし、視野を広く持つことを意識している。

 女子52キロ級は日本女子で唯一、五輪の金メダルがない階級と聞いた。金メダル第1号に絶対になりたい。東京五輪女子52キロ級は7月26日。兄が出場を目指す男子66キロ級と同じ日に実施される。日本武道館の畳で、兄妹揃って金メダルを取って、君が代を流せたら最高。いまは午前6時半の朝練から午後11時前の就寝までの柔道漬けの生活だが、おしゃれな洋服を着て東京観光することを金メダルのご褒美にしたい。 (日体大柔道部)

★柔道・東京五輪への道

 日本は開催国枠で男女各7階級に1人ずつ出場する。第1段階は8月25日開幕の世界選手権優勝者が11月のグランドスラム(GS)大阪大会を制し、強化委員会で出席者の3分の2以上の賛成を得れば、代表入りが決定する。次は来年2月のGSデュッセルドルフ大会(ドイツ)終了時点で1、2番手の差が圧倒的に開いていると強化委の3分の2以上が判断すれば決まり、4月の全日本選抜体重別選手権が最終選考会となる。

★兄も金メダル候補

 阿部詩の兄、一二三も東京五輪の金メダル最有力候補だ。男子66キロ級の世界王者は、4月の全日本選抜体重別選手権で左脇腹を痛め、6月上旬には稽古中に左足首付近の靱帯を損傷した。すでに柔道着を着ての練習を再開している。「(世界選手権は)一本を取りにいく柔道で3連覇を目指す。兄妹で優勝できるように頑張る」と決意した。

★GPで5位 女王に隙あり!?

 2016年リオ五輪後、休養していたケルメンディは、今月12日のGPブダペスト大会に出場し、5位に終わった。準決勝で前田千島(三井住友海上)に合わせ技一本で敗れ、3位決定戦ではスペイン選手の寝技に屈した。

 日本代表の増地克之女子監督(48)は怪力の五輪女王を「弱点ではないが、彼女本来の力を出し切れないかな」と分析。双方の得意な組み手が逆になるケンカ四つに隙があると指摘した。

 右組みの阿部と左組みのケルメンディはケンカ四つになる。阿部が勝つために、組み合う中でうまく相手のパワーを逃しながらの闘いが求められる。

 同監督は「(ケルメンディは)寝技でも隙がある。隙をついて、そつなく闘っていくことが大事になる。阿部は十分闘える」と自信を示した。

★充実!女子大生

 入学から約4カ月、阿部は柔道に打ち込むと同時に、学業面でも充実のキャンパスライフを送る。今月8日には日体大の歴史(日体伝統実習含む)で、日体大の伝統である規律ある行進パフォーマンス、集団行動を学んだ。阿部は「みんなといっぱい声を出して、いっぱい歩いて楽しかった」。数十人の隊列が、ぶつからずに交差する行進を体験し、笑顔だった。

★阿部 詩(あべ・うた)

 ◆生まれ 2000(平成12)年7月14日生まれ、19歳。神戸市出身。

 ◆競技歴 5歳の時、地元「兵庫少年こだま会」で柔道を始める。兵庫・夙川学院中で15年に全国中学校体育大会優勝。16年夙川学院高に進学。17年全国高校総体で優勝し、全国高校選手権も制して2冠達成。同年世界ジュニア優勝。

 ◆シニア大会 17年2月のGPデュッセルドルフ大会で主要国際大会の最年少優勝(16歳225日)を記録。昨年の世界選手権は18歳2カ月で初出場V。日本女子では1993年大会の48キロ級を18歳0カ月で制した谷亮子(旧姓田村)に次ぐ若さでの頂点だった。

 ◆得意技 内股、袖釣り込み腰。右組み。

 ◆座右の銘 NO PAIN NO GAIN。「努力なくして成功なし」。理由は「苦しいときは苦しい方に進んだら成長できる」から。

 ◆家族 父・浩二さん、母・愛さん、長兄・勇一朗さん、次兄・一二三。

 ◆サイズ 158センチ。

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