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【科学特捜隊】進化する変化球「スラッター」の威力を知る

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西武・菊池雄星  科学的なアプローチでスポーツに斬り込むサンケイスポーツ東京発刊55周年企画「科学特捜隊」の第2回はプロ野球の投手トレンド編。昨季パ・リーグで最多勝(16勝)、最優秀防御率(1.97)の2冠に輝いた西武・菊池雄星投手(26)、昨季12勝を挙げてブレークした広島・岡田明丈投手(24)の“最新魔球”に着目した。スライダーとカットボールの中間球「スラッター」が驚異的な効果をもたらしていることが判明した。 (取材構成・伊藤昇)

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 直球のような軌道から、カットボールのように鋭く、スライダーのように曲がる。虚をつかれた打者は空振りやゴロが増え、見送ってもストライクゾーンに入る-。そんな、いいとこ取りの変化球が、ある。米大リーグでトレンドとなり、日本でも打者の脅威になりつつある「スラッター」と呼ばれるボールだ。

 既に結果が出ている。昨季、最多勝と最優秀防御率をダブル受賞した西武・菊池は奪三振数が急増した。

 1球1打を詳細に分析する「データスタジアム社」によると、菊池のスライダーの平均球速は2016年の133・3キロから17年は137・2キロに上がり、奪三振数は127→217の1・7倍(奪三振率では7・99→10・41)となった。同社の佐々木アナリストは「分類上はスライダーとしているが、スラッターとみていい」と解説する。

 象徴的だったのが7回4安打2失点で1勝目を挙げた今季開幕戦(3月30日、対日本ハム)。8三振中、直球で奪ったものは1つで、残りは全て「スラッター」だった。今季の球種別の奪三振割合で同球種は実に77・3%。直球の18・2%を大きく上回る。直球43・3%、スライダー41%だった昨季と比べても比重が増している。

 菊池自身も「意識して球速を上げた」という。「高校や2軍では大きく曲げれば打者は崩れていたが、1軍選手は(従来のスライダーでは)手を出してくれない。曲がりが大きくなくても、ベースのギリギリまで真っすぐに見せたい」と新球の狙いを説明した。

 一方、ゴロを増やした投手もいる。昨季12勝でセ連覇に貢献した右腕の広島・岡田だ。スライダーの平均球速は16年の128・9キロから17年は137・4キロと8・5キロも急上昇。12球団全投手の中で最高の上昇幅で、同球種のゴロ率が32・6%→62・7%と激増した。全打球のゴロ率も48・6%→56・6%と変化し、直球でフライアウトに打ち取る投球スタイルが一変。意識は菊池と酷似しており「直球が来たと思わせて、三振や内野ゴロにしたい」と語った。

 決め球にしたり、ゴロを打たせたりと使い勝手がいいのも魅力の一つだ。両投手は自身のボールをスラッターとは定義していないが、イメージはスラッターそのもの。スライダーの球速上昇に比例してゴロの割合が増えるデータもあり、楽天・則本やDeNA・浜口のように、はっきり「スラッター」と呼んで勝負球としている選手も出てきている。

 投手が進化すれば打者も対応し、さらに投手は進化する-。スラッターはハイレベルな勝負の過程で誕生した。球種の定義は投手によって異なるため分類は難しいが、こうした変化球が投手の成績を向上させたことはデータが証明している。決定的な攻略法が見つからない限り、今季も「スラッター」のトレンドが続きそうだ。

スラッターについて野村弘樹氏(サンケイスポーツ専属評論家)「カットボールは変化量が小さいのでバットに当たる確率が高く、詰まっても内野の頭を越えたり、ということはよくある。球種にはそれぞれのよさがあり、スライダーは次の直球を生かすなどの意味もあるが、スラッターなら空振りやゴロになりやすい」

★左打者の日本ハム・近藤の証言「右打者のほうが嫌だと思います」

 西武・菊池に対し、昨季の日本ハムは3戦3敗、チーム打率・165でわずか4得点だった。打率・413(規定打席未満)の好成績を残しながら、菊池には4打数無安打に抑えられた左打者の近藤は、スラッターについて「確かに(スライダーが)速くはなっていますね。個人差で打ちやすい、打ちにくいはあるけれど、(自分の体の方に食い込んでくる)右打者のほうが嫌だと思います」と説明する。

 今年3月30日の開幕戦でも日本ハムは7回4安打と封じられ、城石打撃コーチは「すごい武器。真っすぐがあれだけ速くて、同じ軌道で曲がってくる。(開幕戦も)左は結構、対応できていたんだけど。結局、そのスライダーに…。難しくなってきている」と警戒心を強める。

 広島・岡田については昨季セ・リーグ首位打者のDeNA・宮崎が「真っすぐとスライダーのイメージ。スライダーの回転数は分かりませんが速い。特に外角の球は“まっスラ”しています」と証言。巨人・坂本も「速いスライダーがあるというのは頭にある」。両リーグを代表する好打者がスラッターにどう対処するのか、今後に注目だ。

★常識覆した

 スラッターを投げることで西武・菊池が右打者に強くなっている。2016年の被打率は左右ともに.231だったが、17年は対左が.193、対右は.179に改善。三振も全217個のうち、右打者から7割超の159個を奪った。自身は「去年は右打者の膝元にスライダーを2ストライクからガンガン投げられた」と分析。左投手には右打者が強い、という常識を覆す結果となっている。

★データスタジアム社・佐々木浩哉氏

 DeNA・今永が昨季終盤に投げた高速スライダーに驚きました。レギュラーシーズンでは平均130・3キロと標準的な球速でしたが、クライマックスシリーズ・ファイナルステージの広島戦では136・9キロに。このボールでゴロを増やせれば、投球がより安定するのではないでしょうか。

 球種の細分化が進み、現場でも球種の判別や分類の難しさを感じています。近年ではテクノロジーの進化に伴い、物理的なボールの変化量を測ることが可能となりました。人間の目による判別から、AIが機械的に球種を判別する。そんな未来も遠くないでしょう。

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