【居酒屋ブルース】日曜中京11R
【日曜中京11R・チャンピオンズカップ】
ひいきの居酒屋では、お客さんの誰もがサッカー談議に夢中だった。
「堂安が…」
「三笘が…」
「大然が…」
「冨安が…」
「浅野が…」
「麻也が…」
「権田が…」
「田中碧が…」
なんで田中だけは碧(あお)をつけるんだろう…。いや、麻也も「吉田麻也」と呼ばれているか。
「ブラボー!」
これは長友佑都のドイツ戦に続いてスペイン戦後のインタビューでも言った言葉だね。ほかのお客さんもつられてブラボーの大合唱だ! ワールドカップが例年の日程だったら、今年の新語・流行語大賞の候補になっていただろうね。「ドーハの歓喜」も堂安の「俺のコース」もいいね。「ブラボー!」は汎用(はんよう)性があるから、候補になっていたら「村神様」の大賞も危うかったかもしれない。知らんけど。
「次のクロアチア戦は5日の24時キックオフ。その日は夜更かしするので、愛飲しているヤクルト1000を飲むのをやめよっと。勝ったら歓喜のきつねダンスを踊ろうかな。そういえば『青春って、すごく密なので』っていうのが新語・流行語の選考委員特別賞に選ばれましたが、カタールのスタジアムの観客もすごく密。マスクもしてないし」
バイトの桃ちゃんが、サッカー日本代表のレプリカユニホームにスマホショルダーを肩から斜めがけした姿で話しかけてきた。あと5つか。
「そろそろやめません。新語・流行語大賞のトップ10に入った言葉を全て使うのは無理ですって。キーウ、国葬儀、宗教2世、悪い円安なんて『居酒屋ブルース』でどうやって使えばいいんです? それに『てまえどり』ってなに? 比内地鶏や大山鶏みたく、どっかの産地の鶏? それに冒頭が先週とそっくりです。やっつけすぎてません?」
失礼だね。ワールドカップで日本が勝った直後ばかり来るから、他のお客さんがサッカー談議ばかりしているんだから仕方ないよ。僕だって、すぐに競馬談議に移りたい。だけど、国民的関心事になったサッカーにはかなわない。だから今週も、お客さんが少なくなるまでカウンターで一人寂しく琥珀ヱビスを飲んでいるよ。
それにしてもジャパンCは惨敗だった。本命にしたドイツ馬のテュネスは9着。ゲートに入るのにてこずったし、そのせいでイレ込んでだいぶ掛かっていた。あれじゃあ、勝てるものも勝てない。
外国馬の最先着はグランドグローリーの6着か。これでは、東京競馬場に国際厩舎を新設しても、賞金を増やしても―来年もまた1着賞金が1億円増える。5億円だ―外国馬の参戦は減ってしまうかもだね。
終わってみれば、外国人騎手が手綱を取った日本馬の1~4着。海外所属騎手の1~4着は、1982年の第1回、83年の第2回に続いて40年ぶり3回目だと知って驚いた。でも、前2回はどっちも外国からの招待馬による1~4着独占だけど、今年は日本馬による1~4着。鞍上の結果は同じでも、鞍下(馬)の所属はまるっきり正反対だ。ジャパンCは今や、強い日本の馬に海外所属の騎手が乗る時代になったわけだ。日本馬は強くなっているのに、世界のトップしか短期免許を取れないから当たり前とはいえ、騎手の技量は外国人のほうが上ということなんだろうか。そう考えると、ちょっと寂しい。
「反省会は終わりました?」
緑茶ハイのジョッキを片手に桃ちゃんが隣に座った。客はだいぶ減っていた。
桃ちゃんの本命シャフリヤールは2着か。まさか、藤原英昭厩舎の日本ダービー馬が、同じ藤原厩舎の最初のダービー馬エイシンフラッシュの子供に負けるとはね。
「これもドラマ。藤原調教師も『エイシンフラッシュに負けたね』って複雑な表情を浮かべた、って週刊Gallopに載ってました。そして私は馬連と3連複をしっかりゲット。いえーい!」
おめでとう。
「あざす。それよりLINEの人はどうでした?」
トリガミ。WIN5を当ててもそうだったって。僕の本命テュネスに「いいですね!のります!」という返事が来たから申し訳ないことをしたよ。
「当たり外れの話じゃないです!」
?
「LINEの人にごちそうしてもらうとき、私も同席させてくださいって頼んだことです」
ああ、そのことね。
「返事は?」
まだ聞いてない。このところ、サッカーのワールドカップやらなにやらで忙しくてね。今度、聞いておくよ。
そろそろ予想に移ろうか。
「じゃあ鈴木さんから」
クラウンプライドにした。
ドバイに遠征してUAEダービーを制して、ケンタッキーダービーに挑戦した馬。ケンタッキーダービーは先行しすぎたのがバテて大敗を喫したけど、帰国後の2戦は交流重賞で連続して2着だから現3歳世代のダート界ではトップクラスの実力なのは間違いのないところだ。しかも、日本テレビ盃は速い流れの中3番手を進み、続くJBCクラシックはスローペースで逃げたもの。先行すればペースにかかわらず好走できるのが強みといっていい。今回は新谷功一調教師が「今回は控える形を想定して、馬の後ろで我慢させる競馬を積んできた」と話していることから、好位でレースを進めるだろう。
前走の2000メートルより、今回の1800メートルのほうが実績を見ると向いているようだし、現に2着に6馬身差をつけて新馬戦を勝った舞台がここ。
今週号のGallopにある「血ェックイン」で、分析担当の中台翼記者が〈ダートの頂上決戦でありながらサンデーサイレンス(SS)系、ロベルト系、キングマンボ系といった芝の中距離血統が圧倒的に強い〉とつづり、〈SS系×キングマンボ系で傾向に合う◎クラウンプライドの番狂わせに期待してみたい。〉と本命にしている。
血統の後押しもあるし、過去10年の結果を見ると2、3番手からの競馬をした馬が好成績を残している。そうした競馬が楽にイメージできるクラウンプライドはここでも好勝負が期待できる。
桃ちゃんの本命は?
「ジュンライトボルトです」
攻めたね。テーオーケインズじゃないんだ。
「テーオーケインズが強いことはわかってますし軽視はできませんけど、連覇を狙った馬って過去10年で【0・1・0・3】(左から1着・2着・3着・4着以下)と今ひとつなんですよ。それよりは、チャンピオンズCでもヴェラアズールみたいな馬が出てくるんじゃないかな、と」
ヴェラアズールみたいな馬?
「ヴェラアズールって、デビューからずっと使われてきたダートで頭打ちになって、芝に転向させた途端に才能が開花したんです。芝の5戦目に重賞初勝利を挙げたら、続くジャパンCを制覇。ジュンライトボルトはその逆で、デビューからずっと走ってきた芝で頭打ちになってダートに転向したら、3戦目の前走シリウスSで重賞初勝利。その勢いに乗ってGⅠに挑戦です。ね、ヴェラアズールみたいでしょ?」
確かに。鞍上の石川裕紀人は若手の時からライアン・ムーアを手本にしていて、クリストフ・ルメールが「彼の騎乗はムーアに似ているね」と言っていたくらい。ヴェラアズールをGⅠホースに導いた鞍上ともダブるね。
「私が言いたかったのに」
ごめん。
「鈴木さんの印と予想がまだです」
◎⑩クラウンプライド
○⑤ジュンライトボルト
▲⑫テーオーケインズ
△①グロリアムンディ
△③ハピ
△④スマッシングハーツ
△⑨ノットゥルノ
《単勝》
⑩番 1500円
《3連複》
⑤⑩⑫ 1000円
⑩-①③④⑤⑨⑫-①③④⑤⑨⑫(15点) 各500円
好位から抜け出して鮮やかに勝って、鞍上の福永祐一が「ここがクラウンプライドのコース」って言ったら盛り上がるだろうね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
主な登場人物
ミチヤ…ひいきの居酒屋の店主。ずぶの素人から、どこまで競馬に興味を持ってくれるか
桃ちゃん…ひいきの居酒屋のアルバイト。馬券のセンスが抜群の競馬女子(UMAJO)。ちなみに、居酒屋ブルースのUMAJOは、酒場のあすピー→バイトのマヤ姉(ねえ)→桃ちゃんと変遷
LINEの人…謎の人物
※結果…(購入額)1万円→(払戻金)7万100円
「ここがクラウンプライドのコース」と言いかけた瞬間、メンバー最速の上がり(推定36秒2)で外からジュンライトボルト(3番人気)が襲いかかってきました。クビ差で1着ジュンライトボルト、2着クラウンプライド(4番人気)。そして3着にハピ(6番人気)が粘り込んで《3連複》140.2倍、的中です。鈴木学WEB編集長の本命がテーオーケインズ(1番人気)でなかった時点で番狂わせのような感じもしましたが、ブラボー!
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