【よみがえるノムラの金言】野村克也氏「信は万物の基を成す」 - SANSPO.COM(サンスポ)

【よみがえるノムラの金言】野村克也氏「信は万物の基を成す」

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七回途中で交代指令を受け、ベンチに下がる沢村(左)。野村さんはこの采配に疑問を呈していた  2月11日に急逝した野村克也さん(享年84)が、サンケイスポーツ専属評論家として本紙に残した金言を振り返る、ヘリテージ(遺産)連載。第2回は「時には見せかけの信頼も」。これぞノムラ流、人を動かす極意。世間で「上司」と呼ばれる方々に、参考にしていただければ-。(構成・内井義隆)

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 ノムさんがよく用いた言葉で、有名なものがある。

 「信は万物の基を成す」

 信頼、信用、自信など、「信」がなければ人間は動けないし、何事も始まらない、という意味だ。

 その使いどころを説いたのが、2012年3月31日、巨人-ヤクルト(東京ドーム)の評論、『ノムラの考え』。3-6と逆転負けを喫した巨人・原辰徳監督の継投策を、テーマにした。

 先発は沢村拓一投手。プロ1年目の前年(11年)に11勝11敗、5完投をマークして、新人王。2年目で託されたのが、開幕2戦目となる、このマウンド。場面は3-2とリードして迎えた七回1死一、二塁。ここで沢村を降板させたことに、疑問を呈したのだ。

 「監督業で最も難しいのは継投。私は判断基準を、次のように置く」

 まず、数ある交代基準のうち、負傷などのアクシデントを除く、主要3条件を挙げ、検証した。

 【相性】次打者の8番・相川亮二捕手とは、前年が8打数1安打で、この日も投ゴロ、二ゴロ。相性は悪くない。

 【疲労度】投球数は101。2年目の23歳。限界が訪れていたようには、見えない。

 【信頼度】1シーズン、ローテーションの柱を任せようという主戦投手の信頼度が、セットアッパーより低いなどとは到底、思えない。

 3条件とも打ち消したあと、「あるいは」と付け加えた可能性は、直前の打者、7番・バレンティン外野手を四球で歩かせ、ピンチを広げていたこと。だが、これも「四球の質を見誤ってはいけない」とピシャリ。

 阿部慎之助捕手が中腰で構え、あちこちにミットを動かしていたため、振ってくれればもうけもの、乗ってこなければ歩かせるという、半ば“敬遠策”だったと指摘。その上で、結論付けた。

 「私なら少なくとも、同点になるまで任せた-と伝える。いや、沢村は1シーズンを託そうという存在。本来なら、同点まで、ではなく、この試合はお前と心中する、と背中を押す。開幕2戦目にして、ベンチが最も避けねばならないのは、沢村に、自分の信頼度はこうも低いのか…と思われることである」

 そして、金言。

 「人間関係を円滑にするのは、言葉しかない。私は監督時代に“見せかけの信頼”すら駆使した。時には心にもないことを口にして、内心は神頼み。期待に応えてくれれば御の字。結果が凶と出ても、監督に借りができた、次は恩返しをしようと奮起してくれる」

 やれパワハラだ、などと何かと突き上げられ、上司が部下に言葉をかけにくくなった現代。見え透いていようとも、ノムさん流のやり方は、アリだと思う。

ノムラの考え

 本紙専属評論家の野村克也さんが、野球理論から人生観までを歯に衣着せぬ直言で説く連載企画。本紙初評論は1967年10月19日掲載の大阪版。「ノムさん観戦記」と題し、同年の日本シリーズ(巨人-阪急)を現役捕手の視点から評論。現役引退後も的確な解説を行い、原稿で取り上げられた選手のロッカーに、記事の切り抜きが張り出されたこともあった。野球ノート「野村の考へ(え)」は、息子の克則氏(現楽天作戦コーチ)のために書き上げた教科書だった。2019年10月24日掲載の日本シリーズ第4戦の評論を最後に幕を閉じた。

野村 克也(のむら・かつや)

 1935(昭和10)年6月29日生まれ。京都府出身。峰山高から54年にテスト生で南海(現ソフトバンク)入団。65年に戦後初の三冠王。70年に兼任監督となり、80年に45歳で引退。通算3017試合で打率.277、2901安打、657本塁打、1988打点。MVP5度、本塁打王9度、打点王7度、首位打者1度、ベストナイン19度。ヤクルト、阪神、楽天で監督を務め、監督通算1565勝1563敗76分け。ヤクルトで日本一3度。89年に野球殿堂入り。右投げ右打ち。今年2月11日、虚血性心不全で死去(享年84)。

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