2021.5.3 12:00

【ベテラン記者コラム(140)】牛革ラグビーボールを知っていますか

【ベテラン記者コラム(140)】

牛革ラグビーボールを知っていますか

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1987年の雪のラグビー早明戦

1987年の雪のラグビー早明戦【拡大】

 ラグビーボールって、どんなものですか。唐突な質問だが、「ああ、あの白くて細長い、楕円(だえん)形のやつ」と答える方がほとんどだろう。「昔は茶色い革製だったんだよ」と付け足すあなたは、だいぶ年季が入ったファンなのではなかろうか。

 今でこそ白が主体の合成皮革のボールがあたりまえだが、これが登場したのは1980年代の後半。一説には「雪の早明戦」として知られた1987年の早大-明大が日本国内最初といわれている。それまでは牛の革でつくられていた。

 筆者が高校から本格的にラグビーを始めたころは当然、牛革ボール。今のボールと違い、メンテナンスが大変だった。練習後、1年生に課せられるのは「ボール磨き」。汚れを雑巾などでふいて落とし、つばをボールに吐きつけ(ヒャ~、とでもいうような読者の顔が想像できる)、親指でゴシゴシこする。これを「垢(あか)出し」と呼んだ。最初は指の皮がむけておおいに痛かったが、2カ月もすれば慣れてしまった。そして布でこする。最適だったのは女性用のパンティーストッキングで、これでこすると、きれいに艶が出た(ストッキングのメーカーによって、艶の出方が違った)。母親から、よくお古をちょうだいしたものだ。

 最後に、保護用の油脂を塗る。まずはボールの縫い目に沿って。そこからボールの全面に薄く、均一に。油をつけすぎると「やぼったい」とおしかりを受けた。

 雨が降ると、さらに大変だった。水を吸って重くなる上、昔は土のグラウンドがほとんどだったから、土がまとわりついてさらに重量が増す。だから、雨の中の試合は戦い方が変わった。ボールがこぼれることが多くなるので、攻めているときはドリブル、守っているときはセービング(ボールに体を投げ出して保持するプレー)が鉄則。今のようにスクリューパスなど投げる時代ではなかったが、筆者のチームではBKの間隔をかなり狭く、深くして、ミスを少なくしていた。

 ただ、牛革のボールには温かみがあった。ボールの転がり方も、これは筆者の個人的な感覚だが、革製は有機的でキッカーの意思に応えてくれるように感じ、合成皮革は融通が利かない無機的なバウンドをするように思える。現役を遠く離れてから合成皮革のボールを蹴ったからなのかもしれないが。今の選手が牛革のボールでプレーしたら、どんな感想を抱くのだろうか。(田中浩)