【ベテラン記者コラム(20)】野茂投手のメジャーデビュー戦 ドラマの先の“ドラマ” - SANSPO.COM(サンスポ)

【ベテラン記者コラム(20)】野茂投手のメジャーデビュー戦 ドラマの先の“ドラマ”

更新

ドジャース時代の野茂英雄投手(1998年撮影)  新型コロナウイルス拡大の影響で、今季開幕を見合わせていた米大リーグ機構(MLB)が、開幕(日本時間24日)する。そういえば、25年前の1995年シーズンも選手会のストライキで開幕が遅れていた。

<< 下に続く >>

 同年4月、米ネバダ州ラスベガスで行われたプロボクシングの世界ヘビー級タイトルマッチの取材を終え、すぐにMLBのキャンプ取材にシフトした。当時、海外出張は複数の取材対象を抱き合わせて送り出されることが珍しくなかった。

 迎えた5月2日。米カリフォルニア州サンフランシスコ「キャンドルスティック・パーク」のバックネット裏に用意された記者席にいた。雲のない澄み切った青空。サンフランシスコ湾からの強い海風が吹きつける午後1時少し前。マウンドにはロサンゼルス・ドジャースに入団した背番号「16」をつけた日本人投手がいた。30年ぶり2人目の日本人メジャーリーガーとなった野茂英雄投手のデビュー戦。サンフランシスコ・ジャイアンツ相手に記念すべき第1球が投じられた。

 野茂投手は5回、打者19人に91球。1安打、4四球、7奪三振、無失点の好投。勝ち星はつかなかったが、鮮烈なデビューを飾った。野茂投手が降板したあと、間もなくしてNHKの生中継も終了したが、その後も“ドラマ”は進行する。試合は延長十四回まで0行進。十五回表に味方が3点を挙げたが、その裏に一挙に4点を奪われ逆転サヨナラ負け。ド軍は4連敗となった。

 野茂投手の会見が設定されたのはマウンドを降りてから4時間以上はたっていたと思う。試合後、トミー・ラソーダ監督(当時)は視線鋭く眉間にしわを寄せていた。だが、「マイ・サン(息子)」と呼んだ野茂投手の話になると、一転して心底うれしそうな表情になった。「初登板で5回を1安打だぞ。これ以上何を望めばいいんだ」。二転三転した長い試合が、人柄をあぶり出す。敗れた悔しさを自制し、息子を包み込む父のような柔和な笑み。紳士だった。野茂投手は、ボスに恵まれたと直感した。

 翌日の米紙「ニューヨーク・タイムズ」は野茂投手の登板を一面で伝え、トルネード(竜巻)といわれた投球フォームを「美しいバレエのようだ」と表現した。帰国後、プロ野球解説者にこの話をすると、口を合わせて「どうみたらバレエにみえるんだ?」。日米の微妙な美的感覚の違いは、いまもって謎のままだ。(奥村展也)

PR

×