1歳9月のビーアストニッシド。生まれ故郷でじっくり育てられたことで、その後の成長にもつながった(ヴェルサイユファーム提供) 元タカラジェンヌが営む牧場からスター誕生だ! 日本ダービーに挑むスプリングS勝ち馬ビーアストニッシドの生まれ故郷は北海道日高町のヴェルサイユファーム。宝塚歌劇団で活躍した経歴を持つ岩崎美由紀代表に愛馬への思いを聞いた。
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元タカラジェンヌが、ダービーのひのき舞台に愛馬を送り出す。ビーアストニッシドを生産したヴェルサイユファームの代表は岩崎美由紀さん。1980年代初頭に美雪花代の芸名で宝塚歌劇団花組のトップ娘役として活躍した異色の経歴の持ち主だ。「すごい舞台に出られるのは夢のような話。まだ実感が湧きませんが、知らない世界で頑張ってきたご褒美かもしれませんね」と声を弾ませる。
夫の小川義勝さんが2015年に亡くなり、経営していた牧場を引き継ぐことに。乗馬でサラブレッドには親しんでいたものの、馬産に関しては全くの素人。牧場の経営状態も非常に厳しく、周囲からは無謀な挑戦とみられたが、「厳しい宝塚で鍛えられて忍耐力とポジティブさがつきましたから」。〝ヅカ魂〟で苦境に立ち向かい、「自分の人生を懸けています。日々勉強ですね。ゆくゆくは凱旋門賞に行けるような馬を作りたい」と大きな夢を抱いている。
スプリングSを鮮やかに逃げ切ったビーアストニッシドは牧場ゆかりの血統馬だ。祖母ジョウノファミリーからはフェアリーSを制したライジングリーズンなど活躍馬が続出。母マオリオは不出走に終わったが、亡き夫の「(繁殖牝馬は)血統が大事」という言葉を思い出して母親としての可能性を信じた。
アメリカンペイトリオットとの間に生まれた3番子はなかなかオーナーが決まらず、同期が育成場に移動したあとも1歳の12月まで牧場に残っていた。岩崎さんは「1頭だけになってかわいそうでしたが、成長期の9、10月にウチでのんびりしていたのがよかったのかもしれませんね」と振り返る。
牧場の生産馬がダービーに出走するのは1991年のイイデサターン(12着)以来、実に31年ぶり2度目。「主人もきっと天国で喜んでくれていると思います。〝ビーアス君〟は距離適性などをいろいろと言われていますけど、まだ秘めているものがあると思うんです。すごい馬たちがそろう中でどんな走りをしてくれるか楽しみですし、頑張ってほしいですね」。当日は東京競馬場に駆けつけ、一生に一度の華やかなステージを目に焼き付けるつもりだ。(漆山貴禎)
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◆ヴェルサイユファーム 前身は故・小川義勝氏が1987年に設立した三城牧場。岩崎代表が「自分らしい名前に」との思いを込めて、宝塚歌劇団のヒット作『ベルサイユのばら』から2017年に現在の名称に改めた。主な生産馬にはミスパンテール(サンスポ杯阪神牝馬S)、トーセンシャナオー(セントライト記念)、ウインラディウス(京王杯SC)などがいる。
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ヴェルサイユファームでは引退馬を引き取ってその支援活動も行っており、分場のYogiboヴェルサイユリゾートファームではローズキングダム、タニノギムレット、ヒルノダムールなどが余生を過ごしている。「あれだけ頑張って走った馬たちの余生には、できるだけ責任を持ってあげたいんです。少しでも皆さんが共感してくだされば」と岩崎さん。〝ウマ娘〟ブームの影響もあり、引退馬支援の輪は着実に広がっている。
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