近代日本競馬の象徴としてディープインパクトの名前が挙がることに異論を唱える声は少ない。競走馬としての活躍だけではなく、多くの産駒がさまざまな記録を打ち立てたことによって、その名声は不動のものとなった。もっとも、注目を浴びた初年度産駒は皐月賞もダービーも勝てず、春のクラシックは桜花賞(マルセリーナ)のみ。短絡的に〝期待外れ〟のレッテルを貼る向きもあった。それをあざ笑うかのような快挙を成し遂げたのがリアルインパクトだ。
単勝1.3倍という圧倒的な支持に応えてデビュー勝ちを飾ると、京王杯2歳S、朝日杯フューチュリティSではともに2着。確かな資質を示した。東日本大震災の影響で調整の誤算が生じたニュージーランドTでは大敗を喫したが、続くNHKマイルCで3着と好走。ここで陣営は、安田記念への挑戦を決断する。重賞勝ちはおろか、新馬戦の1勝だけでGI参戦は厳しいとみられたのか、9番人気の低評価。しかし、当時大井競馬の所属だった戸崎圭太騎手を鞍上に迎えてスムーズに3番手につけると、直線でもしぶとく伸びて最後は僚馬ストロングリターンをクビ差封じ、大金星を挙げる。1勝馬による古馬GI制覇、そして3歳馬による安田記念勝利は、いずれもグレード制導入後初の快挙。父とは違う鮮烈なインパクトを与えた。
その後、不振に陥って陣営は試行錯誤を重ねたが、5歳秋になってようやくその苦労が実る。デビュー20戦目の阪神Cで初めて逃げの手に出て、クビ差押し切っての復活V。翌年の同レースで連覇を飾ると、7歳春はオーストラリアに矛先を向けてジョージライダーS優勝、ドンカスターマイル2着と立て続けに好結果を残す。そのときにはすでに同じ父を持つジェンティルドンナ、キズナといった年下の一流馬が出ていたが、リアルインパクトは確かな成長力で独自の存在感を示した。
種牡馬入りすると、いきなり初年度産駒のラウダシオンがNHKマイルCで優勝。同馬は2023年春にオーストラリアへの移籍が決まった。その背景には、父が残した足跡も考慮されたに違いない。同じく産駒のモズメイメイも卓越したスピードで活躍中。ディープインパクト系としては異端の短距離向き種牡馬として、これからも活躍馬を送り出すことだろう。(記事初出は2023年5月)
■リアルインパクト 父ディープインパクト、母トキオリアリティー、母の父メドウレイク。2008年5月14日生まれ。北海道安平町・ノーザンファーム生産。現役時の所属は美浦・堀宣行厩舎。通算30戦5勝(うち海外2戦1勝)。