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【科学特捜隊】蹴り足の前傾が生む0・4秒先着

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阿江教授は、蹴り足のすねが前傾し、引きつけも速いサニブラウンのフォームを理想に近いと指摘した   科学的なアプローチでスポーツに斬り込むサンケイスポーツ東京発刊55周年企画「科学特捜隊」の第3回は、いよいよシーズンが始まる陸上男子100メートルの記録短縮の可能性に迫る。昨季は桐生祥秀(22)=日本生命=が日本選手で初めて10秒の壁を破る9秒98の日本新をマーク。世界との差を縮める短距離勢が2020年東京五輪で決勝に進出する鍵はどこにあるのか。日本陸連の科学委員会元委員長でバイオメカニクスを研究する日体大の阿江通良教授(67)に聞いた。(取材構成・鈴木智紘)

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 10秒の壁をついに桐生が突破し、昨季は日本短距離界が新時代を迎えた。日本記録の更新は19年ぶりで、いまや東京五輪でのファイナリスト誕生も夢ではない。研究の第一人者、阿江教授の見通しは明るい。

 「日本勢が決勝に残る可能性は十分にある」

 走る速さは1秒あたりの歩数を意味するピッチと、1歩で進む距離を指すストライドの積算で決まる。100メートルでは最高速度が秒速11メートル70に達すると9秒台に突入するとされる。日本陸連の科学委員会の研究に基づくと、昨年の日本学生対校選手権(福井)で桐生が9秒98を記録した際のピッチは4・75でストライドは2メートル11。最高速度は秒速11メートル67だった。

 レースの条件は異なるものの、9秒98は昨年の世界選手権(ロンドン)で4位相当。数値は高水準といえるが、世界記録保持者のウサイン・ボルト氏(ジャマイカ)や元世界王者のカール・ルイス氏(米国)の最高速度は秒速12メートルに迫った。

 日本勢が躍進する鍵はどこか。阿江教授は、蹴り足のすねを前傾させるフォームが理想と説明する。こうした形で走った日本歴代5位の末続慎吾(37)=SEISA=は「低い走り」と表現したという。阿江教授はルイス氏ら世界の9秒台ランナー14人と筑波大陸上部員ら学生21人のフォームを研究対象とし、蹴り足の下腿の傾きに着目した。

 トップ選手は蹴り足のすねが前傾し、地面を蹴る反発力を推進力に変える。一方で学生選手は膝が伸びて上体が浮き、効率良く進まない。体格差はあるが、トップ選手は1歩で腰の位置を学生選手より8センチ前進させ、仮に100メートルを45歩で走ったとすると0・08×45=3メートル60。タイムにして0・4秒弱、学生選手をリードする見方もできる。

 ピッチとストライドには相関関係があり、すねを前傾させるフォームは特にストライドを伸ばす効果がある。実現には膝関節を屈曲させる大腿直筋などの強化が必要だが、日本選手でも可能で、こうした形で走る小中学生もいる。阿江教授によると日本では従来「膝を伸ばすように地面を蹴ろう」と指導され、蹴る動作が重視されてきたが、重要なのは蹴り足の前への引きつけだ。

 現役の日本選手でルイス氏のように走るのは日本王者のサニブラウン・ハキーム(19)=米フロリダ大=ただ一人。「サニブラウンが海外で指導を受けている映像を見たら、コーチは『フォア、フォア(足を前へ前へ)』と言っていた」と阿江教授。蹴り足のすねは前傾し、引きつけも速く理想形という。

 五輪のファイナリストは8人。「まず9秒台を3、4人作ること」と阿江教授。同じ時代に結集する類いまれな才能が切磋琢磨(せっさたくま)した先に、道は開ける。

★五輪ファイナリスト 日本選手ただ一人

 男子100メートルでは、1932年ロサンゼルス五輪で6位入賞(10秒8)を果たした吉岡隆徳が日本選手でただ一人の五輪ファイナリストとして歴史に名を残す。23歳で出場し、1メートル65と小柄な吉岡の代名詞だった低い姿勢からのスタートダッシュで世界を驚かせた。金メダルをとったエディー・トーラン(米国)の愛称だったミッドナイト・エクスプレスにちなみ「暁の超特急」と呼ばれた。

★1秒間で最大5歩 高速ピッチの桐生

 1メートル76とランナーとして決して大柄ではない桐生の武器は、1秒間で最大5歩にも達する世界有数の高速ピッチだ。足の回転数は男子100メートルで世界歴代2位の9秒69の記録を持つタイソン・ゲイ(米国)と同じレベルにある。一方で1メートル88のサニブラウンはストライドが大きい。日本新を出した際の桐生の1歩は2メートル11。レースの条件は異なるが、サニブラウンが優勝を飾った昨年の日本選手権では1歩で2メートル23進んでいた。

★有力選手の現状

 サニブラウンが27日に米アーカンソー州で行われる競技会で今季3度目のレースに出場予定。山県亮太(25)=セイコーホールディングス=とケンブリッジ飛鳥(24)=ナイキ=は、28、29日の織田記念国際(広島)で国内初戦を迎える。桐生は5月3日の静岡国際200メートルを初戦とする見込みで、同12日のダイヤモンドリーグ上海大会が日本選手初の9秒台を出して以来、初の100メートルのレースとなる。

阿江 通良(あえ・みちよし)

 1951(昭和26)年3月1日生まれ、67歳。兵庫県出身。東京教育大(現筑波大)を卒業し、筑波大大学院博士課程修了。筑波大教授を経て2016年から日体大教授。研究分野はスポーツ科学など。

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