【日曜東京11R・ヴィクトリアマイル】
NHKマイルカップのゴール前、テレビでレースを見ていた僕は嫌な予感がしていた。
ダノンスコーピオンが抜け出し、横山典弘騎乗のわが◎マテンロウオリオンが外から伸びてきているのを見て、「ノリ、ノリ!」と画面に向かって応援しながらも、心の中では差し切れないと思っていた。
理由は、週中に読んだ、ある漫画を思い出したからだった。「ギリシャ神話通りになってしまうのか」と。
漫画とは週刊Gallopで好評連載中の「おってけ!3ハロン」。作者の松本ぷりっつさんは、今年のNHKマイルCを取り上げた第565回でマテンロウオリオンとダノンスコーピオンを登場させた。
「強敵は多いが…NHKマイルCをかつのはこのオレだっ」と豪語するマテンロウオリオンに「フン…お前は有名なギリシャ神話を知らないようだな」と言ったのがダノンスコーピオン。
「傲慢だった狩人オリオンは神の怒りをかい…神がはなったサソリにさされ息たえるんだ…」。そして、マテンロウオリオンを指さし、高笑いしながらこう言う。「つまりお前はオレにはかてないのだっ」と。
ゴール前でその2頭の勝負になったとき、「漫画の通りになる」と思ってしまったのだ。
馬券を買っている人間が弱気になったからではないだろうが、わが本命マテンロウオリオンはクビ差届かなかった…。
「NHKマイルCで、オリオンはサソリにさされるのでなく、サソリをさしきれず負けたわけですが…」
ひいきの居酒屋のカウンター席でエビスビールを飲みながら話していると、バイトの桃ちゃんが揚げ足を取ってきた。
細かいことは言わないの。重要なのはギリシャ神話同様、オリオンはサソリにかなわなかったというところだから。
この結果に、思わず松本ぷりっつさんに
「ぷりっつさんの漫画通り!」
「預言者((((;゜Д゜)))))))」
というメールを送っちゃったよ。
そうしたら、ぷりっつさんから「たまーに奇跡をおこすおってけ!3ハロンです。笑」という返信が届いた。
「松本ぷりっつさんて、アニメになった『うちの3姉妹』の松本ぷりっつさんですよね」
そうだけど。
「なんで知り合いなんですか?」
僕が週刊Gallopの編集長だったときに、連載を頼んだから。それ以来、ずっとお付き合いが続いているんだ。まあ、コロナ禍になってからは会っていないんだけどね(苦笑)。フースーチーの3姉妹とも東京競馬場で会ったことがあるよ。
「鈴木さんのプチ自慢話までは聞いていません」
はいはい。
「そういえば鈴木さん、ダノンスコーピオンにも印をつけていましたよね」
△だけど。
それでどうして馬券は取れなかったんです?
馬連はマテンロウオリオンからセリフォス、アルーリングウェイの2頭にしか流さなかったから。アルーリングウェイは桃ちゃんの本命馬だったよね。アルーリングウェイは8着だから、△◎で予想は当たった僕の方がマシだ。
「印だけ当てても意味はありません。馬券を外したら同じです」
厳しいね。
「競馬にはロマンがあふれていますが、馬券は当ててこそです」
リアリストだね。
「でも、私にはNHKマイルCの3連単は取れません。最低18番人気のカワキタリブレーが3着に来るとは! どういう人があの馬券を買えるんだろう……まさかLINEの人とか!?」
いや、駄目だったみたい。「川田は落馬した天皇賞の恥をここで取り返すのだ、と思いダノンスコーピオン頭で、2着マテンロウオリオンの3連単流しを買っていたのに、3頭分だけケチって。やっちまいました」というのが、泣き顔6個つきで届いた。他にもいろんなキャラクターが泣いているスタンプが貼られてきたよ。
「つまり、全部の馬に流していたら当てていたってこと?」
そうなるね。
「それは悔しいですね」
3頭だけケチって買わず150万円を取り損ねたんだからそうだろうね。
実はそのあとで気付いたんだよ。ヒントはその日の朝に行われたケンタッキーダービーにあったんだ、って。
「そういえば、ケンタッキーダービーも大波乱でしたね」
勝ったリッチストライクって、日本では20頭中19番人気だったけど、現地では最低人気だったんだよ。
恐らく大穴狙いの馬券師は、アメリカのGⅠで起きることは日本で起きても不思議ではない、という思考回路でカワキタレブリーも馬券に入れていたはず。もちろん単勝を買って悔しがった人もいるだろうけど。
「でも、鈴木さんはそうした思考回路は持ち合わせていない、と」
そういうこと。
「拍子抜けするほど素直ですね」
持っていないものを求めてもどうしようもないからね。自分ができることをするだけだよ。
「自分ができることをしても、その多くの予想が外れてしまうのが鈴木さん」
笑いすぎだよ。
「そろそろ予想に移りますか」
そうだね。NHKマイルCは僕の本命が桃ちゃんの本命に先着したから、今週は桃ちゃん、僕の番で予想を披露。さっそくよろしく。どの馬を本命にしたの?
「もちろんソダシちゃんです。芝1600メートルは、今回と同じ東京でアルテミスSを勝っているし、東京と同じく直線の長い阪神マイルではGⅠ2勝と合わせて全3戦3勝。最も得意としている距離だし、強い4歳世代の筆頭格といえる存在なので、ここでは負けられません」
なるほど。
「それと、週刊Gallopの『データで斬る《傾向と対策》』もソダシが本命なんです」
でも、Gallopの《傾向と対策》って、NHKマイルCでは駄目だったじゃん。
「今週は大丈夫。《傾向と対策》によると、過去10年で、GⅠを2勝以上していた馬はアーモンドアイとグランアレグリアが連勝中で、全成績も【3・2・1・6】(左から1着・2着・3着・4着以下)といいんです。しかもアーモンドアイとグランアレグリアは、ソダシと同じ桜花賞馬。GⅠ2勝以上のなかでも桜花賞馬は【2・0・0・1】で勝率67%と抜群の成績なんです」
参考にするよ。
「鈴木さんの番です。本命は?」
レシステンシアにした。
「高松宮記念でも本命にしていましたが、今回は1200メートルじゃなくてマイル戦ですよ」
そこが狙い目なんだよ。
「でも鈴木さん、私の『居酒屋ブルース』アーカイブによると、高松宮記念のときにこう言ってましたよ。〈競走馬というのは、年を重ねるほど血統の特徴が出るといわれる。レシステンシアの昨年のレースを見ると、マイルより明らかに短い距離にシフトしており、明け5歳になった今年はよりスプリンター色が濃くなるとみている〉。てことは、レシステンシアはスプリンターになっているとみているわけですよね」
まあそうだけど、実は今回、そこが狙い目なんだよ。
僕がそう思っているということは、多くの人がそう思っているはず。
「鈴木さん普通の人だから、たぶんそうでしょうね」
(苦笑)。高松宮記念で人気を裏切って、みんなが距離が長いと思われているマイル戦に出てくるのだから、人気を落とすのは必至。そこが狙い目。
「でも、終わってみたら『やっぱり距離が長かったか』と言って嘆いている鈴木さんの姿が目に浮かぶ」
笑いすぎだって(苦笑)。確かにマイルはベストではないかもしれないけど、絶対にこなせない距離ではない。ここがミソ。この馬のベスト距離は1400メートルだと思っているので、ペース次第では200メートル延長のマイルなら…。今回、メンバー的にこの馬が先手を取りそうだけど、松下武士調教師が言っているように「マークも薄くなる」はず。マイペースで運べれば、スプリント仕様が強くなっている今でもマイルはこなせるとみている。さらに木曜の夜からの雨で馬場が渋るようなら、前に行って自分のリズムで運べる、パワー十分のレシステンシアに有利に働くだろう。そう思っての本命だ。
鞍上の横山武史もそろそろGⅠで存在感を見せてくれる頃だろう。2週前は兄の和生が春の天皇賞を制し、先週は父が2着。今週は武史の番が回ってくるような気がする。
「鈴木さんの印と買い目がまだです」
◎⑦レシステンシア
○⑤ソダシ
▲②ソングライン
△①デアリングタクト
△⑪ファインルージュ
△⑬レイパパレ
△⑮アンドヴァラナウト
△⑯デゼル
△⑰シャドウディーヴァ
《単勝》
⑦番 1000円
《馬連》
⑦-②⑤ 各1000円
⑦-①⑪⑬⑮⑯⑰ 各700円
《3連複》1頭軸流し
⑦-①②⑤⑪⑬⑮⑯⑰(28点) 各100円
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
主な登場人物
ミチヤ…ひいきの居酒屋の店主。ずぶの素人から、どこまで競馬に興味を持ってくれるか
桃ちゃん…ひいきの居酒屋のアルバイト。馬券のセンスが抜群の競馬女子(UMAJO)。ちなみに、居酒屋ブルースのUMAJOは、酒場のあすピー→バイトのマヤ姉(ねえ)→桃ちゃんと変遷
LINEの人…謎の人物
カズマサ…夢の中の(?)ひいきの居酒屋の店主。馬券はデータ派。この居酒屋ブルースの世界から去っていった
琢磨…夢の中の(?)ひいきの居酒屋のスタッフ。好不調の波はあるが、馬券が当たると好調が続く。カズマサ同様、この居酒屋ブルースの世界から去っていった
もりやさん…夢の中の(?)ひいきの居酒屋の常連客。競馬とお酒が大好き。カズマサ、琢磨と一緒にこの居酒屋ブルースの世界から去っていった