スターホースは、単に強さだけが求められているわけではない。ここぞというタイミングで光るレースぶりや、ファンに愛される華があってこそ支持される。キタサンブラックは、その〝華〟という意味において日本競馬史上に残る名馬だった。
演歌界の大御所であり、長年にわたって競馬を愛してきた北島三郎オーナーの所有馬。しかし、新馬戦からスプリングSまで無傷の3連勝を飾っても、その3戦は3、9、5番人気の評価にすぎず、まだその強さが広く認められていたわけではなかった。
菊花賞でGI制覇を果たし、有馬記念でも3着に好走。前途洋々で迎えた4歳時に武豊騎手との新コンビを結成したあたりから、押しも押されもしない地位を築いていく。この年は天皇賞・春とジャパンCを制して年度代表馬に選出された。確たる王者として新たな船出となったのが2017年の大阪杯。春の中距離王決定戦に位置付けられ、この年にGIへと昇格した一戦で、キタサンブラックはまたも盤石の強さを見せる。快速マルターズアポジーの逃げを、慌てず騒がず好位で追走。勝負どころからじわりと差を詰めて、直線で抜け出すと3/4馬身差という着差以上の強さで〝初代王者〟に輝いた。
この年はその後も、天皇賞・春をレコードで連覇し、対照的に歴史的な不良馬場で行われた天皇賞・秋でも快勝。引退レースの有馬記念は堂々たる逃げ切りで有終の美を飾り、2年連続で年度代表馬に選ばれた。オーナーとジョッキーが持っているスター性と相まってまばゆい輝きを放った名馬は、種牡馬としても初年度からイクイノックスを送り出して父子年度代表馬の偉業を達成。2年目の産駒からも次々と活躍馬が現れている。殿堂入りを果たしてもなお、その名声は高まるばかりだ。(記事初出は2023年3月)
■キタサンブラック 父ブラックタイド、母シュガーハート、母の父サクラバクシンオー。2012年3月10日生まれ。北海道日高町・ヤナガワ牧場生産。現役時の所属は栗東・清水久詞厩舎。通算20戦12勝。