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【科学特捜隊】アジア大会6冠MVP・池江璃花子、急成長の理由

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パンパシの女子100メートルバタフライで日本新記録を出した池江はガッツポーズ。進化を証明した高校生最後の夏だった  科学的なアプローチでスポーツに斬り込むサンケイスポーツ東京発刊55周年企画「科学特捜隊」の第18回は、さきのジャカルタ・アジア大会でアジア女子と日本選手の1大会最多記録の6冠を果たし、MVPに輝いた競泳女子の池江璃花子(18)=ルネサンス=を特集する。日本水泳連盟科学委員で、日大文理学部の野口智博教授(52)が得意種目の100メートルバタフライを分析。2020年東京五輪で金メダルが期待される18歳の急成長の理由とは-。 (取材構成・角かずみ)

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 泳ぐたびに自身の日本記録を更新する。池江は今夏に東京・辰巳で開催されたパンパシフィック選手権の100メートルバタフライで、今季世界最速の56秒08をマークして金メダルを獲得した。18歳は世界の頂点を狙えるスイマーに急成長した。

 日本水泳連盟科学委員で日大文理学部の野口教授は池江の進化を分析する中で、前半50メートルに着目する。ここ2年で前半のストローク(水をかく)数に変化がないにもかかわらず、タイムが1秒09伸びている。その要因をピッチ(1ストロークにかかる時間)が速くなっているからと分析した。

 「通常ならピッチが上がれば、泳ぎが小さくなってストローク数も増える。池江は筋力がついたことで、大きく泳ぐ本来の良さを失わずに、ピッチだけを上げることに成功した」

 2016年の日本選手権。池江は前半50メートルを19かき、26秒98で折り返し、後半は23かきで57秒71をマーク。一方、自身のベストタイムをたたき出した今夏のパンパシは前半を19かき、25秒89で折り返すと、後半は24かきで56秒08。前半50メートルだけを見れば、ストローク数はともに19で変化がないが、タイムは1秒09も伸びている。

 これを可能にしたのが、速くなったピッチだ。2年前の日本選手権は、3かきするのに3秒53かかっているのに対し、パンパシでは3かきにかかった時間は3秒29。1かきにつき0秒08速くかけるようになった積み重ねが、前半だけで1秒09も速くなった泳ぎにつながった。

 しかし、ただ速く水をかけるようになればいいわけではない。いくらピッチが上がっても、腕で水をとらえる距離が短くなってしまう(泳ぎが小さくなる)と、タイムは伸びずにストローク数だけが増えることになる。ピッチを上げても泳ぎを小さくさせないためには腕全体で水を引く際の「力」が強くなることが条件となる。それには腕を動かす際に「支点」となる胸や広背筋の筋力アップが実現しなければ、ストローク数を変えることなくピッチだけを上げてタイムを伸ばすことにはつながらない。したがって、筋力アップが池江の成長を支えているのは明確だ。

 この種目の世界記録は、16年リオデジャネイロ五輪でサラ・ショーストレム(25)=スウェーデン=がマークした55秒48。世界新まで0秒60に迫る池江だが、野口教授は「さらなる筋力アップができれば世界新もある」。もう一段階の筋力アップが必要だが、池江の世界新は可能といえる。

★懸垂で2センチ腕伸びた

 池江自身も、速さの秘密に筋力トレーニングの成果による体の変化を挙げる。

 高校入学後から徐々に筋力トレーニングを導入。今年5月からは英国に2年間コーチ留学した経験を持つシドニー、アテネ両五輪に出場した三木二郎コーチ(35)の指導を仰ぐ。「パワーが圧倒的に足りない」と分析した三木コーチは、懸垂を取り入れ、筋力トレーニングにもこれまで以上に時間を割き、メニューを見直した。

 リーチが2センチ伸びた理由に懸垂を挙げた池江。「懸垂もそうだし、ウエートをすることでスタートからの全体的なスピードがついた。後半も落ちなくなった」と筋力アップがタイムの更新につながっていることを実感する。

★腕の長さにも注目

 腕の長さにも注目池江の進化をさらに後押しするのが腕の長さ。2年前より懸垂などのトレーニングで腕の長さが2センチ長くなり1メートル86に。池江の身長1メートル72に対するリーチの比率108%は五輪で23個の金メダルを獲得した水の怪物、マイケル・フェルプス(米国)の105%を上回った。

 野口教授は「手で水をかくことを力学的にみると、肩関節から末端(手)までの距離が長くなった分、支点となる胸や背中、中継点となる腕の筋への負担は大きくなる。長くなった腕を扱うには筋力が必要。それを使いこなすだけの筋力アップが実現した」と説明した。

★今後の池江

 東京代表として出場した福井国体を終え、今季の全試合が終了。調整中ではあるが、10月中旬にも東京五輪で最大のライバルとなるショーストレムと1週間から10日間ほど合同練習を行うため、トルコに出発予定。11月9-11日に東京辰巳国際水泳場で行われるW杯東京大会にも出場予定。

池江 璃花子(いけえ・りかこ)

 2000(平成12)年7月4日生まれ、18歳。東京・江戸川区出身。3歳で水泳を始める。中学新記録を連発し、15年世界選手権に中学生として14年ぶりに出場。16年リオデジャネイロ五輪はリレーを含む7種目に出場し、100メートルバタフライで5位。17年日本選手権では女子で史上初の5冠。18年アジア大会で6冠とし、日本女子初のMVP獲得。個人の長水路では5種目で日本記録を持つ。東京・淑徳巣鴨高3年、ルネサンス。1メートル72、56キロ。

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